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111 忘れたくても、忘れられない

「この決心がサララとは全く関係がないと言いたいけど、そう言ったら、嘘をつくことになる」

 リクイは下を向いて、ふっと笑い、それからゆっくりと顔を上げてニニンドを見た。

 

「でも、ぼくは知っているんだ。サララがきみを振ったとしても、サララはぼくのところには来はしないってこと。だから、姉さんなんだって、言ってるだろう」

「どうしたら、これまで通り、きみがここにいてくれるのだろうか。そういうわけにはいかないのかい」


「ニニンドにはすまないと思っている。きみの助けをするために、国がぼくを招いてくれたことを知っている。ぼくはね、前から医者のような人を助ける仕事がしたいとは思っていたんだ。でも、なれるはずがなかった。でも、ここで一流の先生について勉強をさせてもらって、その上、給料までもらっていたんだ。だから、でも、それなのに……」


「国が才能を育てるのは当然の義務なのだから、そんなこと気にすることはない。これからも、才能はどんどん育てていくよ」

「きみはもうすっかり指導者の顔だね」


「司令官なんだぜ。私がきみなしでは、やっていけないと思っているのかい」

 ニニンドは涙をこらえてはみたものの、うまくいかなかった。


「私は子供の頃からひとりで荒っぽい連中を束ねてきたんだ。十六人だぜ。すごいだろ。今はもう大人なんだし、大事な奥さんを見つけたし、優秀な部下もたくさんいる。国を束ねることくらい、できないはずがないじゃないか」

「うん。国を束ねるくらい、朝飯前だよね」

リクイが笑って、すすり上げた。


「私は大丈夫だから。リクイは立派な医者になって、病気の人を助けてほしい。その方が、何十倍、何百倍もの意味がある」

「ありがとう、ニニンド」

「リクイ、感謝しているのはこっちだよ」

「それはない」


「私はリクイと出会って、こんなに誠実に、一生懸命生きる人を初めて見たんだ。こういうふうに生きるのが本当なんだって思った。ここからはちゃんとやるから、見捨てないでほしい」

「何を言っているんだい。見捨てるとか、そういうことはあるはずがないだろ」


「遠くに行って、新しい友達ができても、私のことを忘れないでほしい」

「ニニンドのことは、忘れたくても、忘れられないよ。きみのほうこそ、どんなに偉い人になっても、ぼくのことを忘れないでほしい」

 ニニンドが近づいて、その肩を抱いた。

「忘れたくても、忘れられない。リクイは親友だからね」


 リクイがここを去ったら、これまでのような日々はもうないのだという思いが、ふたりの中を走った。ここは通り過ぎなければならない通過点だとは分かっていても、胸に沸き上がって来る感情は、雨が降った後の濁流のようで、次の言葉がなかなか見つからない。


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