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8話 2回目の水曜日

(パリとニューヨーク……)

 あの子が言ったことを、昨日仕事が終わってから考えていた。スマートホンで一応検索もしてみた。やっぱり、パリやニューヨークから24時間以内に日本に帰ってくるのは不可能みたい。そうだろうなと思っていたけど、調べてしまった。

(どうして、パリとニューヨークなの?)

結局昨日の夜から今まで、暇さえあればそれを考えてしまっていた。


 電車が来て、扉が開いた。

 席は空いていたけれど、あの子は座っていなかった。いつもの場所も見たけれど、そこにもいない。私は空いている席に座った。


 久しぶりに1人で過ごす通勤時間。あの子のことを結局ずっと考えてたけど、2人で話しているよりずっと長く電車に揺られている感じがした。


(あの子は、どういう子なんだろう?)

 どういうところで育って、どんな人に囲まれて、何をしているのだろう?

 毎日きれいに髪を整えて、ピアスが同じだったことは1度もなくて。このころ気づいた。アイメイクも2日続けて同じだったことはない。サブカル系から一般的なおしゃれ系まで服もいろいろ着こなしている。見ためがころころ変わって、好きなものの傾向はいまだによくわからなかった。

 いろんなファッションを楽しむことこそがあの子の好みなのかもしれないし、逆に傾向を作らないことで、本質を見せないようにしたいのかもしれない。自分のことをすすんで話そうとしないのも、あの子の格好とすごく関係している気がした。1つだけ言えるのは、似合ってない格好をしていたことは1度もなかったってこと。


 あの子の話してくれる世界に触れていたいだけのはずなのに、いつの間にかあの子の生きる世界をもっと知りたいと思っている私がいた。あの子はきっと、知られすぎるのを望んでいない。それはしっかりわかっているのに、あの子の話したことを思い出すと、あの子の生きる世界を知りたいと思って仕方なかった。


(土曜の返事、したかったのに)

 次の土曜日に買い物に行こうと誘ってもらった返事をまだできていなかった。そのことを考えながら席を立って扉の方へ向かった時、いつもの場所にあの子が見えた。

「いってらっしゃい。また明日ね」

あの子は、私を見てほんのかすかに笑ってくれた。

「また明日ね」

私が言うとあの子はうなずき、手を振ってくれた。


 何よりもあの子に会えてうれしくて、私は電車が見えなくなってもしばらくその安心に浸ってた。


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