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110 親友

「リクイの気持ちは知っていた、でも、こんな時だから、サララに気持ちを伝えておきたかったんだ。何も伝えないで、この世から消えてしまうのはいやだ。だって、この思いは、私がようやくめぐり逢った最高のものなのに、それを伝えないで死んだら、この世には、何も残らないんだよ」

 ニニンドが手で口を覆った。


「ぼくだってさ、きみとサララの気持ちは知っていたよ。でも、ニニンド、きみはもてすぎるから、心配していたんだ」

「何が心配なんだい」

「サララが傷つくことになるのではないかってことだよ」


 ニニンドが口から手を離して、いいや、と首を振った。

「そんなことは、絶対にしない」

「……うん。ニニンド、きみを信じるしかない。親友を信じることにするよ」

「信じてくれ。私達はずっと親友だ」


 リクイが身体の向きを変えて、ニニンドを正面に見て言った。

「ぼくがきみのことを探していたのは、話したいことがあったからなんだよ」

「それは、なに」

「ぼくは西国へ行くことに決めたんだ」

「どうして」

「医者になるために」

「諦めたんじゃなかったのかい。私のせいなのかい」

 ニニンドが取り返しのつかないことをしてしまった人のように、顔を歪めた。

「いや、きみのせいじゃないよ」


 リクイは休みのたびにハニカ医師のところに手伝いに行っていた。アカイ村には医者がいないから、そこの医師になりたいと思っていた。しかしハニカが、医者という仕事の厳しさを語った時、リクイは自分には到底できないと断念したのだった。


 しかし、リクイはある日、心を決めて、突然ハニカのもとを現れ、できることなら医師になりたいと告げたのだった。

「ぼくは、すべてを患者に捧げようと思います」


「前に特別に厳しいことを言ったのは、きみの性格がわかっていたからなんだよ」      

 とハニカ医師が穏やかな声で言った。


「人は死ぬ。医師がいくらがんばっても、患者は死ぬ。いくらがんばっても、治療が悪くて、逆に死が早まることもある。そんな日が毎日続くとしたら、リクイくん、きみには耐えられるだろうか。きみは傷つきやすいから、死とはかかわりの少ない、たとえば子供を指導するような仕事を選んだほうがよいと思ったのだ。だから、神との約束のことを言ったんだよ」

 ハニカが大きく息を吸った。


「あの時は、患者の死が続いて、その上、恩になっていた者も死に、その最期にも会えなかったという辛い状況だった。長い経験を積んだ私でも、もう這い上がれないと思うほど参っていた時だった。だから、リクイくん、きみにはそんなつらい道ではなく、もっと安らかな道を歩いてほしいと思ったんだよ」

「ただこうやって生きていても、耐えられなくなるようなことはたくさんあります。ぼくには難しいかもしれないけど、今はその難しいことに、夢中で、向かっていきたいです」

 

 リクイが一度諦めたのに、再び医者になる決断をしたのは、旭夜町から帰った夜、サララがニニンドを殴りつけたところを見たからだった。サララの本気を見たと思った。サララはニニンドを愛している。


 ハニカはリクイの固い決心を知り、宮廷での学校が終わったら、留学してはどうかと助言した。しかし、リクイはこの国から離れるつもりは全くないし、外国で勉強する自信もない。そばで勉強させてくださいと頼んだ。

 しかし、きみならできる。やるべきだとハニカが強く勧めたのだった。


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