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103/132

103 告白

「わたし、怒っていなかった。ただちょっと悲しかっただけだよ」

「ごめん」

 今度はニニンドがサララの瞳が濡れているのに気がついたから、次の言葉が出てこなかった。


「謝らないで。こっちこそ、しっぺをしたり、殴ったり。なんか、……わたしときたら、ニニに痛い思いばかりをさせている」


「そんなの、全然かまわない」

  ニニンドが自分の胸の中央を抑えた。


「好きなの?」

「えっ、 何が」、

 ニニンドの目が大きくなった。


「痛いのが」

「まさか。嫌いだよ、痛いのは嫌だよ」

  ちょっと笑いが出て、緊張が緩んだ。


「サララのしっぺは痛すぎだよ」

 あの時、やっぱり我慢していたんだとサララは今さら思った。涙目を隠していたんだ。


 サララが近づいて来て、ニニンドの袖を引っぱった。

「ごめんなさい」

 サララはニニンドの胴体に手を回して、強く抱きしめた。

 

 彼に何か特別に悲しいことがあって、会いに来たのだということを感じることができた。

「サララ、来てくれてありがとう。悲しませてごめん。ずっと会いたかったんだ」

「わたしも……、会いたいと思ってた」


 ふたりのそばには大きな砂漠が横たわっていて、そこから砂まじりの風が吹いていた。

 砂に音はないけれど、いつも何かしら風が吹いていて、それが砂漠の音なのだ。今日の風はひょーろひょーろと狭い筒を抜けるような、聞き慣れない音を立てていた。


「思うのだけれど」


 ニニンドの次の言葉がなかなか出てこない。

 なにとサララの瞳が訊いていた。


「一緒に……、一緒に、お互いを思いながら、生きてほしいと思うのだけど」

「ずっと一緒に生きていると思っていた。リキタとも、ニニとも」

「そういう仲間意識じゃなくて、もっと近くにいて」


「それって、申し込んでいるということ?」

 とサララの目が驚いていた。

 無理もない。ニニンドは自分でも驚いていたのだから。そういうことが言えた自分に。


「ニニは、わたしに、結婚の申し込みをしているの?」


「そうだよ」

 とニニンドがすまなそうな顔をした。


 他人のプロボーズの話は聞いたことがあるけれど、自分の場合には、こういうふうに、突然、 やってきたとサララは思った。

 

 ニニンドは謝って自分の気持ちを伝えるところまでは考えてきたのだけれど、一気にプロポーズまで行けるとは思っていなかった。


「サララがいなくては、前には進めそうにない」

「そんなことはない。ニニは何でもひとりでできる人だから」

「言い方を間違えた。もちろんひとりでも前には進めるけれど、ひとりでは進みたくない。サララと一緒に、進みたいんだ」

「それは。でも」

 

 ニニンドは、やっぱりだめだったかと思った。そうだよな。

「でも」という言葉が続いたので、まだ可能性はあるのかなと彼は神経を集中させた。

「わたしはニニの力になりたいとは思う」

 とサララが考えながら言った。


 これは承諾してくれたということなのだろうかとニニンドが思った。ただ協力してくれるということなのだろうか。


「こんな私と一緒になったって、苦労ばかりだよね。毎日、笑って暮らせるようなのんびりした日々はなどは待ってはいない。国は大変な状態にあり、問題は山積している。それに、明日は、生命がなくなるかもしれない」

 

 これって、覚悟がなければやめておけ、ということなのだろうかとサララは思う。明日、ニニンドの命がなくなるかもしれない、なんて考えるのもいや。


「ばっかじゃ」と言いかけて、サララは口を閉じた。


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