30話 5回目の日曜日 ~夕方~
祖父が昼食後部屋にこもって何時間か過ぎた。母も1時間ほど前に買い物へ出掛けてしまった。この日も、昼から雨が降りだした。誰もいない居間で、本を開いた。でも、集中できなかった。
活字が今はだめなのかと思って、雑誌にした。よく読んでいるファッションの雑誌。でも、写真も文章も景色にしか見えなかった。読むのはわりとさっぱり諦めたけど、本を開いたままちがうことを考えた。
考えたのは、あの子のこと。
(さらちゃん、今何してるかな)
でも、メールをする勇気はなかった。
母に前日話した通り、あの子のペースに合わせて見守る余裕なんて私にはなかった。母に話して少しは落ち着いたんだけど、まだ結局、怖いのは変わらなかったんだと思う。立ち上がって、テレビをつけた。
ちょうど、夕方のニュースがはじまっていたみたい。でも、暗いニュースばかりが続いた。ここからそう遠くないところで起きた放火事件、遠い国の戦争、少し離れた地方の豪雨災害。ーー聞こえてきたニュースは大体そんな感じだったけれど、単語が聞こえてくるだけで、詳しい内容は頭に入ってこなかった。
かなりの時間、テレビは視界の中にあったはずだけど、映像も音も景色にすらなってなかった。何も頭に入ってこないそのあいだ、少しつよくなった雨だけが、時間が動いているのを静かに教えてくれていた。
意識が半分遠くへ行きかけていたころ、母の声が頭を貫いた。
「歩未ー! 運ぶの手伝ってー!」
玄関の方を見ると、母が両腕で2袋ずつ買い物したものを持っていた。
「だから私も荷物持ちに行くって言ったのに」
母を見て思わず笑い混じりに言いながら、私は母を手伝うため居間を出た。
このときテレビで伝えられたニュースなんて、私はもちろん聞いてなかったし、もしかしたら、一生知らないままだったかもしれない。
ーーそう、この次の日、あなたに出会わなかったら。
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