第8話:護衛戦闘・第一次交戦
風が吹いた。
乾いた砂と微細な鉄粉が混じり合い、視界の端を霞ませる。
レイヴンのメタルコアは補給トラックの左側を警戒しながら並走していた。
『周囲の通信帯に変調。先ほどの微弱ノイズと一致。敵性機の存在確率、71%まで上昇』
アイリスの冷静な報告に、レイヴンはライフルのトリガーを軽くかける。
「くるか……」
「妙に静かだと思ったら、やっぱりな」
右側を並走していたカイロスの通信が入る。軽口混じりだが、声色は緊張に満ちていた。
次の瞬間だった。
崩れかけた高架橋の裏側から、砂塵を蹴散らすようにして複数の機影が現れる。
四脚型の砲撃機を中心に、両脇には中量級の二脚型が並ぶ。全機無人、明らかに連携行動を取っていた。
『敵機確認──四脚砲撃型一機、突撃型二脚機二機。全機AI制御。武装構成、重キャノン、ミサイルランチャー、近接ブレード。交戦レベル、B+』
アイリスが警告を発する直前、四脚機の砲塔がレイヴンにロックオン。
『回避! 対物キャノン照準──』
砲撃と同時に、レイヴンは機体を右へ急激に跳ねさせた。轟音と衝撃波。爆風が地表をえぐり、トラックの側面をかすめて砂煙を上げる。
レイヴンは着地と同時に反撃。ライフル数発を正確に撃ち込み、四脚の前脚を一部損壊させたが、致命傷には至らない。
カイロスがすぐに援護に入る。「俺が突撃機の片方を引きつける、残りは任せた!」
二脚機の一体がブースト全開で突っ込んできた。レイヴンは迎撃体勢に入るが、四脚の支援射撃がかぶさり、立ち位置が制限される。
避け切れず、右肩に砲弾の破片がかすめた。警告音。ミサイルユニットのカバーが半壊。
『損傷率、7%。機能制限:軽度。戦闘継続可能』
「……この数で連携も取れてる。只者じゃないな」
レイヴンは一瞬、深呼吸をする。
その直後、視界がわずかに“色づく”。
『──ゴーストアイ、反応値上昇』
敵の動きがスローモーションに見えるわけではない。ただ、次にどこへ動くか“分かっている”感覚が全身を走る。
回避。
ブースト。
四脚の死角へ滑り込む。
ブレード展開。胴部へ突き立てる──。
爆発音。メタルコア級の重装甲が引き裂かれ、四脚機が崩れ落ちた。
すぐに次の一体がミサイルを連射してくる。
カイロスの機体がかわしきれず、左脚を損傷。「っ……まだ動ける!」
レイヴンはロケットを一発、敵の側面へ。
命中。
爆煙の中から飛び出すように接近し、ブレードで関節部を断ち切る。二脚機が転倒、そのまま機能を停止。
残る一機は、退路にいた。
だが、逃がす気はなかった。
ライフル二発。首部センサーを破壊。
直後、ミサイルが暴発。機体が自爆に近い形で崩れた。
沈黙。
『三機すべて、機能停止を確認。被害状況、軽度損傷一名。護衛対象は無傷』
レイヴンは、静かに息を吐いた。
「……意外と手こずったな」
カイロスが苦笑交じりに言った。「あれ、連携してやがった。AIにしちゃ動きが良すぎる」
『補足情報──敵機の制御コアに、不正プロトコル反応。通常の軍用AIでは検出されない制御指示群がログに記録されています』
レイヴンはわずかに目を細める。
『敵機残骸より、制御コア回収ログを取得済み。後ほど詳細解析可能』
「……何か引っかかるな」
まだ、戦いは終わっていない──そう感じさせる何かが、空気に残っていた。