Memori-2 次期魔王
あの後俺たちはシーレを捕まえてから、俺を召喚した国「エントル」へ向かった。
魔王が家来を連れずに1人で城まで来たことと、魔王軍による死者がほとんどいなかったこともあり、魔王が町を襲ったという誤解は解くことができた。
幸いエントルの王様は話が通じる人で、俺とリリアの提案した同盟を快く承諾してくれた。むしろ首相に関しては、魔族と同盟を組めればもっと国が発展する、と、これからのことを想像してニヤニヤしていた。
人間の町や村をまとめてる国はエントルなので、本当の話が広まるのも早かった。
それと同時に、人族と魔族の交流も増えていった。
魔族の方は当然ながら、魔王自らが話をつけていて解決したそうだ。勇者パーティーである俺たちが魔族を殺さないように戦っていたのもあるが、そもそも魔族は生まれつきの能力が人間よりかなり高いから死者がかなり少なく、反対の声もほとんどなかった。
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「はぁ〜…やっと終わった―!!」
手に持った書類の束を机に投げおいて、俺は思いっきり伸びをする。
戦闘の日々が終わったと思ったら、今度は報告に関する書類や契約に関する書類の作成や整理に追われていたのだ。
(書類に囲まれる勇者って何なんだよーー!)
まあ、これで俺はやっと自由になったのだ。
問題はこれから何をするか、だな。
1度召喚されたら戻ることはできない、つまり地球に戻るという選択肢はない。
勇者パーティーのみんなは家族や友達と会っているだろうし…旅の途中で会った人たちに急に会いに行くのも迷惑だろう。
エントルの城の人たちは…堅苦しいしずっと作り物っぽい笑顔だから苦手なんだよなー。さすが貴族って感じ。となると他には…。
魔王城、行くか…?
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魔王城まで転移し、顔見知りの門番に軽くお辞儀をして中に入る。
魔王城とエントルの城の間を転移で移動できて、信頼もある俺が情報のやり取りや伝言をしていたため、魔王城には顔見知りの魔人が多いのだ。
まあ魔王とは事務的な会話しかしていないけどな…
とりあえず、魔王がいつもいる最上階に向かう。
俺が最後に見たときは魔王も書類の山に囲まれていたが…今は何をしているのだろう。
魔族領を管理しているなら、俺より書類仕事に慣れてそうだな。
最上階にたどり着いた俺は、扉を開ける。
「こんにちはーって、うわっ!?」
入った瞬間目の前に魔法でできた槍が飛んでくる。
「っぶね!急になんだよ!」
「ん?ああ、お前か。悪いな」
槍を飛ばしたであろう張本人が振り返る。
「怪我したらどうするんだよ!」
「入ってきたのがお前だったんだからいいだろ。まあ、もし怪我しててもフォルに回復させるしな」
出会ってすぐの真面目そうな魔王はどこにいったんだ…
「魔王様、私が回復できるのは骨折ぐらいまでですよ!?あまり頼ろうとしないでください!!」
魔王補佐のフォルが困った顔で文句を言う。フォルは、青い髪と目の角が生えた魔人だ。
水魔法を極めると扱えるようになる氷魔法を得意としていて、剣もある程度使えるらしい。
「2人は何をしていたんだ?見た感じ模擬戦に見えるんだけど…」
「ああ。書類仕事が終わって暇だったのでな」
俺は今さっき終わったのに、こいつは魔王の仕事と同時に進めながら数日前に終わっていたのか…
そんなことを思っていたら、涙ぐんだフォルと目が合う。
「勇者様!助けてください!魔王様ってばここ数日ずっと模擬戦しかしてないんですよ!!流石に必要なことは全て終わらせてるんですが…交代で相手をしていると言っても、魔王様には誰も勝てないのでみんな疲れきっちゃってるんです!」
困った顔のフォルに泣きつかれて困惑してしまう。
(魔王…もしかして暇なのか。まあ、人族とのいざこざがなくなったし優秀な部下も増えたらしいから、やることがないんだろうなー)
「そんなに暇なら趣味でも探してみたらどうだ?ゲームとか観光とか…案外スイーツ作りとか向いてるかもしれないぞ」
冗談のつもりでそんなことを言ってみる。魔王がスイーツ作ってたらギャップどころの話じゃないけどな。
「趣味…、げーむ…?すいーつ…?」
なぜか魔王が顔に疑問を浮かべている。
(普段はぜんぜん表情を変えない魔王が困惑するとか、珍しいな)
「ん?まさか知らないとかはないだろ?」
「いや、知らないな。人族特有の文化か?」
いやいや、魔王として小さい頃から英才教育を受けてるはずなのに!?
こんなことも知らないなんてことあるのか…?
チラッとフォルに視線を送って解説を求める
「えーと…魔王の立場は人族と違って血筋で受け継がれるんじゃなくて、実力で決められるんです。もちろん有名な血筋のほうが魔王になりやすいのですが…」
(あー、自分の息子を次の代の魔王にさせるために、こいつの両親が教育を徹底していたってことか)
「なので魔王様は、一般的に言う娯楽を知らずに育っておいでかと…」
「そんなことを知らないやつが実際にいたのか…」
魔法や魔族領に関してはドン引きするレベルで知ってるこいつがか。
お坊ちゃんってのも大変なんだな…
「ふむ…ちょうど暇になってたし、それをやってみるというのも1つの手か?」
それを聞いた瞬間フォルが硬直した。
可哀想だし、代わりに質問を投げかけておく。
「お前魔王だろ、業務とか色々あるんじゃないの?急にそんなこと言ってもいいのか?」
(まあ、俺も暇つぶしに付き合わせる気で来たんだけどな!)
そんな俺の質問に対して、魔王は即答した。
「なら、フォルを次期魔王に指名しよう」
「っ!?何を言ってるのですか魔王様!!」
…いいかもしれない。
勇者である俺を敬ったり恐れたりせずに話せる知り合いは魔王しかいないからな…。
「た、たしかにフォルは今の魔王の次に強いし、頭もよく回るしな。最適なんじゃないか?」
「勇者様!?」
くっ、後ろめたさでフォルの顔を直視することができない。
(ごめんな、フォル!でもこのままだと俺が1人で観光とかすることになるんだ!!)
流石にそれは虚しすぎる…!
「じゃあ決定、ということだな。よし、魔王の引き継ぎを宣言しに行くぞ」
「ま、待ってください!魔王様!」
…やっぱりあいつも暇だったのかな
とりあえず、フォルには頑張ってもらおう
エントルについての補足です!
晴人が召喚されたのは、エントルという国です。
人間側には何個も町や村があって、それらをまとめてるのがエントルになります。
エントルは獣人やエルフ、ドワーフなどの種族とも同盟を結んでいるから、人族領にも他種族がいます!
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