48話 7回目の日曜日〜見たものの中〜
祖父が部屋へ戻って、母は家の掃除をはじめた。いつも2階からだから、居間が掃除されるのはもう少し先。私はゆるゆる引き寄せられるみたいにテレビの前に座った。テレビの前ーーううん。テレビの下の戸棚前。
祖父がいつも開ける棚の戸は、簡単に開いた。アルバムはいつも通り並んでた。1番端のアルバムを抜く。思ったより、軽かった。
食事をする場所に座って最初のページを開くと、紙の剥がされた跡があった。その横には、生まれて間もない私の写真。今の顔とは、ぜんぜんちがう。
食卓の上に置かれたままになっていた紙をとった。ちぎれた紙は1つに丸められていた。広げて、ちゃんと合うように写真の横に置いてみた。
“成実”
しっくりくるかはわからなかった。
ここにずっと貼ってあった私の名前が、祖父にどうして剥がされて、どうされたのかはわからない。でも、祖父が“成実”の紙を持っていたってことは、祖父が何かを気にしてるってことだと思った。
(なんで急に、気になったんだろう……?)
ついこの前まで、もともとアルバムに貼ってあった、剥がされた私の名前の紙のことばかりにとらわれてたのに。ーーそのこととこの日のことが関係あるかなんて、ぜんぜんわからない。……ただ、“成実”の紙を大事に持ってた祖父の姿を思い出したら、とてもほっとした。いつも遠い世界にいるような目でいる祖父が、まだ私たちと同じ認識を大事にしようとしてくれているように思えたから。
私は、“成実”の紙をアルバムから外して、もとあった場所に戻した。
あの子が今どこでどうしてるのかも、祖父が今何を思っているかも、ほんとうのことなんてわからない。でも、“きっとどこかで元気にしてる”とか、“きっとおじいちゃんは自分のペースで穏やかな気持ちで過ごしてる”とか、そう思いたい。そう思いたいって、信じてる。
そこには多かれ少なかれ、私の望みが入ってる。ーーこうであってほしい、みたいな。でも、いつも、どんなことでも、きっと現実と理想は自分の中に一緒に在って、それが私の解釈になる。その中でする私の選択は、どれも私にしかできないもので、その積み重ねが私の生き方をつくってる。ーーーーきっと、それはみんな同じ。みんな、自分の置かれた状況の中で、自分に見えた世界の中で、大きな選択、小さな選択を積み重ねて生きている。そう……あの子も、祖父も。
(だから今朝のことも……。私は自分の見たものを、信じたいように信じるわ)
現実的な話かなんてどうでもいいの。私には、どれも見えたんだもの。
アルバムを閉じ棚にしまって、窓の向こうの空を見上げた。もう、夏の日差しになっていた。




