プロローグ:亡霊の目
はじめまして、黒鋼ユウトです。
本作は、砂漠化が進んだ未来の地球を舞台に、企業が支配する戦場を生きる傭兵の物語です。
主人公は冷静で無口な男ですが、戦場と機体を通して”何か”を見つけていきます。
ハードな戦闘、機体カスタム、静かな熱さを詰め込んでいきます。よろしくおねがいします。
―戦場は終わっていた。
砂嵐と爆炎が視界を曇らせ、焦げた鉄と焼けた砂の匂いが重く漂う。かつて街だった場所は、今や瓦礫と焼け跡しか残っていない。
その中心に黒い虚栄が立っていた。
重装甲に覆われた二足歩行型兵器。肩に搭載された巨大砲門が、まだ熱を帯びていた。
その圧倒的な存在感の前に、多くの機体が沈黙していた。
―ただ一機、動かないまま、かろうじて形を保っていた量産機《GARMー02》のコックピットに、レイブン・クロウはいた。
警告音が鳴り響く中、思考は妙に静かだった。
黒い砲塔が、こちらを向いた―—その瞬間、距離、角度、砲身の熱、僅かな起動音。全てが、はっきりと”視えた”。
まるで世界が遅くなったかのような錯覚。意識よりも先に、手が操縦桿を動かしていた。
GARMは跳ねるように横へ飛び、直後に砲撃が着弾。後方のビルが閃光に包まれて崩れ落ちる。
避けた――いや、”視えていた”。
限界を超えた機体に、それでも指は応え続けた。回避、移動、照準。神経と機体が、完全に同調していた。
だが――次の瞬間、
”視えなかった”。砲門が一斉に光を放ち、世界が焼き尽くされるような爆風に飲まれた。
左腕部が消失。左足の関節が砕け、視界がぐるりと回転。
――沈む意識の中、最後に見えたのは、
漆黒の巨体が放つ、赤い瞳のような光だった。
* * *
――それを、遠方の観測映像で見ていた男がいた。
無人ドローンが捉えた戦闘記録。量産機ではあり得ない反応速度。通常の神経接続では到底不可能な起動。
男——ヴァルドは目を細めた。
「…やはり、”視ていた”な」
神経層のシンクロ波形を呼び出す。そこに現れたのは、かつての禁忌の名残——
”Ghost-Eye"
正式名称は忘れ去られた。だが、彼らはそう呼んでいた。
視ることで、動き、回避し、先手を取る。通常の人間には到底制御できない”感応反応”——
そして、記録上は失われた技術。
「生き残ったか…レイブン・クロウ」
男の声に迷いは無かった。
「回収班、座標を送る。最優先で確保しろ」
これは偶然ではない。因果だ。
自らが生み出し、止められなかった《デウス・ヴェール》。その過ちを終わらせる鍵は、あの傭兵の中にある。
戦場に再び現れた”亡霊の目”を、見届けるために。
最後までお読みいただきありがとうございます。
本作では、ただのロボットバトルではなく、傭兵たちの選択や信念にも焦点を当てて描いていきます。
次回から、主人公レイブンの”再起”が始まります。
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