第4話:戦闘開始
リフトが停止し、レイヴンの機体は試験区域の中央に着地した。脚部から伝わる着地の衝撃は緩やかで、サスペンションと制御装置が的確に吸収している。
四方に視線を巡らせる。崩れた遮蔽物、ひび割れた地面、風に舞う砂塵。かつて演習場だった場所は、すでに戦場の顔をしていた。
『敵性反応、接近中。目標ファルテス、東側から進行。距離、一二〇〇』
「視界に入った。動きは?」
『予測ルートを表示。直線加速後、右旋回。機動性は高めですが、回避パターンに規則性が見られます』
レイヴンは右手のトリガーを軽く引く。ライフルの照準器が光を放ち、ターゲットを捉えた。
ファルテスの姿が見える。漆黒の外装に、紅い光を放つ単眼。人型を模したようなフォルムながら、無人機特有のぎこちない動きが不気味に映る。
「動きがぎこちないな。AIが迷ってる」
『プロトタイプの特性でしょう。挙動修正処理が多すぎて、指令の反映が遅れています』
「それでも……撃ってくるぞ」
敵機の肩部から飛び出したミサイルが、白煙を引いて迫ってくる。レイヴンはすぐに操縦桿を引き、ブースターで後方に跳躍。
爆炎が視界を遮る中、横へと回避しながら反撃に出る。
ロケットを一発。炸裂音と共に衝撃波が広がるが、ファルテスはその間隙を縫って体勢を変えていた。
『ECS、軽度の衝撃を確認。耐久限界には至っていません』
「使えるな……」
ライフルを連射。銃弾がファルテスの右脚をかすめ、弾道が跳ね返される。
『相手の防御フィールドは確認できません。装甲材の強度による反応と推測』
そのままレイヴンは接近戦へと移行。左腕のブレードが音もなく展開される。
一気に距離を詰め、ファルテスの側面へと飛び込む。
ブレードが赤く光り、敵機の胴体を浅く裂いた。
火花。異常音。ファルテスは大きく後退し、バランスを崩す。
「仕留める」
レイヴンはトドメのロケットを撃ち込んだ。
爆煙とともに敵機の動きが完全に止まり、黒い機体が崩れ落ちた。
『戦闘終了。ファルテス、機能停止を確認。記録データの送信を開始します』
「……問題ない」
レイヴンは静かに呟き、次の戦いに備えるように視線を前へと向けた。