46話 7回目の日曜日 ~夢の中~
あの家の前に立っていた。
(久しぶり……)
これが夢なのは、もうわかってた。これまで何度も見てきていたもの。ここにいる夢。子どもばかり3人で、住んでいる夢。1人ずつ家から出てって、最後に私1人になって、私も出ていく。でも私は、しばらく歩いてすぐに家に戻ってきた。そして、一緒に住んでた女の子とは別の女の子と、出会ったの。出会って、別れた。
何度も何度も、この家で同じ長閑な日常を送って、同じように一緒に暮らした2人が出てって、同じように別の女の子と出会って別れた。でも、夢はいつも家の中からはじまったから、これが夢のどの時点なのか、わからなかった。私は、家の扉に手をかけた。
「ね」
聞き覚えのあるような声がして振り返ったら、女の子がいた。臙脂色のカチューシャをした会ったことない女の子。
「おはよ」
周りは、朝っていう感じじゃなかったけど、女の子はそう言った。
「おはよ……」
戸惑いながら私も言ったら、その子は笑った。
「ここはすき?」
明るい声でその子は尋ねた。
「ここ?」
私が尋ね返したら、その子は口元を丸く緩めて頷いた。夢だけど何度も過ごしたこの場所は、とても穏やかで安らぐ場所。
「すき」
と、答えた。
「私も」
その子は言って、家の前に腰を下ろした。私も隣に座った。
穏やかな風が吹いていて、草や花が心地よく揺れてた。ずっと先まで、緑の絨毯は続いてる。
「春みたいに心地いい」
私が遠くの緑を見ながら言ったら、その子は膝に頬杖をついて目を閉じた。
長い間、2人で座ってた。鳥のさえずりが、時々聴こえた。そんなに話はしなかった。ただ隣同士で座って、私は、あの子と通勤していたといたときのことを思い出してた。
そんなに長く座っていたつもりはないのに、日が沈んできた。お互いの顔はまだ見えるけど、緑の絨毯は暗い陰に入っていった。
「暗くなったね。入らない?」
私が言うと、その子はかすかに笑って首を振った。
「私、もう帰らないと」
「すぐ真っ暗になっちゃう。危ないよ」
私はまた家のドアノブに手をかけたけど、私がそれをひねる前にその子は言った。
「大丈夫。ありがと」
ただ振り返るしかない声に、何も言えなかった。
「そんな顔しないで」
って笑ったその子は、寂しそうには見えなかった。
「またね」
その子は、首を傾げてにっこり笑った。それから、もうほとんど黒になった草原に踏み出して行った。黒に近い色の中、少しの間人影が動いているのが見えたけど、すぐにわからなくなった。
「またね」
自分の声で目が覚めた。




