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78 四季のストール

ハヤッタがマグナカリ王弟の宮殿に行くと、彼は寝室にいて、背を丸めて机に向かっていた。

 ハヤッタの姿を見ると青い顔をして、何か書いて渡した。

 そこには、 出かけるところを誰かに襲撃されたが、そこをブルフログが助けた。ブルフログと家来がその不届き者を追いかけていると書かれていた。

「襲った相手に、心当たりがおありですか」

 いいや。彼は強く首を振り、ハヤッタを押しのけて、逃げるように部屋を出ていった。


 ハヤッタは表情を曇らせながら執務室に戻り、ニニンドに、誰が殿下を襲ったと思うかと質問した。

「わかりません」

「そこにいたのは、たしかにジェットくんだったのか」

「リクイがそう言っています」

「そのジェットくんと思われる男が、王弟殿下を襲撃したと思うか」

「私達は屋根の上から見ていましたが、そういう様子ではありませんでした。逆です」

「何があったのだろうか。その彼がジェットくんかどうかということは、今、彼が所属部隊にいるかどうか調べればわかることだが」

「私がそこに行ってきましょうか」

「いやいや。ニニンド様は動かないでください」


 ハヤッタはジェットの所属先を調べ、伝令部隊のカヌンを呼んだ。フクロウのカヌンと呼ばれているのは小柄な若者で、彼とその弟は早馬の天才兄弟として知られていて、ニニンドもふたりの評判は聞いたことがあった。

 

 ハヤッタはカヌンに国境の師団まで馬を走らせて、ジェットがそこにいるかどうか確かめてくるように命令を下した。

「私も行きます」

 とニニンドが言った。

「ここは、カヌン兄弟にまかせよう。そのほうが速いだろうし、彼は暗闇でも目が見える」

 途中の駐屯地三ヵ所で馬を替えるが、カヌン兄弟は走り通すのだ。

「よろしく頼みます」

「司令官、我らにおまかせください」

 カヌン兄弟はただちに出発した。

「信頼できる優秀な部下がいることは、幸せなことです」

 そう言って、ハヤッタがニニンドを振り向いた。

「はい」

「殿下、そういうできる部下を探すのではなくて、育ててください。芽をもっている人はたくさんいます。育てれば、育ちます」

「はい」


 一方、ハヤッタの宮殿の前には、すでに精鋭隊の十二人がそろっていた。

「ブルフログは北のほうを目指して走っていったそうです。すでに捜索隊に追わせています」

「よし」

 

 ハヤッタは精鋭部隊を連れて、間髪をおかずに鬼が岳へ向けて出発した。

 ニニンドは部下に自分の馬を取りに行かせ、その間にリクイの様子を見に行った。リクイはすでに屋根から下りて、宮殿の正門の外でメモを取っていた。ニニンドは馬車に押し込まれた男性がジェットなのかどうか調べるために、ハヤッタがすでに早馬を出したことを伝えた。


「ここにいた人達に話を聞いてみたんだけど、鶯色の服を着た女性が、H国の王女だと名乗り、グレトタリム王に会わせてくれるように頼んでいたと言っている」

「それって、どういうことだい。H国の王女って、殺されたはずの姫のこと?」

「わからないけど、だから、あの人は兄さんと似ていただけで、兄さんではないと思う。兄さんは兵士で国境にいるはずだから、H国の王女と一緒だなんて、あるはずがないから」

 

 ニニンドの馬が引かれてきた。

「とにかく、リクイ、追いかけよう」

「うん。ぼくはスマンで行く」

「ロバは遅すぎるから、私の馬の後ろに乗って」

 

 ハヤッタが鬼ヶ谷に辿りついた時、谷底からすでに黒煙が上がっていた。馬車が転落したようだ。

「鬼ヶ谷」と呼ばれる場所は、右側が切り立った岩崖、左側が断崖絶壁で。地元の人々からも怖れられている場所である。

 馬車は山道の曲がりのところでバランスを崩して谷間に落ちていったようだ。ただちに、そこら一帯の捜索が開始された。谷の斜面は何層にも重なった草や、絡まる蔦が雨に濡れて膨れ上がり、新しい葉はすべすべで滑りやすく、捜査隊は上からのロープを腰に巻いて、谷底へと下りていった。燃え上っている馬車、馬は見つかったものの、一頭はもう息絶え、もう一頭も息をしているものの傷が重く、助かるかどうかは疑問だった。そして、人の姿はどこにもなかった。

 

 ニニンドとリクイが現場に到着すると、ハヤッタが下から泥まみれで上がってきたところだった。その手に、泥のついたストールを手にしていた。枝にひっかかっていたところを見つけたものなのだが、それには見覚えがある気がしていた。


 ニニンドが、女性のほうはH国の王女だと名乗っていたということを伝えた。

「ああ」

 やはりそうか、とハヤッタは両手を額に当てた。こんなことがあるのだろうか。


 この四季の刺繍がされているストールはある町に行ってナガノが選んだものである。H国の姫との婚姻の話が始められた時、サディナーレ姫へ届けた贈り物のひとつだった。乳母のオキオキンから、姫がこのストールをとても気にいられていると聞かされたことがある。

 

 ああ、あの姫様は生きておられたのか。

 今はどこに?


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