104 二百点
「ニニが正直なのはいいけど、申し込みの言葉としては……」
「だめかい」
「だめというわけじゃないけど。もっと何か」
「わかった。待って」
こんなにことが早く進むとは思わなかったけど、なぜちゃんとした言葉を用意しておかなかったのだろうとニニンドは後悔した。ちゃんとした詩を用意しておけばよかった。
「楽しい時も、そうでない時も、サララとともに過ごしていきたい。道の途中で苦しみが待っているのなら、サララと苦しみたい」
こんなのしか思い浮かばない。よかったのかなぁ。
うん、とサララが小さく頷いた。
まぁ、いいけど。でも、サララだって、プロポーズにはもっとロマンチックな言葉が聞きたいのが本音。
「自分の希望ばかりを言ってしまったけど、サララと一緒になっても、私がしてあげられること はあまりないよね」
ニニンド、ここにきてへっぴり腰にならないで、とサララが腕組みをした。
「私にできることは、サララのことを思うこと、愛すること、それしかない。どんな時も思い続けるから、結婚してくれませんか。私はここから成長したい。サララが成長するのも、近くで見ていたい」
ニニンドが緊張した面持ちで、ゆっくりと言った。
サララが大きく頷いた。
「ニニのプロポーズに点数をつけるとしたら、」
「プロポーズに点数をつけるのかい、何点?」
「……二百点でした」
「千点満点の?」
「百点満点です。ありがとう」
それ、すごい点じゃないか。
「あれでよかった?」
「完璧。本当は、わたしはニニが生きていれば、それでいい」
「じゃ、いいということかい。私の妻になってくれるのかい」
「でも、わたしにできると思う?王宮で暮らせると思う?」
ニニンドができるよと自分を指さした。私だって、やっているだろ。
「宮廷には、いろいろな難しいしきたりがあるんでしょ」
「できるよ。できることだけやればいいんだ」
サララが目を瞬きながら、ゆっくりと頷いた。そうだね、できることをやるしかない。
「好きだよ」
とニニンドが言った。
ついに、その言葉がきた。
「好き」という言葉はただの単語ではない。魔力がある。その言葉一つで不安は消え、自信が生まれ、なんでもできる 気になる。ニニンドの目も鼻も口も、全てが好き。声も笑顔も、話し方も。そんな人が、自分を必要だと言ってくれているのだからね、がんばるしかないなとサララは思う。
「サララがキャラバンに行きたければ、行けばいい。縛られることはない。でも、かならずここに帰ってきて、旅で見たり聞いたり、学んだことを話してほしい」
「わかりました」
「戦争は決して望んではいないけれど、敵国が攻めてきて、戦争が始まるかもしれない。そんな時には、サララに宮廷で帰りを待っていてくれ とは言わない。ともにラクダを並べて、戦いに行こう。どう思う?」
ありがとう、とサララが頷いた。そういうの、いいね。そういうのが望み。
「こんなわたしのどこがいいの?」
サララは確認したい。
サララはインスピレーション、原動力なのだとニニンドは言いたかったけれど、ちゃんとしたことを言おうとすればするほど、適切な言葉が見つからない。言葉というのは、肝心な時にはなかなか出てこない。
「ぜんぶ」
とニニンドが言った。
「ニニ、ありがとう。でも、無理はしないで。そんなこと約束してくれて、でも、もし実現できなくても、わたしは責めたりはしない。わたし、ニニとがんばろうかな」
「約束は守るから、一緒に、がんばろう」
ニニンドはこれまで「がんばる」という言葉は嘘くさい気がして使ったことがなかった。
「がんばる」なんか、自分のスタイルには向いていないと思っていたけれど、自然に口から出て、自分はここから変わろうとしているのだと思った。
「そうだ、あの上まで行ってみよう」
と砂丘を指さした。




