4話 最初の土曜日
洗濯機が止まるまで、もう少し時間があった。午前中お風呂に入った祖父の服を洗濯中。私は昼食の食器を片付けたあと、居間に戻って畳に座る。円卓を挟んだ向かいでは、テレビが大音量で響く中、お風呂と食事で疲れた祖父が座椅子に座ったまま居眠っていた。
番組は2時の全国ニュースだった。気持ちが明るくなるようなニュースは聴こえてこない。遠いの国の内戦と、どこかの家の火災がまず伝えられた。本を読むつもりだったけれど、本を手で開いたまま、私の目は長い間テレビを見ていた。
次のニュースは、いちばん悲しかった。若い女性が、ここから遠く離れた土地の川のほとりで見つかったのだと。事故か事件かはまだわからず、亡くなってから数日は経っているとも言っていた。
(今まで誰にも見つけてもらえなくて、かわいそう)
そう思ったけど、同時にこうも思った。
(でも、この人はひとりにしてほしかったのかもしれない)
なんとも言えない気持ちになって、私はテレビを切った。タイミングよく洗濯機が止まる。立ち上がろうとした時、座椅子の軋む音が聞こえた。祖父が目覚めた。
「歩未ちゃん、おはよう」
いろんなものから解放されたみたいな、というより、いろんなものと関わりのない世界にいるみたいな、穏やかな顔。優しいというよりは、無垢に近い、そんな顔。
「おはよう。よく寝てたね」
私が立ち上がりかけているのに気づいたみたいで、祖父は心配そうに尋ねた。
「どこか行くの?」
「ちょっと洗濯物持ってくるね。これから干すの」
私は笑った。祖父はまた穏やかな顔に戻って、
「そう。ご苦労様です。歩未ちゃんはよく働くね」
と私を労ってくれた。
「ありがとう」
この時、いろんなことを思ってしまった。でも、祖父の言葉に対する私の気持ちはこの言葉でまちがいない。それは祖父だけじゃなく、両親に対してもおんなじだった。
洗濯物を籠に詰め私が居間に戻ったら、祖父はもう寝息を立てていた。