14話 3回目の火曜日から金曜日
火曜日、私はあの子とスマートホンでファッションや雑貨を見ていた。座席に座れたからゆっくり見られた。あの子はまた私に似合うものを探してくれていたみたいで、画面の上であちこちに指を滑らせていた。
「さらちゃん、また一緒に出かけてくれる?」
私が言うと、私の方にスマートホンをよせてお店のおすすめアイテ厶に目を通していたあの子は、顔を上げてきょとんとした。それから少しの間上を見て、
「いいよ」
とこっくり頷いた。
「今度はどこ行く?」
あの子は大きい瞳を私の顔に近づけた。
「どこでもうれしい」
あの子は私よりいろんなお店を知っているし、この前あの子が連れて行ってくれたところはどこも楽しかった。だからあの子が行こうって言ってくれるところなら、どこでもうれしかった。
あの子は切なそうな眼差しでしばらく窓の外を見ていたけれど、やがて明るい表情で私を振り返った。
「じゃあ、今度はスイーツ食べに行きたい!」
あの子のスマートホンの画面には、もうかわいい色とりどりのスイーツが並んでた。
「ちょっと遠いんだけど、スイーツ食べ放題のお店があるの! そこ、行ってみたい!」
あの子は言いながら、早速そのお店のホームページを見せてくれた。
見ると、1000円と少しでほんとうにスイーツを好きなだけ食べさせてもらえるみたいだった。食事もある。ホテルのバイキングくらいは知っていたけど、こういうのも私の知らない世界で新鮮だった。
「行ってみたい」
私が言うとあの子はうれしそうに笑って、
「で、そのあと買い物行こ!」
と付け足した。
それからあとはまたファッションや雑貨をお互いのスマートホンてたくさん見て、それは出かける前日の金曜日まで毎日続いた。
あの子は出かける話をたくさんするけど、たまに私の体調や仕事や家のことをさらっと尋ねた。だけど、私はまだあの子のことをほとんど知らなかった。前にちょっとだけ聞いた感じや一緒にいる時の仕草から、いろいろあるんだろうなとは思っていたけど、わかっていたのはほんとうにそれだけ。相変わらずあの子は自分のことを話そうとしない。あの子のことが気になってはいた。でも、あの子が話したくないのならそのままでよかったし、あの子の見せたいあの子を壊してしまうことは、したくなかった。
私は、電車を下りる時「またね」と言ってくれるあの子が、次の日に「おはよ」とそこにいてくれるだけでうれしかった。




