第7話 レオナルド・ハワード
怪我人に近づいた時、バチッ!と雷の攻撃を受ける。
「痛っ!」
『愚主どうやら雷の結界が張られてるようです。これのせいであの熊型の獣もトドメを刺せなかったかと』
「あの人の横に地面に刺してあるボロボロの剣が発信源か…」
ボロボロの剣を中心に半径3mで展開されている。
その横に銀色で短髪の男が血を流し倒れている。
「しかたなか!ぶっつけ本番で魔法を使うしかなか!」
魔法の使い方はアストラル体に記憶されており、それに基づいて使用しようとする。体内の魔力に集中し、右手を上げ右手に魔力を移動させるようにする。
「【分解】」
瞬間、雷の結界は霧のように消えた。
消えたのを確認し、怪我人に駆け寄る。
「おい!あんたしっかりしろ!」
「…」
返事はないがかろうじて息がある。
それにしても酷い怪我だ。腹部を裂かれており良く死ななかったものだと思う。
ユリウスはまた体内の魔力に集中し、先ほどと同じ様に右手を腹部に当てて別の魔法を行使する。
「【再生】」
瞬間、怪我が修復されるが傷跡が残った状態で修復される。体内の血も再生され出血死は免れたがまだ魔術と違うため傷跡も再生させれなかった。だがなんとか一命を取り留めたことに安堵する。
「何とかなったけど、制御が難しかね〜傷跡残っとうし…訓練が必要やね!」
『初めてにしては上出来では?』
「そうやね」
『それにしても愚主、このままの状態ではいけないのでは?血の匂いで他の獣が寄ってきますよ』
「そうやね。食えるかもしれんけん収納しときますか」
ユリウスは収納する為熊型に近寄りふと思う。
「そういえばこの熊さん何ものやったんやろうね〜」
『愚主そういう時の為にスキルを貰ったのでは?』
「あっ!そういえばあったね!」
『愚主…忘れてたのでは?』
「えっ?そ、そんなことなかよ!使い所なかったけん使わなかっただけで…」
『使い所沢山ありましたよね?ただ単に忘れてただけでしょうに!』
「そ、それじゃあ早速使ってみようかね!【鑑定眼】」
『はぁ~これだから愚主は…』
種族:クラッシャー・ベアー
性別:オス
年齢:30歳
詳細:魔獄の森に生息するAランクの魔物。一匹で街一つ破壊することができる力を持っている。食用可能。
「こりゃー強いわけやね」
『魔物ですか…』
「見えるんかい!」
『万が一の為に愚主のアストラルに接続しておきましたので』
「抜け目なかね〜さあ!収納、収納っと」
左手のブレスレットの紫玉に触れクラッシャー・ベアーを収納する。
「これって自分も鑑定できるやろうか?」
『今更ですか……』
ふと思い自分に鑑定をしてみるユリウス。
名前:ユリウス・グレイベン
種族:人族(義体)
年齢:39歳
職業:調停者
スキル:【鑑定眼】【分解魔法】【再生魔法】【闘気法】【刀剣術】【抜刀術】【体術】【瞬歩】【神速】【気配察知】【言語翻訳】【隠蔽】
称号:女神アクアジーネの使徒
加護:女神アクアジーネの加護
詳細:異世界の管理者である神のアクアジーネに依頼を受け魔獄の森に飛ばされた者。
言語翻訳と隠蔽はサービスだよ!アクアジーネより
ユリウスは収納ブレスレットの白玉からタバコとライターと携帯灰皿を取り出し一服する。
「ふぅ~。サービスね〜隠蔽に加護って…」
隠蔽
自身のステータスが自動的に変更される。
他人の鑑定や表示玉に違った情報を表示する。
女神アクアジーネの加護
身体を通常の人より強化される。
「便利は便利やろうけど面倒事が増えそうやね。せっかくの異世界やしのんびりすごしたいんやけどね…」
『女神の依頼もあるでしょうに…』
「それはしっかりやりますよ!でも基本はのんびりしたいけんね!」
『愚主は怠け者でしたね』
「言い方!俺は自分のペースでやりたいだけ」
タバコを吸い終わり携帯灰皿にしまい、コートのポッケにタバコ等をしまう。
「剣は回収してっと。さぁ~てどうしたものか…」
ユリウスはボロボロの剣を黒玉に回収してから怪我人を見る。
まだ意識を取り戻していない様子。
『愚主。早期に移動を提案します』
「そうやね!湖は安全?」
『今のところは先ほどの魔物みたいな強いものは見当たりません』
「そっか!そこに移動するかね〜。こいつは…連れて行くしかなかね」
怪我人にも鑑定眼をしてみるユリウス。
名前:レオナルド・ハワード
種族:人族
年齢:18歳
職業:雷戦士
スキル:【雷魔法】【剣術】【体術】【気配察知】【身体強化魔法】【魔力感知】
称号:なし
加護:風の女神フリージアの加護
詳細:シュナイゼル王国にある迷宮都市【ウィンベル】で活動しているCランク冒険者。Bランクパーティー【陽光の剣】に所属していたが3年でCランクまで成り上がったレオナルドを疎ましく思い依頼中に裏切られ転移石で魔獄の森に飛ばされた。飛ばされて直ぐにクラッシャー・ベアーに遭遇し深手を負い、ボロボロになった剣を地面に刺し渾身の雷魔法の結界を張った。
「鑑定眼って便利やね!過去まで知れるとは…にしても…裏切りか〜人は異世界に行っても変わらんね」
『そういうものですよ。人の業というものは』
ユリウスはレオナルドを背負い湖を目指し歩き出す。
道中角の生えたウザギ型の魔物に2匹ほど出くわすが闘気を纏って応戦し難なく倒し収納していった。
種族:ホーンデビルラビット
詳細:魔獄の森に棲むBランクの魔物。獲物の心臓に向かって角を刺すことから手練れの冒険者でも一苦労する。食用可能。
「はぁ~ここの森ってどんだけ厄介なとこなんよ!プンプン!」
『愚主可愛くないです!むしろキモい!いっぺん死んでみてわ?』
「あのさぁ〜辛辣過ぎませんか?クリシュナさん!」
『キモかったもので!それよりも…』
「あぁ。分かっとうよ!いつまで寝たフリをする気だ」
と言うとユリウスは歩みを止め背負っているレオナルドを突き落とす様に離す。
レオナルドは座り込む事なく難なく立ち上がる。身長は180cmぐらい。
「いつから気づいていた?」
「2匹目のホーンデビルラビットが現れたあたりかな?意識があるなら降りてほしかったね〜背負いながら戦うの楽じゃないのよ!」
「なら何故その時に声をかけない!相手はあのホーンデビルラビットだぞ?Aランクの冒険者でも死者が出るくらいだぞ!それを俺を背負いながら楽に倒すとは…」
信じられないような顔をしながら話すも後半は呆れ顔になるレオナルド。
「様子見?どんな反応するかと思ってね!」
「ハァ〜…クラッシャー・ベアーはあんたが何とかしたのか?」
「あぁ~あの熊なら殺した」
「ハァ!?こ、殺した?国の軍隊で倒せるか分からん奴をか?」
「うん!首を落とすつもりだったけど今は無理だね!鍛え直さないと…で?君はこんな所で何してたの?」
「く、首をお、落とす?あ、あぁ俺か…」
それまで驚き続けていたが途端に自分の話になると顔が暗くなるレオナルド。
「言いづらいなら言わなくて良いよ。俺には関係ないし。あっ!一緒にあった剣は諦めてね!ボロボロだったから使い物にならないよ!」
「あ、あぁ。そっかボロボロだったか…クラッシャー・ベアー相手にボロボロにならないのがおかしいか…」
「それとその服装、ボロボロでしょ?これに着替えて」
関係ないと言われどうしたら良いのか戸惑いはしたが自分の愛用していた剣がボロボロになったと聞いたらクラッシャー・ベアー相手に折れなかったのがおかしいぐらいクラッシャー・ベアーは皮が丈夫なのだ。
ユリウスが黄色玉から青色の上下ジャージを取り出しレオナルドに渡す。
「ありがとう。着替える」
レオナルドは早速その場で着替えると少し小さかったが文句を言えない。ボロボロの衣装をユリウスが引き取り黄色玉に収納する。
それからユリウスは歩き続ける。その後をレオナルドはついて行く形となっている。
しばらく無言状態が続いていたがレオナルドが意を決して歩きながら話し始める。
「まだ自己紹介がまだだったな。俺はレオナルド・ハワード。ウィンベルで冒険者をしている…いや、していた。だな、一応Cランクだ!あんたは?」
レオナルドは、後ろからユリウスに話しかけるが、ユリウスは振り向きもせずただ真っ直ぐ前を見て歩きながら答える。
「これはご丁寧にどうも。俺はユリウス・グレイベン。見ての通りただのおっさんだよ!魔獄に住む予定!」
「こ、ここに住むのか?」
「そう!この先の湖に住む予定」
「予定って…ここは魔獄だぞ!ここには危険な魔物が潜む場所だぞ!生きて帰れない場所なんだぞ!」
「それこそ君には関係ない。危険かどうかは俺が決めること」
ユリウスは淡々と答える。クリシュナは言葉は分からないのだが主が冷淡に見えてしまう。いつも通りなので複雑ではある。
それはレオナルドも気づいていた。ユリウスという人物は自分に興味がないと。
他人に興味がないというか、人を信じない人間だと。
だが赤の他人の自分を瀕死の状態から助けてくれた恩人に礼を言わなければいけないと思いユリウスの前に歩み出て頭を下げる。
「さっきは見ず知らずの俺を助けてくれてありがとう!感謝してる!」
ユリウスは驚き歩みを止める。
「いいさ。傷跡が残ってしまたのはすまん。まだ本調子じゃないんでね!」
「構わない!傷跡が残ったとは言えあんな状態から回復させてしまうんだ。すご腕の回復魔法の使い手なんだろ?それにクラッシャー・ベアーに勝つほどだ剣の腕もすご腕なんだな!」
これにはユリウスも苦笑いせざるを得ない。こんなに手放しで褒めてくれる人は上司達や後輩ぐらいでどう反応して良いのか困ってしまう。
レオナルドもこんな強くて回復魔法も使える冒険者は見たこともない。それこそSランク相当の力量の持ち主だと思う。
それにここは魔獄の森。しかも奥地。並大抵の人間ではホーンデビルラビットにやられてしまう。それぐらい危険で謎が多い場所だ。
「さぁ!行くぞ!…それと、あ、ありがとう…」
「あぁ」
勢い良く歩き出すユリウス。小声で礼を言って照れ隠しをする。それでもレオナルドは聞き逃さなかった。微笑ましく思いながらユリウスに続き歩き出す。
レオナルドは最初どんな冷徹な人間であれ生きて行くにはユリウスにただついて行くしかないと思ったが今の顔を見ると根はいい奴なのではと思うのだった。