15話 3回目の土曜日
私はこの日、前の買い物であの子に選んでもらった服を着て行った。淡い水色のワンピース。ワンピースで外に出るなんて、久しぶり。
「おはよ」
電車に乗った私が言うと、あの子は目を瞬いてから、ほっとしたみたいに口元を緩めた。
「おはよ」
あの子はこの日、一段と大人っぽかった。茶色系で統一して、トップスもパンツもシンプルだけれど、デザインに凝っていた。触ってないけど生地がいいのも見てわかる。メイクに抜かりがないのはもちろん。
「今日すごく大人っぽい」
私が言うと、あの子はちょっと間をおいてから、
「ありがと」
と短く言った。
この日は前の土曜日以上にたくさん歩いた。解散時間は前とおんなじ。あの子が言っていたスイーツのお店でお腹いっぱい食べてから動いたから、お店を見ている時間は前より短いくらいのはずなのに、行ったお店の数は前よりも多かった。あの子はすごく華奢なのにものすごくたくさん食べていたから、その分思いっきり動けたのかも。私がこの日お金を使ったのは、スイーツのお店と通勤圏外分の交通費だけ。あの子と一緒に歩いてるだけでうれしかった。
これは私のものを選んでくれる時もそうだったけど、あの子は着てみたい、やってみたいと思ったことはぜんぶ試した。ほんとうにぜんぶ。この前は臙脂のピアスで迷っていたみたいだったけど、この日は迷うことなくひたすら試して移動した。店員さんと慣れた様子で話すあの子は、かわいらしくてかっこいいさわやか系のお姉さんだった。
でもあれだけ試したのに、あの子は何も買ってない。楽しめるだけ、目いっぱい楽しんでいるようには見えたけど。
「今日は付き合ってくれてありがと! 楽しかった〜」
帰りの電車で、あの子の笑顔が弾けた。
「私も楽しかった。ありがと」
私はそれからちょっと迷って、迷ったけれど口にした。
「さらちゃん、何も買わなくてよかったの?」
あの子は外に視線を向けた。何か思ってそうだけど、感情の読み取りにくい静かな瞳だった。視線を追って、私もあの子の見る外を見た。けれど途端に目に西日が刺さって、私は反射的に顔を背けた。
あの子は、しばらく外を見つめていたあとで、私を振り返った。
「こだわっちゃうから、いいの」
言ってあの子は私に顔を近づける。
「もしかして、見ちゃった?」
西日のことかな、と思って私は頷いた。
「大丈夫?」
あの子の表情は、なんとも言えない。心配という言葉よりも、不安がっているみたいに見えた。私はまだ光の残像が残る視界にあの子を映して、なるべく普通に笑ったつもり。でもあの子は、何も言わずに私に身体をくっつけた。この前の、土曜日みたいに。
私が降りる少し前まで、またあの子はちっとも動かなかった。
「またね」
降りる直前に私が言うと、あの子は身体を起こしてほほ笑みながら手を振ってくれた。




