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9・みんな可愛く





その夜から、私の毎晩の日課が増えた。


サイドテーブルに石の入った箱を置く。


石を一個手に取る。


試しに小さめの石を傷一つない状態にしてから、細やかな魔力を流す。

丁寧に、丁寧に花びらの一枚一枚を切り込んでいく。



・・・・・・・。



一個完成したかなぁ。

魔力切れで、意識が無くなる。








朝目覚めると、目の前にルビーが転がっていた。


見事なバラのカットがされている。

成功だ!



私は大急ぎで着替えて、エイミーに髪をセットしてもらい、お父様のところに走って行った。

令嬢が走るのはお行儀が悪いが、早く見せたかったから。

朝食の席に行けばお父様たちがいるはずだから。



「お父様!!出来ました!」



「おはよう、カレン。

 お行儀が悪いわよ」


お母様に叱られる。

ごめんなさい。


「お母様、ごめんなさい。

 でも、こちらをみてください。

 私が細工したのですよ」


小さなルビーの赤いバラをお父様とお母様にみせる。



「おお」

「まあ」


二人は声をそろえて驚いてくれた。


「見事だ、カレン」

「美しいわ、カレン」


お姉様も見に来る。


「あら、素敵。

 お父様、私これが欲しいわ。

 

 カレンが細工したって聞こえてきたけど、噓でしょう?

 一流の宝飾店でも、こんなに繊細なカットしたルビーなんて、みたことないわ」



お姉様は褒めてくれない。

いつも通りだ。



「これはカレンの魔法で加工したものだよ。

 だからカレンのものかな」


「わたくしも欲しいわ」


とお母様。



「そちらはお姉様がお使いください。

 私はいくらでも作れますので。

 お母様にはもっと大きな石で、つくりますね」


「私も、もっと大きな石のも欲しいわ!

 それにカレンには似合わないんじゃないかしら」


「そうだな、エレノアの方が似合っているな」


お兄様も安定で、お姉様の味方です。



「カレン、カレンの魔法は素晴らしい。

 このバラのカットは我領の新しい名産品となるだろう。

 朝食が済んだら、少し話をしよう。

 私の部屋にきてくれ」



「それにしてもカレン。

 あなたずいぶん痩せたのではなくて?

 それに美しくなったような・・・・・」


「体は大丈夫?

 どこか悪いんじゃないかしら?

 痛いとか、苦しいとかない?」


お母様がお父様と同じことを言う。


痩せた?

美しくなった?

嬉しい。



まだ、普通のデブですが。





今日の朝食はたっぷりのサラダと小さなオムレツ(トロトロ)、厚切りのベーコンと角切りの野菜がたくさん入ったスープ。私以外には、肉料理が付いている。

私はもちろんサラダから食べる。

酸味の利いたドレッシングがおいしいです。オムレツもバターの風味が豊かでフワトロ。スープも薄味でやさしい味です。デザートの小さくカットされたフルーツもおいしく食べやすく。

搾りたてのオレンジのジュースもいい香りです。


近頃はやっと、肉料理のない朝食で満足できるようになりました。








朝食を食べ終わり、少し休憩してからお父様の部屋に行きました。




「待っていたよ、カレン。

 お茶を入れるから、座りなさい」



なにやら落ち着いて話をする態勢です。



メイドが紅茶を入れてくれたので、そちらをゆっくり飲みながら、お父様の話を待ちます。



「カレン。

 このバラの細工は本当に素晴らしい。

 このような細工ができるものは、我領の熟練細工師でもいないだろう。

 娘だからと言って、なんの対価もなしで作らせるのは正しくはない。

 なので、カレンが細工したもの、バラでなくてもカレンが魔法を施したものに対して売値の一割を

 報酬として支払いたいと思う」


「まあ、お父様。

 報酬だなんていりませんわ。

 我領の収入が増えるなら、それでよいのです」


「いや、それはだめだ。

 それにな。

 石の加工はカレンが嫁いでからも、頼みたいからな」


「私は太っているし、美しくもないから、お嫁には行かないかもしれません」


「カレンはふくよかというのだよ。日に日に美しくなっているし、年頃になったら大変な美人になっているだろう」


お父様がニコニコで、また目が無くなっています。




「じゃあ毎月のおこづかいを、金貨一枚増やしてください。

(多かったかしら?)(金貨一枚は前世では十万円くらい)」


「最低でも金貨十枚にはなるぞ?

 大きいものが売れれば一つでも、金貨十数枚にはなるだろうからな。

 毎月まとめて渡すから、大切にとっておきなさい。

 よく考えて、無駄遣いしないように使いなさい。

 自由になるお金があるということは、できることが増えるということだからね」



私は自由になるお金が、毎月百万くらい入るようになった。

嬉しい誤算だ。


嬉しい。



そして私は、幸せになるために次の行動に入ることにする。









「エイミーーー!」



部屋に帰るとすぐ私の専属メイドのエイミーに声をかけた。



ソファに座ってお茶をいれてもらう。


今日の紅茶も、リンゴの甘い香りがする。



「エイミーに聞きたいのだけど」


「はい、なんなりとお聞きくださいお嬢様」


「エイミーはそばかすは気になるかしら?」


エイミーがよくわからないという顔をしている。


「なくなればいいとは思いますが、諦めています。

 でも、カレンお嬢様はそばかすがなくなりましたよね。

 なにか素晴らしい美容法でもみつけたのでしたら、教えて欲しいです」



ふふふふっ



「エイミー、私のそばかすが消えたのはね。

 私の魔法の力なのよ!」


「魔法、ですか?

 カレンお嬢様の魔法は、物質の加工だと思っていたのですが。

 なにか新しい属性を手に入れたのですか?」


「やってみせるほうが早いわ。

 隣に座ってくれる?」


エイミーはわりとフレンドリーな性格なので、はいとすぐに座ってくれる。



テーブルの上の鏡をエイミーに見せる。


「いい、今の顔を覚えておいてね。

 それと、本当にそばかすを消してしまっていいのね?

 消してしまったら、同じようには戻せないみたいなの。

 似たようには、つけられるけど」


自分で試してみたので間違いない。



「そばかすなんて、ないほうがいいに決まってますよ」



「じゃあ、行くわよ」



指先に魔力を集める。

エイミーがパッチリした、茶色い瞳を閉じる。


そっと鼻の頭からなぞっていく。

魔力の扱いが上手くなったのか、一度なぞると消える。

前は三回なぞらないと消えなかったのに。


頬っぺた、額、こめかみとそばかすがあるところをくまなくなぞる。


きれいになった。



「いいわよ、エイミー、目を開けて鏡をみて」



エイミーが鏡を手に取る。

そして覗き込む。


無言で見ている。

じっとみている。



ぽろっと涙をこぼした。



「カレンお嬢様・・・・・・・そばかすがないです」


「そうね。すべすべね」


「はい、すべすべです」


「そうね」


「信じられないけど、嬉しいです。こんな簡単に消えるなんて・・・・」



ぽろぽろ泣いてる。

うんうん、わかるよ。

きれいになるのは嬉しいね。


「ありがとうございます、ありがとうございます。

 本当は、自分のそばかす、大っ嫌いだったんです」


可愛い顔がさらに可愛くなった。


エイミーがにっこり笑った。






よろしくお願いします。

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