5・さらば豚鼻
昼間に魔力切れを起こして、倒れてしまったが。
夕方にはスッカリ魔力も復活し、夕食に向かう。
テーブルには、お父様、お母様、お兄様、お姉様がすでについていた。
「そんなに頑丈そうな体なのに、倒れたんですって。
池に転がり落ちるのは、まあ、ありそうなことね」
お姉様はいつもどおり酷い。
突き落としたのはあなたでしょう。
私みたいなデブで不細工な妹がいるのを、本気で恥ずかしいと思っている。
私と血が繋がっているなんて、気持ち悪いと何度も言われてる。
「しばらく病人食にしていれば、少しは痩せるんじゃないか?」
お兄様もいつもどおり酷い。
お兄様も、私とは絶対にお出かけしてくれない。
美形な二人にとっては、私はひたすら血のつながった兄弟と思われたくない存在なのだ。
「二人とも、そんな風に言わないように。
我が家の可愛い末っ子なのだからな」
お父様、優しい。
自分に一番似ているからか?
でもお父様は、すっと鼻筋の通った顔をしている。
痩せれば、目もパッチリしているかもしれない。
私は返事をする気にもならず、席に座る。
食事が運ばれてくる。
良かった。
私の分は、量が少なめになっている。
肉料理も小さめのものが一品だけ。
「カレン、本当に食事を減らしてしまって大丈夫?
それではお腹いっぱいにならないのではなくて?
夜中にお腹が空いてしまうわよ」
お母様の声。
「大丈夫です。お母様。
今までが食べ過ぎだったのです。これからはずっとこの量でいきたいと思っています」
本当はね。この量じゃ足りないの、お腹いっぱいにならないの。もっとたべたいの。
貴族の贅沢ご飯だけあっておいしいし。でもそれでは、悪豚令嬢のままだから!
悪役令嬢にさえなれず、悪役令嬢にこきつかわれ、断罪もされる最低の未来に、一直線なんだから!!
デザートとして、つやつやとジャムで輝くタルトに生クリームを添えたものが運ばれてくる。
私のお皿には、他の人半分の大きさのタルトとちょっぴりの生クリーム。
せつない。
甘いもの大好きなのになぁ。
お風呂に入り、そしてベットにはいる。
私専属の侍女のエイミーが紅茶を入れてくれる。
砂糖もミルクも入れてないけど、ほんのり甘い種類の茶葉だ。
ありがとう、エイミー。
そして。
エイミーが紅茶を下げ、部屋から出たら
私の本気タイムの始まりだ。
私は出来るだけ早く、きれいになりたい。
でも、毎日魔力切れで倒れてしまっては、両親に心配をかけてしまう。
なので、整形魔法で意識を失ってもいいように、寝る前にベットで魔法を使うことにしたのだ。
サイドテーブルに置き鏡を置く。
倒れて、頭をぶつけないように下の方にお尻を移動させ、胸までお布団を引き上げる。
体は起こした状態なので、ちょっと邪魔だが仕方ない。
そして、鏡を見る。
悲しいほど上を向いた鼻と二重顎がバン!と目に入るっていうか、私の顔ってそれしか目に入らない。
つらい。
けれども。
この鼻と多すぎるお肉が消えれば、私は豚じゃなくなるのだ。
就寝用の小さな灯りだけで、鏡をみて。
右手の人差し指と中指に魔力を集中させる。
慣れていないから、とてもゆっくりだ。
魔力が十分集まったら・・・・そっと・・・鼻に指をあてる。
鼻筋が伸びるところをイメージしながら、慎重に鼻を撫でる。
(魔法はイメージが大切って、ラノベにも書いてあったしね)
鼻が暖かくなる。
ゆっくり、ゆっくり。何度も何度も、美しい形の鼻をイメージしながら撫でる。
少しづつ、鼻筋が伸び、鼻が高くなっていく。
0.5ミリ1ミリ、1.5ミリ、2ミリ、2.5ミリ3ミリ、3.5ミリ・・・・・・・・。
意識が途切れる。
朝だ。
私は急いでベットの横の鏡を見る。
・・・・。
鼻が高くなっている!!!!
まだ普通より低いけど、鼻の穴が半分しか見えなくなっている。
そして私は、朝からまた泣いた。
美しい人にはきっとわからない。
少しでも美しくなれることは
本当に、本当に、嬉しいことなのだ。感動なのだ。
朝食を食べ、動きやすく汗滲みが比較的目立たなそうなレモンイエローのワンピースに着替える。
髪は、エイミーにポニーテールにしてもらった。
リボンもワンピースと同じレモンイエロー。
う~~~ん。
服装だけならとても可愛らしい。あと、髪もね。
ん~~~~と思い切り伸びをして、肩をグルグルまわし、軽くストレッチ。
良し、歩こう。
グレイスランドのお家の庭はとてもきれいだ。
家というよりお屋敷だけど。
今日は昨日よりもたくさん歩くのだ。
全身から滝のような汗をかき、部屋に戻るとしばらくは動けない。
ゼエゼエと荒い息が、聞き苦しい。
レモンイエローのワンピースが黄色になっている。
体も汗臭い。
前世でも美人ではなかった私は、せめて清潔感あふれる女性を目指して、いつも身ぎれいにしていた。
お風呂にはいろーー。
私が入ると、お風呂のお湯がジャジャーと悲しいくらいあふれ出る。
でも、気持ちい~~。
お風呂に入って、着替えて体重を計ったら
68.5キロ。
一日で1キロ減。
魔力切れもいい仕事しているのかもしれない。
よろしくお願いします。