プロローグ
「はーい、全員揃ってるかなー」
のんびり、というよりだらり、という方が当てはまる脱力した声で入ってきた男を見て、第二王子のアドルフとその側近達は全員目を見開いた。寝癖のついた癖毛にくたびれた白衣、うっすら残った無精髭に黒縁のメガネの奥の瞳は眠気を隠していない。アドルフはこんなだらけた格好の人間に目の前に堂々と座られたことがないため、うろたえた。
「え、ランベルト先生、なぜここに」
「イザーク、知っているのか」
「自由選択授業の古代魔導学の先生ですよ。僕は選択していませんが、職員室に書類を届けに行った時にお顔だけは」
「古代魔導学って……ああ、毎年受ける人数が1人か2人なのに何故かなくならないとかいうあの……なぜ、ここに?」
「なぜって、俺が生徒指導の担当だからねえ」
「生徒指導っ? 先生がですかっ」
唯一面識のある宰相子息であるイザークが思わず席を立ち上がる。目の前にいる男、ランベルト・ランツィンガーは紛れもなくこの王立学院の教師の一人であることは間違いない。だが、どう見ても生徒を指導するどころか職質を受けそうな風貌だ。
露骨に怪訝な顔をする生徒達に怒りもせず、へらり、とランベルトは手を振った。
「あー、向いてないのはわかってるから、ちっと落ち着きなさい」
「え、あ、失礼しました」
「うんうん、大人になると向いてる向いてないだけで仕事が決まるわけじゃないからねー。その辺覚えときなさいね」
身も蓋もない大人の舞台裏をさらりと告げると、教師は持っていた紙の束を机に広げた。
「クラス担任も部活顧問もしてないんだから、これくらいはやれって押し付けられたんだよ。まったく、こんなお上品な学校でそうそう問題なんて起こす奴なんていないって言われてたのに詐欺だよなぁ」
「っ、俺たちが問題起こしたって言うのかっ」
「わ、私達は被害者ですっ」
「うん、それを確認したいんだよ。心配しないでも、どっちの話も聞くから」
パラ、と開いたレポート用紙に見えた名前に、アドルフの目に怒りが滲む。
「……あいつらにも聞いたのか」
「そりゃあ聞くでしょ。どっちの話も聞かなきゃ状況わからないし。あちらさんは要点まとめておいてくれたからサクサク進んで助かったわ。ありゃあ前から用意してたんじゃない?」
「あ、あの人達はそうやっていっつも嘘ばっかりつくんですっ」
「っ、そうだっ、身分を笠に着て周囲に口をつぐませて好き放題」
「いや、この国の最高権力者ファミリーの末っ子が身分とか何言ってんの。いいからさっさとやるよほら、先生のサービス残業で。先生のサービス残業で。いいですか、この時間は先生のサービス残業で行われています」
しつこい位にサービス残業を強調したランベルトの妙な圧に、いやそもそもサービス以前にそれが仕事だろう、とは誰も口にはできなかった。
「で、何だってカフェテリアで婚約者の吊し上げなんてしたの、君ら」
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