第5話:任務報告
格納庫へ戻るリフトがゆっくりと下降を始めた。
機体の脚部には粉塵がこびり付き、装甲の一部には焦げ跡が残っているものの、全体としては軽微な損傷で済んでいた。
『降着完了。ECSログおよび戦闘記録、送信開始』
アイリスの声が響き、正面モニターには任務の処理進捗バーが淡々と進んでいく。
コンテナ型の整備ドローンが左右から近づき、補修作業を始めていた。
通信が開かれ、ヴァルドの声が届く。
「上出来だ。ファルテス相手なら、あれで十分すぎる」
「感触は悪くない。反応速度にも問題はなかった」
「ECSも安定して作動してたな。ブレード突撃の直前、ゴーストアイを使ったろ」
「……少しだけな」
「ログに残ってる。周囲の挙動が不自然なまでに明確だった。企業側の技術班が突っ込んでくるかもしれん」
レイヴンは応えなかった。
『任務ログ再生──実戦評価テスト:ファルテス・プロトタイプ03との交戦結果、目標撃破確認。総合評価:A-。戦闘時間、約四分。損傷率:軽微、弾薬使用率:22%』
『報酬内訳を表示します。基本報酬:二万五〇〇〇シェル。加算報酬:無し。減額項目:無し。本依頼はクライアント側が弾薬・燃料費を全額負担。最終入金額:二万五〇〇〇シェル』
表示された金額に、レイヴンは小さく眉を動かした。
機体の右肩ユニット──補助弾倉とミサイルを少し改良しようとすれば、軽く一万五千は飛ぶ。
「……破損は軽微だったからか。加算なし」
『依頼成功時の加算対象には、損傷率や収集ログの質が影響します』
実戦とはいえ、これはテストだった。報酬は決して悪くないが、潤沢でもない。
ヴァルドが通信越しに笑った。
「稼ぎたければ、次を選ぶんだな。アイリス、候補依頼を表示してやれ」
『現在、受注可能な依頼ログを三件確認。再生します』
──ログ1:ランクE/依頼名:都市境界監視任務。発注元:イーストライン市治安局。報酬:一万五〇〇〇シェル。特記事項:無人センサー再設置作業あり、夜間任務、敵性反応は低予測。
──ログ2:ランクD/依頼名:補給物資の輸送護衛。発注元:ティエル物流合同。報酬:三万二〇〇〇シェル+成功ボーナス最大六〇〇〇シェル。特記事項:途中経路に複数の無法地帯通過ルートあり。護衛対象は無装甲トラック二台。
──ログ3:ランクD/依頼名:民間施設警備支援。発注元:ミラコテック社。報酬:二万シェル。特記事項:施設への抗議団体出現予測あり。戦闘行為は禁止、抑止目的限定。
レイヴンは目を細めて画面を見つめた。
どれも危険度は低め。だが、報酬も低め。
「……護衛任務。条件確認を」
『了解。出発地点、ノックス都市北端。出撃準備にはおよそ二時間が必要です』
「早いな」
『目標地点までの所要時間、ブースト使用時でおよそ十七分。燃料消費率:標準値の一・二五倍。補給が必要になる可能性があります』
ヴァルドの通信が再び入った。
「お前の戦い方なら、実戦型より護衛の方が合ってるかもしれんな。……まあ、次も軽い依頼で慣らすといい」
レイヴンは短く頷いた。
『それと、収支的には黒字です。今回の報酬で補助弾倉の改修が可能です。なお、私の意見としては──』
アイリスが一拍置いてから、さらりと言った。
『戦闘効率の向上には、火力増強が最も即効性があります』
「……判断はこっちで下す」
それでもアイリスは、無感情な声色で再確認するように呟いた。
『了承』
レイヴンは、再び静かにコックピットのモニターを見つめた。
傭兵としての生活が──静かに、しかし確実に再び動き出していた。