Memori-1 黒幕
俺、雨宮晴人は異世界から召喚された勇者だ。
高校3年生だった俺は、ある日急に異世界、エイデに召喚されるというファンタジーにありがちなイベントに巻き込まれた。そして、召喚された先の異世界で勇者だと言われ圧倒的な実力と強い仲間を手に入れた俺は、最終的に魔王城の最上階で魔王と一騎打ちをすることになった。
なんというか、これぞ王道、という感じである。…正直に言おう、ありきたりすぎる!!異世界ものが広まった現代では、ここまでテンプレのような作品の方が少ないってレベルで特徴がない。
元の世界に大した未練があるわけでもないが、ここまで新鮮味がないと流石につまらない。しかも、仲間が急かしてくるせいで観光などもできないまま最短距離でここまで来たのだ。
(この戦いが終われば観光とかできるのかな…)
やや場違いなことを考えながら、とりあえず魔王と向き合う。
魔王は黒髪で目が赤く、パッと見た感じだと俺と同じくらいの年だろうか。俺も勇者補正的なもののおかげで好印象なイケメンになっているが、魔王は冷酷さがありながらも「綺麗」という言葉が似合うタイプの美形だ。
魔王が魔法を放ち、戦闘が始まった。
相手は100%魔法攻撃タイプだ。接近戦に持ち込めればこちらに分があるのだが…
(流石に魔王ともなると そう簡単には近づけさせてくれないか…!)
実力はほぼ互角なのだろう。お互い大きなダメージを与えられないまま、小さな傷だけが増えていく。
(あーあ、これは長くなりそうだな…)
―――――――――
あれから1時間ほど経過しただろうか
お互い体力が減っていて動きが鈍くなっている
そのときだった
長時間の戦闘でついに限界が来た天井が大きく崩れてきた。
一瞬驚いたが、俺も魔王もこれぐらいなら避けられるだろう。
そう思いつつ視界に見知った顔が入ってくるのを見て俺は反射的に叫んだ。
「っ!?リリア!避けろ!!」
勇者パーティーの回復要因であるリリアが、落ちてくる瓦礫を見上げながら震えて立ち尽くしていたのだ。
俺の仲間たちは他の敵と戦闘していたのだが、リリアは戦闘が苦手だ、よけれるわけがない。
(くっ!この位置じゃ間に合わない!!他のやつらも距離が離れすぎている…)
間に合わないとわかりつつ必死に手を伸ばした俺の目に、ありえない光景が映る。
魔王がリリアを庇い背に瓦礫を受けていたのだ。
リリアは人間で魔王の敵のはずだ。しかも魔法特化型の魔王からしたら重い瓦礫はかなりのダメージだろう。
「なんで…お前が…!」
土煙が晴れてくると同時にかすり傷程度のリリアが目に入る
一方で魔王は、死にはしないがかなりのダメージがあったのか膝をついている。
「リリア!大丈夫か?」
「ええ…私は見ての通り大丈夫なんですが…」
リリアも困惑したような目でちらりと魔王を見る
「リリアを助けてくれてありがとう。だけど、なんで助けたんだ?リリアはお前の敵のはずだろ?」
なにか裏があるのだろうかと警戒しつつ疑問をぶつける。
「…私の目の届く範囲で死者を出したくないだけだ。さあ、もうこれで決着はついただろう。私を殺すがいい、勇者よ」
「は…?だってお前たちは、町を1つ滅ぼして罪のない人々を皆殺ししたはずだろ!なんで今さら…!!」
その瞬間、ずっと表情に変化のなかった魔王の目が少し見開かれる。
「何を言っているのだ勇者よ。30年間お互い干渉していなかったのに急に侵略してきたのはお前たち人族だろう?私たちは故郷と家族を守るために戦っただけだ。ましてや自ら皆殺しなどするわけがない」
(どういうことだ…??今回のきっかけは魔族が町を滅ぼしたことのはずだ。俺も崩壊した町を実際に目にしたのだ。)
いや…?思い返してみればその後の両軍の衝突では、重症になった人は多くても死者はほとんどいなかった。それはつまり、できるだけ殺さないように指示されていたということか…?
「えーと、人間の町襲ったことって…ある?」
「そんなこと1度もないぞ」
「じゃあ人間と戦うとき殺さないように気を付けてって言った…?」
「ああ。人族は魔族より脆いからな。」
(いい人じゃん!!誰だよ 魔王は残虐で冷酷だって言ったの!)
「でもだとしたら、誰があんなことをしたんだ…?」
「それについては私もわからないのだが…勇者よ、1ついいか?」
「うん?なにか心当たりがあるのか?」
「いや、そういうものではないのだが…私は人族たちが魔族領に攻めてきたとき、何回か使者を送ったのだが、毎回怪我をして戻ってきた。それについてはなにか知っているか?」
「使者…?俺一応勇者だしほとんどの情報は知らされてるはずだけど、使者が来たなんて聞いたことないよ?でもなんで…」
そのとき、部屋の大きな扉が勢いよく開いた。
(っ、殺気!?)
反射で俺は剣を構え、そいつが動く前に剣を突きつける。魔王も同時に魔術を発動し、黒い炎をそいつに向けている。
「わあ!?って、戦う音がしなくなったのになんでどっちも生きてるの!残った方の体力が戻らないうちに僕が倒すはずだったのに!」
入ってきたのは黒い羽が生えた白髪の男だった。
「あれ、たしかこいつって…」
「シーレ…?なぜお前が?」
たしかこいつは、魔王軍の幹部だったはずだ。
幹部なだけあってかなり強かったのを覚えているが…
「ん?もしかしてさっき言ってた使者ってこいつだったりする?」
「あ、ああ。シーレは転移魔法が得意なのでな。移動に時間がかからないし、もしものときは撤退ができるというのもあって、本人自らの提案だったぞ…ん?」
町1つ滅ぼせるぐらい強くて、使者が追い返されたと嘘もつけて、俺たちを倒したかったっていう動機もある…
俺と魔王は顔を見合わせる
『確定だね』
後書きの部分は読まなくても大丈夫ですが、話で出てきた内容の補足や裏話をしていこうと思っています!
晴人が召喚された異世界は「エルデ」という名前です。
よくある異世界と同じような設定なので、本文ではあまり詳しく書かないと思います笑
由来が気になった人は「エルデ ドイツ語」で検索すれば出てくると思います。名前とか決めるの苦手なので…許してください((
1話目でタイトルが黒幕っていきなりすぎるなって思ったんですけど、まあ大丈夫ですよね…?
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誤字脱字は教えてくれるとありがたいです(*´꒳`*)