第9話:残響
戦闘が終わっても、空気の重さは消えなかった。
崩れた機体の残骸が、風にさらされて軋む音を立てる。
焦げた金属の臭いと微細な煙が、戦場の名残を物語っていた。
レイヴンのメタルコアは、静かにライフルを下ろして敵の残骸に近づいていく。
『制御コアのスキャンを開始。損傷はあるものの、情報層の一部にアクセス可能です』
アイリスの報告に続き、カイロスの通信が入る。
「見事だったな。正直、あれほど連携してくるとは思わなかった。あれ、絶対普通の量産AIじゃねえよ」
「……動きが人間に近すぎた。読みづらかった」
『制御プロトコル内に、非企業規格の暗号群を確認。指令系統が二重に構成されており、通常の無人機とは異なります』
「外部からのリアルタイム制御って可能性は?」
『現時点では断定できません。ただし、指令ログには一部“上書き痕”が存在します』
レイヴンは、敵機の頭部──センサー群が破壊された部分を見下ろした。
その表面に、薄く“印”のようなものが焼きついていた。
「……エンブレムか?」
だが、すぐに砂が吹きかけて痕跡は掻き消えた。
そのとき、運搬トラック側の通信が開いた。
『護衛各機へ。ルート変更提案──この先十五キロ地点に、建設中の企業前哨施設が存在。現時刻をもって一時避難および補給を推奨』
カイロスが言う。
「企業基地か。損傷チェックとログ整理にはちょうどいい」
「了承。移動する」
レイヴンたちは、残骸から一歩引いて再び進路を取った。
数分後、道路は舗装の切れ目から未整備区域に入り、草の根すら見えない赤茶けた地表へと変わっていく。
そこに──風に半ば埋もれた、古い施設跡が見えた。
壁は朽ち、出入口は崩落している。
だが、施設の隅に並べられた骨組みのような影。
『敵機残骸、複数確認。先程と同型のもの。いずれも機能停止状態』
「……あの連中、ここで展開されてたってことか?」
レイヴンの言葉に、アイリスが応じる。
『この地点は、ティエル物流の登録ルートにも企業データベースにも存在していません』
レイヴンは短く息を吐いた。
「じゃあ、誰がここに“置いた”んだ」
誰が、何のために。
その疑問は、静かに風に流されていった。