表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/50

9話 2回目の木曜日

 この日あの子はいつものところに立っていた。私は、駆け込むくらいの勢いで電車に乗った。

「おはよ」

私が言うと、あの子はほほ笑みながら頷いてくれた。

「昨日言いたかったんだけど、土曜行けるの」

 まず何を置いてもこの日言いたいと思っていたことは言えた。あの子の笑みが、ほんの少しだけ深くなった。

「返事遅くなってごめんね」

私が言うと、あの子は瞼を伏せて首を横に振った。そのあとぱっと明るい笑顔に変わって

「うれしい!」

と、小さく清んだ声を弾ませた。


 この間みたいに、あの子はスマートホンでいろんなものを見せてくれた。だけどしばらくして、スマートホンをなめらかに滑っていた指がぴたりと止まった。

「もしかして、だめだったかなって思ってた」

スマートホンに置かれた指は、また画面の上で動いてた。今度は、すごく小さく、せわしなく。目は、画面にまっすぐ落ちていた。


 正直、両親が出掛けて良いと言ってくれるのはわかっていた。でもすぐに尋ねることができなくて、あの子への返事も遅れてしまった。

 

 これは、私の弱さ、わがまま。優しさなんかじゃ絶対にない。


 昨日、やっと母に出掛けたいと切り出せた。母はほっとしたように笑って、

「行ってらっしゃい」

と言ってくれた。

 

「ごめんね」

 スマートホンの待ち受け画面の上でせわしなく指を動かすあの子に、私は言った。

(私の弱さが、さらちゃんを不安にさせた)

それは心の中で私に言った。

 あの子は顔を上げ、私の目を長い間見つめていたけど、

「いいの」

と優しく笑った。

「昨日も会えたし」

あの子は続けてそう言った。

(昨日…… 。さらちゃんは最初から乗っていたの?)

 それが気にならないと言ったらうそだった。でも、うまく尋ねるきっかけが見つからなかった。

「さらちゃん」

あの子はじっと私の方を見たままで、次の言葉を待っていた。その静かな瞳を見て、私は次の言葉を見つけられた。私があの子に、言いたいこと。

「連絡先、教えて」

 何にかはよくわからなかったけれど、この時すごくほっとしたのは覚えてる。あの子もなぜか、そんな顔をしてる気がした。

「いいけど明日ね。もう駅だから」

 小さく噴き出しながら、あの子は手を振ってくれた。私が扉の方に目を向けると、ほんとうに、私の降りる駅の景色がそこに見えた。

「ほんと。ありがと、降りなきゃ」

私が慌てて降りたあとあの子はまだ笑ってて、扉越しに手を振り続けてくれていた。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ