5話 最初の日曜日
日曜日は、家族みんなが家にいる。両親はいつも、日曜日は好きなことをするように言ってくれた。だからどちらかと言えば、土曜日よりもゆっくりできる。
早起きの祖父がいるから、朝食はいつもより1時間だけ遅い8時半。ごはんのあと母と台所に並んで食器を洗う。それからあとはいつも好きなことをさせてもらえた。好きなことは、庭の写真を撮ること。本を読むのも好き。
庭は5年前に亡くなった祖母が手塩にかけて育てていた。小さいけれど土の良い静かな庭で、ほとんど1年中あちらこちらで花が咲いた。毎年同じような花が咲くのだけれど、毎年きれいと思った瞬間を撮りたくなって、ついつい撮ってしまう。でも、本格的なカメラで撮りたいというのは少しちがって、スマートホンで撮るその手軽さも気に入っていた。
本は物語や歴史の本も好きだけれど、ファッションや料理の本も好きだった。どれも見ていてとても楽しい気持ちになれたし、自分の生きている世界とちがったものを見聞きするのが好きなんだと思う。
素人の私みたいな子には、昼よりも暗くなりかけた夕方の方がきれいな写真が撮りやすい。だから、お昼は自分の部屋で洋服の雑誌を見ることにした。
写真を見て、きれいだなと思ったものの説明を読む。でも読むのが遅いから、1冊の雑誌を見終わるまでに1時間近くかかることもよくあった。
この日も何分経ったかはわからなかったけれど、雑誌を読み始めてしばらくして1階から声がした。
「お父さん!」
大きな声じゃないけれど、父が困り果てているのが伝わってくる。そのあとすぐに母の柔らかい声が重なった。母は早口に何か言っているけれど、厳しい口調でないので言葉までは聞き取れない。穏やかに座っていることの多い祖父には、時々こんなスイッチが入ってしまう。スイッチが入った時の祖父のすることはいくつかしかないのだけれど、そのいくつかが、どれもこれも大変だった。
(今日はすぐ片付くのがいいな)
私は雑誌を机に置いて、階段をなるべく静かに駆け下りた。




