表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
109/132

109 帰宅

 夕方、大気が冷え始めた頃、旋風が蒸気のような大量の白い息を吐きながら、戻って来た。

 ニニンドが旋風から降りた時、厩舎の陰からリクイが突如現れたので、ニニンドは手綱をつかんだまま、その場に立ち尽くした。


「どこへ行っていたんだい」

  リクイが近づいて、きつい調子で言った。

 ニニンドは手綱を引いて、彼の前を無言で通りすぎた。


「今がどんな危機的状況にあるのか、知っているだろう。それなのに、無防備に出かけたりして、考えられない」

 リクイはニニンドの後ろをついて行った。

 

 ニニンドは何か言って旋風を世話係に渡したが、リクイには何も語ろうとしないし、目を合わそうとしない。

 ニニンドは早足で自分の宮殿に向かい、自分の寝室にはいろうとしたところで、リクイがその腕をしっかと掴まえた。


「どうして無視するんだ。ぼく達、親友ではなかったのかい」

 ニニンドがようやく足を止めて、振り向いた。

  リクイの顔は子供が泣き出す時のように歪んで、鼻が赤くなっていて、瞳が濡れていた。


「親友だから、言えないんだ」

 ニニンドが「ごめん」とリクイの両肩に手を回して抱いた。

 リクイがその手を、強引に振り解いた。


「言い訳の言葉が、見つからないんだよ」

 とニニンドが辛そうな表情をした。

「どうして」

「きみを傷つけてしまうからだよ」


「どこに行って来たの?」

「サララのところ」

 やっぱりだ。


「サララのところへ行くなら、言ってくれればいいのに」

「言おうとはしたんだ」

  ニニンドが大きく息を吸った。


「でも、リクイに言ったら、かんかんに怒って、絶対に止めるだろ。きみには怒ってほしくなかったし、止められたくもなかったんだ」

「ニニンド、今がどんな時なのか、きみが一番わかっているはずなのに。きみは命を狙われているかもしれないというのに」

「知っているよ。だから、そんな時だからこそ、……」

「生命より、大事なことがあるのかい」

「あるよ。リクイはなぜそんなに怒っているの。きみらしくもない」

「らしくもないって、どういうことだよ。ぼくだって、怒ることはあるさ」

 とリクイが床を蹴った。


「私はこうやってちゃんと帰って来たじゃないか。リクイ、もし、行き先がサララのところでなかったら、こんなに憤慨したかい」

「わからないよ、そんなこと。わかったのは、きみという人間は、こんな時にまでふらふらするということだ」

「こんな時だから、はっきりしておきたかったんだ。サララに申し込んだ」

「なにを」

「結婚だよ」

 えっ。

 

 リクイは思わず視線を外したが、すぐに戻して、ニニンドを睨みつけた。

「馬鹿にするなよな。サララを側室のひとりにでもするつもりかい?」

「正式な妻だよ」


「何を言っているんだい。サララが妃になれないことくらい、わかっているじゃないか」

「どうしてなれないと決めるの」

 とニニンドがリクイの肩を押した。「きみは頭がいいけど、そこが限界のようだな。私はできると信じる。私が王になったら、サララは王妃だ。そして私の王妃は生涯ただひとり」


「何とでも言葉では言えるから。本当なら、その証拠を見せてくれ」

「何を見せればいいんだい。それを教えてくれたら、何でも見せるから、言ってほしい」

 本気なのか。リクイはまじろぎもせずにニニンドの瞳を覗き込んだ。 


「行く前に、リクイの部屋の前までは行ったんだけど、伝えることができなかった」

「なぜ?」

 奇妙な沈黙の時間が流れ、それぞれが、次の言葉を捜して迷っていた。

「きみがサララを好きなのを知っていたからだよ」


「ぼくの何を知っているんだい。サララは子供の時から知っている近所に住む姉さんだから、もちろん好きだけど、きみみたいな、そういう好きとは違う。だから、心配しなくてもよかったのに」

「そうなのかい」


 そうだ、そうに決まっているだろ、とリクイが頷いた。

「探していたんだよ、昨日から、ずっと」

「心配をかけて、すまない」


 かろうじて瞳に溜まっていたリクイの涙が、頬を走った。

「リクイ、ごめん。本当にごめん」

  ニニンドがリクイを引き寄せた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ