24話 5回目の月曜日
(知ってる……)
見えた景色が知っている場所だとわかった。
たぶん行ったことはないけれど、知っている家。その家は野原のまん中にあって、大きい家ではなかったけれど、とても心地よい家だった。暑くもなく、寒くもなく。静かな中で、鳥のさえずりやどこかのせせらぎが遠くにきこえた。窓からは色とりどりの花がたくさん見えて、時々動物や人が通るのも見えた。何をしていたのかわからないけど、私はそこにしばらく住んでいた。
1人で住んでいたわけじゃない。3人が、その家に住んでいた。私と、男の子と、女の子。子どもばかりで。3人とも、見た目は同じくらいの年頃だった。詳しいことは覚えてない。でも、心地よい家に3人でとても楽しく過ごしてた。
(楽しかったの、覚えてる)
楽しそうな自分とほかの2人を見て、私は思った。
ある日一緒に住んでいた男の子が、家を出た。外は、ひどい嵐が吹き荒れてたのに。家に残る私ともうひとりの女の子に、男の子は切なそうに手を振った。
(どうして、あの男の子を私たちは止めなかったの?)
出ていった男の子の背中を、残った女の子と自分のうしろから見送って、私は思った。
私は残った女の子と、しばらく2人でそこに過ごした。男の子がいなくなって、寂しい気持ちもあったと思う。でもその気持ちはあまり印象に残っていなかった。私たちは、またしばらく穏やかに過ごした。
(どうして、寂しさを覚えてないの……?)
何事もなかったみたいに穏やかに過ごす自分たちを見て、私は思った。
少し経って地震が起こった。大きい揺れ。一緒に残っていた女の子は、この時家を飛び出して、もう戻って来なかった。
(あの子、大丈夫だったかな?)
家に1人残った自分を見て、私は思った。
それからまたしばらく、私はそこで過ごしてた。前と変わらず、穏やかに。でも、ある日外に行きたくなって、私は家の扉を開けた。
ーー扉を開けたところで、目が覚めた。
今朝見た夢は、見たことのある夢だった。1つ1つの場面を、思いのほか覚えてた。でも前にいつ見たのかは思い出せなくて、あてのない記憶をなんとなく探しながら、私は電車を待っていた。
電車が入ってきて、ゆっくりになって、止まった。
私はいつもの車両に乗ったけど、あの子はどこにもいなかった。それで、前の金曜日に私が電車を降りるとき、あの子が目を瞑ったままだったのを思い出した。
(前にも1回、最初いなかったことあったよね)
不安になったのに気づいて、私は自分をそう励ました。あのときは、降りる間際にあの子に会えた。扉のそばの、いつもの場所で。だから、電車を降りる瞬間まで、私はあの子を待っていた。
この日は結局、あの子に会えなかった。電車を降りて、スマートホンを出した。1度はメールのアイコンを押したけど、すぐ閉じた。
(もうちょっと、待ってみよう)
なぜだか、自然にそう思えた。
電車の見えなくなった線路に目を向けたあと、私は改札の方へ歩きはじめた。




