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113 スノピオニの参上

十四章

 その翌日、ついに、スノピオニが五台の馬車を連ねて宮廷にやって来た。


 それを待ち受ける宮廷側では、何度も予行練習をしたように、 一メートルの長い警棒を持った四人の門番が、先頭の馬車をしっかと止めた。


「通しなさい」

 とスノピオニが窓から顔を出した。


「王族の方以外の馬車は、この門から中へは入ることが禁止されている」

 門番のひとりで、棒暗記の口調で伝えた。


「私はただの客ではない。マグナカリ王弟殿下の賓客ひんきゃくであるぞ」

「それでは、拝謁の許可書を提示くだされ」

「なんだと。もし私をこのように取り扱うなら、どんな懲罰をうけるであろうか。さあ、早く私の来訪をマグナカリ王弟殿下に伝えなさい」

 門番のひとりが庭を走って行った。


「ところで、おまえの名前はなんという」

 スノピオニが何を訊いても、門番は耳を貸そうとはせず、ただ空を見上げている。


 ふん。勝手にすればよい。この私に対して、こんな無礼な態度をして、じきに後悔するぞ。

 スノピオニは後方に向かって合図を出したから、馬車の中から家来が次々と降りてきた。二十人ほどの男たちは武装している。


 しばらくすると、門番が息をきらして戻ってきた。

 母子三人だけは宮廷にはいることは許可されたが、家来は全員、外で待つようにとの伝言を述べた。


「なぜか」

「上からのご命令でございます」


「役に立たない者どもよ。ええい、見ておれ」


  スノピオニは馬車から降りると、男の子を抱いた召使いが続いた。

 その後から、花柄ドレスの小さな女の子が飛び降りて来たので、その袖をもうひとりの召使いいが捕まえた。


 門番は、乳母も召使いいも、門の中には入ることができないと告げた。

「なぜか」

「だから、三人だけと伝えたではないか」

「誰に対して、そんな口をきいているのか」


 その態度はなんだ。スノピオニはすでに頭のてっぺんまで血が上っていたが、しかしマグナカリ王弟に会わねばやり返すことができない。悔しさをかみ殺して、男子を自分で抱き上げた。


「マグナカリ殿下の宮殿はどちらだ」

「あっちだ」

 と門番が指をさした。

 スノピオニは平然とした顔をして、ゆっくりと、宮廷の正面玄関をくぐった。

 

 門の外に残された家来たちは、隠れていた王宮警察によって縄をかけられ、隔離された場所に連れて行かれた。その中に、ブルフログはいなかった。


 スノピオニは、片手で子供を抱き、もう一方の手で、女子の手を引きながら歩いたが、それはたやすいことではない。途中で、官女と従者が寄ってきて、子供を抱きましょうと申し出たが、スノピオニは恐ろしい顔をして、「下がれ」と一喝した。


 ようやくマグナカリの宮殿に着くと、玄関に随身らしき見た目のよい青年がでてきた。

「ご用件を賜ります」

「私達はマグナカリ王弟殿下の身内の者、殿下に会いに参りました」

「はい。お見舞いの方がいつ来てくださるのかと、お待ちしておりました」

「子供が病気でしたので、遅くなりました」

 ほら、殿下は待っておられた、とスノピオニはほっとして、涙が出そうになった。


「殿下の病気は重いのですか」

「今、お連れいたしますから、ご自分の目で見られるとよろしいでしょう」


 スノピオニは髪の乱れを整え、子供たちの服を直した。

「ここまでの行程で、もしなんぞの失礼がありましたなら、どうぞお許しください」

 と随身の青年が言った。


 失礼は大ありだ。あの門番たちの態度はなんだ、とスノピオニは訴えたいところだったが、ここは堪えた。

 もう少しでマグナカリ殿下に会える。会えば、すべてがうまくいくのだから。その時はあいつらに罰を与えて、ざまあみろと言ってやる。


「失礼ですが、マグナカリ王弟殿下とは、どういうご関係でございますか」

「私はマグナカリ殿下の妻、これらの幼きふたりは殿下の子供でございます」

「そうでしたか。失礼いたしました」


 その青年随身は恐れをなしたようで、何の質問もしなかった。

「では、こちらへ。マグナカリ王弟殿下のところに、ご案内申しあげます」


 さすが、殿下に仕える人間はしっかりと躾られているとスノピオニは少し気分がよくなった。

「そなたの名前は」

「リクイと申します」

「覚えておこう」

 リクイは子供を抱きましょうかと両手を差し出すと、スノピオニは男子を渡し、女の子の手を引いた。


「お子様のお名前は何でございますか」

「長女はルルビオ二、長男はマグナカイリンですが、カイリンと呼ばせている」

「ルルビオ二様に、カイリン様」

「覚えておくがよかろう」

「はい」


 長い回廊を歩く間、スノピオニはリクイに色々と質問をした。

「リクイ様でしたよね。そなたはどこで生まれて、どのように育ったのか」

「砂漠の生まれで、野菜など育ててまいりました」

「砂漠でも、野菜が育つのか」

「はい、なんとか」

「貧しい家だったのか」

「はい」


「そうか」

 スノピオニは悪びれなく、微笑んだ。


「そなたは、殿下の側近なのか」

「とんでもない。大勢いる家臣の中の、ただの下臣でございます」

「では、私が殿下に頼んで、もっとおそば近くで働けるように頼んであげよう」

「よろしくお願い申しあげます」

「まかせておくがよい」


 マグナカリの寝室まで来ると、きつい線香の臭いがして、ルルビオ二が入るのを嫌がった。

「この変な臭いはなにか」


 リクイは男子をスノピオニに返し、先に立って進み、王弟の寝台まで案内した。彼は寝台の上で、仰向けに寝かされていて、微動ともしない。音のない部屋に、ぎゃっというスノピオニの声が響いた。


「これはどういうことなのか」

「マグナカリ殿下は先日、ご病気のため、旅立たれました」

「どうして、それを早く言わないのだ」

 スノピオニがリクイの胸をぶった。


「王弟殿下のご薨去こうきょは国王のご命令により、禁秘なのでございます」

「それは、なぜか」


 カイリンが怖さを感じたのか急に泣き出したので、スノピオニが抱き上げて、よしよしとあやした。その時、「罠にはまったのではないか」という考が襲いかかり、スノピオニはその目を剥いた。


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