翔太のランドセルは茶色
キイッ…
理髪店の重いドアを開けて入って来たのは、近所の喫茶店のママとその孫だった。
「突然ごめんね。孫の髪、切って貰える?」
「おう。大丈夫だ。」
「じゃ、この子置いてくわね。ありがと。」
「こんにちは!」
「いい挨拶だ。偉いぞ翔太!」
カットクロスを掛ける。
「今度小学生になるんだってな。ランドセルはどうした?」
「あのね、ぼくはね、おねぇちゃんのランドセルがよかったんだけどね、ままがダメっていってね、だからね、おねぇちゃんとおなじランドセルかってもらうの!」
「ほう?そりゃいいな。お姉ちゃんは何年生だっけ?」
「ごねんせい!」
「じゃ、1年間は一緒に学校行けるな。楽しみだな。」
夜は翔太の集金がてら喫茶店で呑む。
ママのナポリタンはぼってりと甘辛く、軽いビールがやたらと進む。
「翔太は帰ったのか?」
「少し前にね。娘の仕事も忙しいみたい。」
「お姉ちゃんは?」
「莉緒の母親の方は早かったけど、翔太のお迎えまで待ってるって言って一緒に帰ってったわ。」
「優しいな。」
「そうなのよ。でね、翔太は莉緒をホントのお姉ちゃんだと思ってるのが可笑しくて。」
「うはっ!なんだそれ。」
「いとこって分かってないみたい。どうしてお姉ちゃんのお家は別なんだろう、って言うのよ。」
「子供の発想って面白ぇなあ。大好きなんだな。」
「大好きなのよ。」
あれから7年の月日が流れ、2月末の喫茶店。
「ねぇ、この写真見て。莉緒が高校卒業するから記念写真撮ったのよ。」
「どれどれ。」
弾ける笑顔のお姉ちゃんに肩を組まれ、ウザったそうな、でも嬉しさを噛み殺しきれない歪んだ表情の翔太。仲の良さが伝わる。
「ほぅ…。これはいい写真だ。」
「ね。」
その数日後。
「こんにちは!」
「おぅ。翔太、いらっしゃい!」
今年中学生になり、部活の先輩が厳しいと嵐のように捲し立てる翔太に目を細める。
ふと写真を思い出し、
「そう言えばお姉ちゃん、高校卒業なんだってな。写真見たぞ。綺麗になったなぁ。」
「は?莉緒はお姉ちゃんなんかじゃねえし。」
予想外な返答と素っ気ない態度に驚き、鏡越しに表情を覗く。
斜め下の視線と何か言いたいのかツンと尖らせた口。
ほぅ?この顔はひょっとして。
しばらくママには黙ってた方がいいな。
思わず後ろを向き、壁の茶色い染みに向かってニヤリと笑う。
初恋か?
むくむくと成長する翔太が可愛くて仕方ない。
さ、格好良くしてやるぞ!
頑張れよ。多分あいつの孫は手強いぞ。
良ければ他のなろラジ大賞4への応募作品にもお立ち寄り下さい。本文のタイトル上部『なろうラジオ大賞4の投稿シリーズ』をタップして頂けるとリンクがあり、それぞれ短編ですが繋がりもあります。