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123 タンタンの結婚

「タンタンの結婚、おめでとう」

 とリクイが言った。


「ラクダの結納はなかったけどね」

「そうなんだ」

 リクイの表情が曇った。

「いいの。タンタンはそんなの、ほしがっていないから」

「うん」

「婿さんは義父さんの弟子のヒジで、お金がないしね。タンタンはお金は自分で稼げるから、ラクダなんかいらないって。結納品はヒジが作ってくれたかわいい耳飾り。タンタンは、それをつけてとても幸せそうだったよ」

「それはいいね。タンタンはいい奥さんになるね」


「あのカノーラのこと、覚えてる?」

「結納に、ラクダを三百頭もらった友達だよね」

「それが、別れたのよ。旦那さんに金と時間ばかりがあっても、心がないというのは辛い。カノーラは金歯と離婚して、髪も茶色のちりちりに戻ったけど、前よりも元気。実家には戻りたくないって、タンタンのところで、働いている」


「タンタンのところで働いているのかい」

「そう。ひとりで生きていきたいんだって。タンタンには、三十人のお針子がいるんだよ。宮廷からも、刺繍の教育を頼まれているし」

「そうなんだ。カノーラさんの婚約者の家に、荷物を届けに行ったことがあったね」

「そう。あの帰り、リクイがナッツアレルギーになってあわてた」

「急に息ができなくなって、ぼくは死ぬかと思った。あの時、ぼくは初めてハニカ先生と出会ったのだったなぁ」

「人生はサイコロに似ていて、どうころがっていくのかわからないというけれど、あれは本当」



「タンタンはすごいな」

「あの子、指が天才的に器用だから。やる気もあるしね。タンタンはリクイが大好きだった。知ってた?」

「うん。とても親切にしてくれていた」

「嫌いだったの?」

「もちろん、好きだよ。服もたくさん届けてくれた。でも、ぼくは何も返してあげられなかった」

 リクイが申し訳なさそうに、下を向いた。

「リクイは勉強して、試験に受かるのが仕事だから、それでいいんだよ。たくさん返したよ」

「これから返す機会があるかもしれない。医者になったらね」


「タンタンは、リクイにとっては、妹だから仕方ないよ。わたしにはわかる」

 とサララが小さく頷いた。「わたしには、わかるよ」


 スープを食べながら、サララはニニンドの話をした。

 最近は毎日いくつもの会議が入っている上、肖像画のこともある。海の向こうから、著名なベッセケスという画家がやってきた。

「肖像画というものは、モデルがそこに座って、画家がそれを描く、と思うでしょ。それが、違うの、このベッセケスという画家は」

 どう違うのかとリクイは匙をもつ手を止めて、目をあげた。


「まず一緒に暮らして、朝から晩まで、その人を観察するの。どういう人なのか、どんな時にどんな表情をするのか、そこを見たいので、一日中、つけ回している。来てから一ヵ月も経つというのに、まだ下書きも描いていない」

「聞いたことのない話だね。市場の似顔絵なら、数分で描くのに」


「そこがこの著名な画家と、町画家の違いみたいだよ。できれば、一年か二年くらい一緒に生活してから、描きたいんだって」

「そんなに長くついて回られるのというは、辛いね」

「そう。かわいそう」

 やれやれとサララは顔をしかめて、鼻から息を吐いた。


「ニニンドは窮屈なのが一番嫌いだから、そんなに付きまとわれて、嫌がっているんだろうな。それに会議ばかりだというし」

「そう思うよね。でも、ニニときたら、けっこう、普通にしている。肖像画のこともそうだけど、養子縁組のことも、大量に引き受けなくてはならない仕事のことも、普通の顔をしてやっている」


「強いね」

「そうなの。こんな忙しいのに、王太子として広く公表される前には、Y国へ行って、座員たちの様子を見て来たいって言ってる。ニニが山賊をして隠れていた山とか、町で踊っていた場所に、わたしを案内してくれるって。それがハネムーンになるみたい」

「それはいいね」

「わたしもニニの手下にはすごく会いたい。爺さんばっかりなんだって。ナガノさまがついて来たいと言っていて、でもニニがぜったいにだめだと言っている」

「こっそりとついてくる可能性はあるよね」

「そうなの」

 ぷっとふたりが笑った。


「いよいよ結婚だね。ふたりの結婚式には出たかったけど」

「いいの。わたしたちのことは、ふたりで相談して、なんとかやるから、リクイは自分の道を進んで」


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