117 スノピオニの憤慨
スノピオニがふたりの子供を連れて、王宮正面の前庭に出た。広いところに出たので、うれしくなったルルピオニははしゃいで走り回り、弟のカイリンが母親の手を放して、とことこと姉を追いかけた。
スノピオニは天を仰いだ。追い詰められたこの気持ちを何も知らないほど、空は青い。
ここに、マグナカリがここにいたら、カイリンが走っているのを見て、どんなに喜んだことだろう。
マグナカリがいたら、私がこんなひどい目には遭うことがなかったはず。
国王を初めとして、誰もが、私が欲のためにマグナカリを利用したと思っていることだろう。
マグナカリがどれほど私を愛し、私が真心でどのように応えたのか、誰も知らないし、信じないし、考えてみたくもないだろう。
ブルフログはマグナカリの分身。マグナカリの声はブルフログの声なのだ。だから、その分身と子供を作ったとして、マグナカリの子ではないか。
もう、こんな国に住み続けることはできない。一刻も早く、立ち去らなくてはならない。しかし、財宝をどのようにして、どこに持ち出せばよいのか。それはブルフログが考えてくれるに違いない。これまでのように。
ブルフログよ、早く助けに来ておくれ。私たちのことは見守っていると言ったけれど、私が一番困っている時に、どこにいるのか。
私が宮廷で、どんな屈辱を受けたのかを語ったら、彼は黙ってはいないだろう。これまでのように、私に少しでも不快や屈辱を与えた者には罰と死を。誰も彼も、殺してほしい。
庭を一頭のロバがゆっくりと通り過ぎようとした。リクイとしてはもう少し時間稼ぎをしなくてはならないから、スマンの登場になったのだ。
「ロバさん」
とルルピオニが指をさして追いかけた。
スマンはルルピオニを振り返り、親しげのある目で、こっちにおいでおいでと首を振りながら、ゆっくりと歩いた。ルルピオニがスマンを追いかけて行くと、柱の陰から家来が二人駆け出て、子供を捕まえようとした。
「汚い手で子供に触るではない。そう言っただろうが」
スノピオニが大声で叫んで、駆け寄った。
しかし、家来がルルビオニを抱き抱えようとした時、彼が突然、悲鳴をあげて地面に倒れ、続いてもうひとりも倒れた。
何があったのだと控えていた者たちが見回すと、屋根にひとつの黒い影が見隠れした。
「あそこだ」
とひとりが屋根を指をさした。
「矢が飛んでくるから、気をつけろ」
宮中が騒いでいる間に、スノピオニはふたりの子を抱いて、門外に出た。しかし、待たせてあったはずの馬車がないし、お伴がひとりもいない。
「私が馬車を用意しましたから、どうぞ」
とリクイが馬車を引いてきた。
スノピオニに選択はなかった。親子三人が乗ると、リクイが馬車の助手席に座った。
「おまえも来るのか。なぜついて来るのだ」
スノピオニはリクイの背中を見て叫び、馬車の窓を叩いた。
しかし、誰も答えないし、馬車の扉も開きはしない。緊迫した様子を感じて、カイリンが泣き出した。
「お母さま、わたし、こわい」
ルルピオニが心配そうな瞳をした。
「大丈夫ですよ」
スノピオニが子供たちをしっかりと抱いた。
「これまでも、ずうっと大丈夫だったでしょう。さあ、おうちに帰りましょう。おうちに帰れば、こわいことなど、何もありませんよ」




