30・脱出
散々な目に会い、元気をなくしていたカレンだが。
フェンリルのガロスと出会ってから、だいぶ心身ともに癒えてきた。
ガロスのフカフカでお日様と草の香りがする首に抱き着くと、それだけで元気がでてくる。
「早く家に帰らないと、お父様たちに心配をかけてしまうわ。
ガロスがいてくれたら、獣も魔物も怖くないから、近くの街までいかなくては」
早速旅の準備をする。
たくさん実っているベリーを魔法で次々と乾燥させていく。そのままでは日持ちがしないからね。
りんごもどきも木からもいでおく。
ガロスが大きな兎のような魔物を狩ってきてくれたので、これは捌いて干し肉に・・・・・。
と思ったのだが、錆びたナイフを魔法でピカピカにしてから気が付いた。
自分、動物の解体なんてしたことない。耳が四本もあって、目つきが悪い魔物とはいえモフモフした兎のような動物の解体は・・・・・・。とても無理だった。
「ガロス、ごめん。せっかく獲物を取ってきてくれたんだけど、私じゃ解体できないわ」
「え、おいしいよ?」
「うんわかっているんだけど、解体って難しいのよね。かわりにお魚とってくる」
『僕が細切れにしてあげようか?』
巨大ウサギの細切れ・・・・・・。内臓飛び散るよね。
やっぱり無理です。
獣道を通って池に行き、前に作った釣り竿で魚を釣る。
五匹は塩もみして、また焼いて食べた。二匹は自分で、三匹はガロスにあげた。
残りは腹を裂いて開きにして、魔法でからからに乾燥させた。
塩はあまり量がなかったので、出来る限り均等にまぶしておく。
食料や鍋などを入れる袋など、何もなかったから、制服のスカートを切ってちくちく縫って、リュックのような鞄をつくった。
裁縫道具はウエストポーチに入っていたのだ。通学用の鞄などはすべて取り上げられていた。
リュックもどきに、りんごと干し魚とドライベリーと小鍋をいれ、ナイフも布を巻きすぐ出せるところに入れる。
武器としては役に立たなそうだが、ないよりいいだろう。ひび割れのあった瓶も魔法で直して強化して水を詰めた。瓶の栓もも魔法で木を加工してつくった。
すそをブーツに押し込んだズボン。腕をまくり上げたシャツ。それにリュックを背負えば他にできる旅支度は何もない。もちろん毛布もリュックに括り付けた。
長い髪は制服のリボンでくくり、ポニーテールにした。
「ガロス。ここから一番近い村か町はどこだかわかる?」
『もちろん!僕はフェンリルだからね。風のように早く駆けることができるんだ!』
目の周りの黒丸が消えてから、ガロスは絶好調である。
大型犬くらいの大きさしかないけど、見た目はかっこいい狼だ。
頼りにしているよ!相棒!
♢
ガロスに教えてもらった方向にテクテクと歩き出す。
山道ではないが平地でもないので、三十分ほど歩いただけで足が疲れてくる。
「ねえガロス。街までどれくらいあるのかしら?」
『う~~~ん、人が歩いてどれくらいかわからないけど、僕が走ったら一時間くらいで人がいるところにつくよ』
ガロスが走って一時間?
目の周りの黒い毛がなくなった時に、ガロスが駆け回っていたけど。相当早かったよね・・・。
「ガロス、大きくなれたりしないよね?で、私を乗せてくれるとか無理だよね?」
『できるよ!大きくなれるよ!カレンくらい乗せられるよ!』
ガロスは元気いっぱいだ。
さっき取ってきてくれた兎の魔物はガロスが全部食べたし。
エネルギーも満タン?
「じゃあ、乗せてくれる?」
『うん、いいよ~』
ガロスが背中を丸め体に力をこめると、見る見るうちに体長三メートルくらいの大きさになった。
「すご~~~~い!さすが神獣フェンリル!」
『へへっ』
ガロスはずっと上機嫌だ。
それから私はガロスの背中にまたがり、しっかりと首筋につかまった。
「お願い、ガロス」
『まかせて!』
そしてガロスは風のように走り出した。
ほんとう、風のように・・・・・・。
ガロスは走る。風のように。
そして私はちょっとまった~~~~!と叫ぶ余裕もなく全身でガロスにしがみつく。
毛を引っ張ったら痛いかも、なんて考える余裕もない。
なんとかでた声は
「ぎゃーーーーー!!!」
だった。
どれくらい走ったのかわからないが、ガロスが止まった。
私はドサリと落ちた。
そして意識を失った。
気が付くと見知らぬ天井。
慌てて体を見たら、小屋を出る時に来ていたシャツを着ていた。
良かった、また死んだんじゃなかった。
ガチャリと音がして、粗末な木のドアから誰かが入ってくる。
「あらあら、目が覚めたみたいね。大きなワンちゃんが私を呼びにきたのよ。スカートを引っ張られてついていったら女の子が倒れているんだから、びっくりしたわ~」
いかにも村人といった感じの服を着た、優しそうな女性が声をかけてくれる。
「その犬はどこにいますか?
ああ、助けてくださってありがとうございます」
「あんたの近くにいるだろう」
「ワン」
ガロスは気を効かせて、犬のふりをしているようだ。
思ったより賢いのかな。
気が付かなかったが、ずっと私の足元にいたようだ。
心配そうにこちらをみて、伸ばした手に頭をこすりつけてくる。
「あんたはさっきまで倒れていたんだから、急に起き上がらないで、まずは水でも飲んで落ち着いて」
「はい、ありがとうございます」
良かった人のいるところまでこれたんだ。
水を飲んでから質問する。
「あの、ここはどこですか?」
「ここは、マッコス村だよ」
「王都からはどれくらい離れていますか?」
「王都からは馬車で半日くらいだねぇ」
ここで私の正体をばらしても安全か?
わからないけど、私にはガロスが付いている。
「私はカレン・グレイスランドと言います。王都の家に私がここにいることを知らせたいのですが。
誰かにお願いできますか?」
「あんた王都の人だったのかい?そういえば、昨日も騎士様たちが村に来て、女の子を探していたけど。その子なのかい?」
「はい、たぶんそうだと思います」
お父様たちが私を探してくれている。
嬉しい。
「この辺にも、騎士様や兵隊さんたちがたくさんあんたのことを探し回っているから、その人達に伝えればいいね。それなら、すぐ捕まるだろう。うちの息子にひとっ走りさせるから、安心してやすんでるといいよ」
見た目通りやさしい人だ。
「ありがとうございます。今は何も持っていませんが、あとでぜひお礼をさせてください」
「子供がそんなこと気にしなくてもいいよ。
じゃ、息子に言ってくるね」
私は身長が低いので、こんな格好をしていると、子供にしかみえないのかもしれない・・・・。
ガロスの走るのがあまりにも速くて疲れ切って倒れたが、小屋を出てから何時間かしか経っていない。
そう疲れてもいないはずなんだけど、大やけどを負ったショックと、小屋生活の疲れが一気に出たのだろう。
おばさんが出ていってから、私はまた眠ってしまった。
ありがとうございます。




