うしのくび
「こっち向いてー!」
パシャパシャパシャ
「笑って、笑って、そうそう」
パシャパシャパシャパシャ
私はフリーの戦場カメラマンだった。
と言っても20年以上昔の事だが。
今は曾孫の専属カメラマンをしている。
パシャパシャパシャパシャパシャ
「お爺ちゃんの方を見て、そうそう良い笑顔だよ」
パシャパシャ
孫娘家族に誘われて知床半島に旅行に来ている。
パシャパシャパシャパシャ
私の方を向きピースサインをしていた曾孫が私の後方を指差し可愛い声を上げた。
「あれみて、うしさんだぁー」
曾孫の指差す方を見る。
牛の首のような形の雲が夕陽で真っ赤に染まっていた。
あれは…………。
曾孫や孫娘たちは真っ赤に染まる牛の首の形の雲を見て歓声を上げている。
「赤いうしさんだぁ」
「夕陽に染まって綺麗だねー」
あ、あれは、楽しむ物じゃ無い。
あの牛の首の形をした雲は不吉の象徴。
過去に幾度も目撃され、その全ての場所で戦争が始まり沢山の人が亡くなった。
第一次世界大戦直前のドイツとフランスの国境線で、独ソ戦が始まる1か月前のロシアの大平原で、真珠湾攻撃の数日前にも朝焼けで真っ赤に染まる牛の首の形をした雲が真珠湾で目撃されている。
それ以外の戦場となった場所でも目撃され、中には写真に撮られている物も。
この地も戦場になるのか?
私は遠くに見えるロシア領になっている島に目を向けて祈る。
曾孫たちが戦火に巻き込まれませんようにと。