27話 5回目の木曜日と金曜日
木曜日と金曜日も、私たちはメールをした。内容は、とりとめのないものばかり。そういうのでは、やっぱりファッション系の話が主になる。相変わらず、あの子は自分のことは話さずに、私にいろんな服や小物を勧めてくれた。
それから、2日とも同じやりとりでメールは終わった。
『またね』
『またね』
2日ともあの子から先にメールがきた。私が電車を降りる直前のやりとりも、ばっちりのタイミングであの子がしてきた。電車は発車時間が決まってるから、乗ってなくてもいいタイミングでメールを送ることはできるかも。でも、この2日間もあの子は乗ってたんだと私は思う。こみ入ったやりとりはまったくしてないけど、水曜日みたいにその日の私の服装にもあの子はメールでふれてきた。
服や小物、それから、最近撮った写真の話もちょっとした。実際に顔を見て話すより、返事を作って、送って、向こうからの返事が届くまで、会話のペースは少し遅い。顔を見てないから、余計長く感じるのかも。でも、遅いことは気にならなかった。
『さらちゃん、どこ?』
私は水曜日、思い切って真正面から訊いたけど、それに対する答えはなかった。そのときは哀しかったけど、なんとなく答えがないのは予想できたし、あとからは、答えがないことがある意味〝答え〟だったのかもしれないと思えていた。それに、あの子は自分のことを話すときもゆっくりだった。だから、少し遅めのやりとりも不安にならなかったんだと思う。
でも、不安じゃないのは、やりとりのペースについてだけ。
訊きたいことは、いっぱいあった。「どうして」、「なんで」って思うことは、数えきれなかった。でも、尋ねることはできなかった。
あの子が話したくないなら知らなくていい。ーーそう思っている私も、まちがいなくいた。でもそれは、もう少し前の話。メールが3日目になった金曜日には、もうそんなお姉さんみたいな余裕、どこにもなかった。
あの子と通勤の15分を一緒に過ごしていろんなことを感じたけれど、やっぱり1番は、一緒にいられてうれしかった。休みの日にまで一緒に出かけて、それはすごく、すごく楽しかった。私に言いたくないことをはぐらかすあの子も、私に身体をくっつけてじっと動かないあの子も、ずっと遠くを見つめて口を噤んでいるあの子も、唯々愛おしかった。それはきっと、日に日にそうなっていったんだと思う。
そんなに愛おしく思っていたのに、それに気づいたのはこのころだった。
きれいな文字が画面に並ぶメールのやりとり。整った、きれいな文字が並んでた。私たちのいつもの会話が、きれいな文字になって画面に見える。
怖くて、怖くて、仕方なかった。
電車を降りると、あの子からのメールはこない。次の朝に電車に乗るまで。1人になると、あの子からきた最後のメールの画面を見ていた。
表情が見えない。声が聞こえない。あの子のおしゃれが見られていない。
(どうして、会ってくれないの?)
(どんな表情でメール見てるの?)
(どんなことを思いながら、私に返事くれてるの?)
代わりに画面の上のきれいな文字は、私にそんなことを思わせた。訊きたいけれど尋ねられない、数え切れない疑問たち。それが文字や声になった瞬間、何かが壊れてしまう気がした。そうやって膨れ上がった疑問たちは、行き場をなくして、合体して1つの憶測になってしまった。
(ほんとはさらちゃん、私から離れたいのかな)
結果としてその憶測は、ある意味では、まちがいじゃなかったかった。でもその気づきは、私が怖くて怖くて仕方のなかったこと、そのものだった。
金曜日の夜、握りしめたスマートホンを頬にあてて私は眠った。




