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29話 5回目の日曜日 ~明け方~

 もう確信をもって言えた。ーーこの夢は、見たことがある。


 その家は野原のまん中にあって、大きい家ではなかったけれど、とても心地よい家だった。静かな中で、自然の音が遠くにきこえた。窓からは色とりどりの花がたくさん見えて、時々動物や人が通るのも見えた。何をしていたのかわからないけど、私はそこにしばらく住んでいた。


 3人が、その家に住んでいた。私と、男の子と、女の子。3人とも、見た目は3歳くらいだと思う。どうやって生活していたかなんてわからないけど、心地よい家に3人でとても楽しく過ごしてた。


(ここ、どこなんだろう……?)

 楽しそうな自分とほかの2人を見て、23歳の私は思った。


 最初に、男の子が家を出た。ひどい嵐の日だった。家に残る私ともうひとりの女の子に、男の子は切なそうに手を振った。


(こんな天気の日に、あの男の子は、どこへ行ったの……?)

 出ていった男の子の背中を、残った女の子と自分のうしろから見送って、23歳の私は思った。


 私は残った女の子と、しばらく2人でそこに過ごした。男の子がいたころと同じような、穏やかな日々。


 少し経って地震が起こった。大きい揺れ。一緒に残っていた女の子は、この時家を飛び出して、もう戻って来なかった。


(あんなに大きく揺れたのに、私はどうしてここに無事で残っているの……?)

 家に1人残った自分を見て、23歳の私は思った。


 それからまたしばらく、私はそこで過ごしてた。前と変わらず、穏やかに。でも、ある日外に行きたくなって、私は家の扉を開けた。


 扉の外は、家の中と同じくらい心地よかった。男の子が出て行った日の嵐が考えられないくらい、しずかな景色。私は、家の周りを少し歩いた。


 家の周りをひとまわりして戻ってみると、女の子が立っていた。私の家の扉の前で、ただ扉を見つめる女の子。ちょっと暗めの臙脂色のワンピースを着た女の子。誰かはわからなかったけれど、前に一緒に住んでいた女の子とは別の子だった。見た目は、その子も3歳くらい。23歳の私は、家の前の女の子と出会った自分がどうするのか、離れて見ていた。


 私は、何か話しかけていた。でも女の子は、首を横に振っていた。

 私はそっと両手を出して、女の子の手を取ろうとした。でも女の子は、手を伸ばしてこなかった。

 女の子の口元が動いた。私は、何も言えずに立ち尽くしていた。

 女の子が、私に背中を向けて歩きはじめた。私は、女の子に向けて伸ばしていた手で顔を覆った。


 私に背を向けて歩きはじめたあの女の子は、離れてやり取りを見ていた23歳の私の横を通り過ぎると思ってた。だから両手で顔を覆った幼い私から視線を外して、こっちに向かってくるはずの女の子を見ようとした。だけど、ほんの少しの時間しか経っていないのに、あの女の子の姿はなかった。

 

 もう1回、家の方に目を向けようとしたときに、私は夢から覚めてしまった。



(見たことあるけど、すすんでる……?)

 何度か見ている場面もあるけど、見るたびに少しずつ場面が続きへ進む気がした。しかも、少しずつ具体的になってきて。

 枕元のスマートホンの画面を軽くたたいた。新しい通知は入っていない。日曜日だから、アラームもかけてなかった。まだ瞼は重くて、夢の初めて見た場面はほんとうにかすかにしか覚えてない。前から見たことのある場面で不思議に思ったことや、かすかにしか思い出せなくて気になったことはあったけれど、まだ平日の起きる時間にもなっていなかったから、私はもう1度目を閉じた。


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