61 ジェットの決心
ジェットは第七師団の駐屯地に戻ると、すぐに仲間を集めた。そこには交代で国境の警備の仕事をしている約二十四人の兵隊がいた。
「みんな、よく聞いてくれ」
最近は給料が遅配の上、額が減らされていること。武器や弾薬、服や靴が支給されないこと。食料もだんだんと減らされていき、最近では全く送られてこない月もあったこと。三ヵ月に一度の郵便料金は二倍になったのに、配達されている様子がないことなどをジェットは訴えた。それは彼がずうっと思い続けていた疑問だった。
「みんな、何かがおかしいと思わないか」
ジェットはふーっと深呼吸をした。
「おれは、どこかの過程で、誰かが搾取しているのではないかと考えているんだ。だから、おれはこれから都に向かい、国王に直訴しようと思っている」
兵隊達はそうだそうだと頷き、何かがおかしいと声と拳を上げたが、
「そんなことをしたら、国賊として捕まり、大罪に問われるかもしれない」
というのがほとんどの声だった。これは危険すぎて、話にならないということで、一日目は終わった。
二日目もジェットは訴えた。
「現実を伝えて、どうして罪せられるのか」
という者がいたが、やはり「そんな話に巻き込まれて、罰せられたくはない」という声が大半だった。
「途中で発覚しても、みんなは、知らなかったことにしてくれ。この罪は、おれひとりのものだ」
三日目にジェットの親友が声を上げた。
「おれも、よくよく考えた。軍隊は道理では動いてはいない。服従か否か、そうではないのか。そんな危険を冒してまで、行く価値があると考えるか」
そして、キナンはジェットの肩に手を置いた。
「ジェット、それを覚悟できみが行ってくれると言うのなら、おれはできるかぎり、きみの不在を庇うよ」
そして、仲間に向かって言った。
「おまえ達はジェットがどんな人間なのかは知っているだろう。彼がおれ達のために、その命をかけて、訴えに行ってくれようとしているのだ。おえらは、どうする?見ないふりをして、黙っているのか。協力するのか、どっちだ。男なら、はっきりするんだ」
すると、ひとりの兵隊が立ち上がった。
「おれは自分ではやりたくてもできねぇんだ」と言って泣いた。
「おれはジェットに行ってもらいたい。ありがてぇ。だから、おれは協力する」
ともうひとりがどもりながら言った。
すると、ひとりふたり立ち上がり、そのうちに全員が立ち上がり、「おー」と拳を上げて賛同した。
ここから都までは徒歩なら一月半はかかる。本部から一ヵ月に一度上官がやって来て、支部の兵隊の点呼があるのだが、それを仲間がかばってくれるというのだ。
「キナン、ありがとう。それを頼みたかったんだ」
とジェットがキナンの手を握った。
「で、おまえはいつ出発するんだ?」
「すぐにでも、発たなければならない。急がなければならない理由があるんだ」
「理由?」
ジェットはキナンにサディナーレ姫のことを語った。
「信じられない話だけど、おまえが言うのだから、信じる」
「ありがとう。キナン、もうひとつ、おまえに頼みたいことがある」
「何でも言ってくれ」
「おれが心配なのはただひとつ、弟リクイのことだ。もしおれに何かあったら、おれが事実を訴えるために、宮廷に行ったことを伝えてほしい。田舎を出る時、リクイは手紙を書くと約束したのに、三年間に一度も届いていない。リクイはこれまで、おれとの約束を一度も破ったことがない。だから、手紙が届かないというのは、おれの手紙が届いていないからここの住所がわかっていないということになる。それがどこかで不正が行われていることの決定的な証拠なんだ」
「わかった」
「それに、姫をひとりにはしておけない」
「だから、急いでいるんだな。その姫はきれいなのかい」
「ああ。雪のように白い肌をしている。もっとも、雪は見たことがないけど」
そういえば、リクイは雪を見たことがあるような気がすると言ったことがあった。弟は夢を見たのだろうか。雪など、見たことがあるはずがないのだから。




