第7話:補給物資の輸送護衛
格納庫の天井が開き、朝の光が差し込んでいた。
レイヴンのメタルコアはゆっくりとリフトに乗せられ、出撃準備を終えた状態で搬送されていく。肩部には改修された補助弾倉、内部にはフルチャージのエネルギーと新品の弾薬。
今回の任務は、都市間を移動する無装甲の補給トラック二台の護衛。発注元はティエル物流合同。ルート上には無法地帯を複数通過する危険があり、二機編成での護衛体制が組まれていた。
『ノックス都市北端、待機ポイントに到着。護衛対象トラックと随伴機、共に現地で確認済みです』
通信越しに、アイリスが淡々と報告する。
すでに現地には一機のメタルコアが待っていた。中量級、灰色の装甲、両肩に標準型キャノンを装備し、胸部にはハルツェイン・セキュリティのエンブレムが刻まれている。
『所属確認。企業所属機体:AS-019。コールサイン“カイロス”』
レイヴンが無言で接近すると、カイロスから通信が入った。
「お、君がもう一人の護衛か。よろしく頼むよ、レイヴンだっけ?」
「名前は教えていないが」
「企業からは共有されてるんだよ、最低限の情報はな。俺はカイロス──まあ、現場では気楽に呼んでくれ」
「……了解した」
レイヴンは必要最低限の応答だけを返す。
そのやり取りを横目に、二台のトラックが出発の準備を始めていた。
そして十五分後、すべての出撃準備が完了し、輸送部隊はノックス都市を後にした。白地にティエル物流のロゴが入った無装甲トラックが、ゆっくりと自走式ランチャーから道路へと滑り出す。
『現在より輸送ルートに入ります。全長およそ二百八十キロ。通過ポイント三箇所、うち二箇所が無法地帯に該当』
『予測される敵性活動の発生率、47%。敵機出現時は即応し、必要に応じて報酬交渉を行います』
「ティエル側とは通信リンク常時接続中。万が一敵が現れた場合、アイリスが報告・交渉にあたる」
「報酬交渉までAIがやるとは、随分便利な時代になったもんだな」
カイロスの口調には軽さがあったが、その言葉の裏にわずかな警戒も混じっていた。
メタルコア二機とトラックは都市ゲートを抜け、廃棄された舗装路をゆっくりと進んでいく。
乾いた風が吹きつけ、砂煙がブースターの排気口をなぞる。
『次の通過区画まで約三十キロ。周辺環境は過去に複数の小規模戦闘記録あり。現在、敵性反応は確認されていません』
「静かすぎるな」
『一点、微弱な通信ノイズを検知。ジャミング装置、または旧式通信帯の可能性があります。誤作動の可能性も排除できません』
「念のため、射撃待機」
「こっちも合わせる。少し嫌な感じがするな……」
トラックは平然と進んでいたが、レイヴンの視線は常に周囲に向けられていた。
その時──風に紛れて、かすかに機械駆動音のような反響が聞こえた。
レイヴンは即座にライフルを構えた。
今、確かに『何か』が、砂塵の向こうで動いた。