12話 2回目の日曜日
次の日母と台所に並んで朝食の片付けをしながら、私はあの子と出かけた時の話をした。あの子がどんな子で、どうして親しくなって、前日にどんな所へ出かけたか。だれかにあの子とのことを話したのは、この時が初めてだった。
母は驚きながらもうれしそうに聞いてくれた。私が茶髪のしっかりメイクした子といるのも、友だちと1日中買い物に出ているのも今までにほとんどないことだったから、母はほんとに意外で楽しかったみたい。
私がひと通り話し終えると、母は懐かしそうに言った。
「お母さんも、マキちゃんとよく買い物に行ったわ。楽しかった」
マキちゃんは母の年子の妹、私の叔母。今は落ち着いた格好をしてるけど、昔は斬新なファッションを好んで、考え方も中々他にいないタイプだったみたい。でもとても仲がよくて、結婚するまでは休みのたびに2人でよく出かけたらしい。
「歩未にきょうだいをあげたかったけど、できなかったから…。小さい頃は身体も心配だったし、なかなか遊ぶのもほかの子みたいにってわけにはいかなかったけど……。……よかった」
両親は、子どもを授かるまでに時間がかかった。授からなかったわけではないけれど、生まれたのは私がはじめて。その私も生まれた時から大きな病気をして、小さい頃は入退院を繰り返してた。中学生のころから入院はしなくなったけれど、友だちと遊ぶ時には守りに入って、はめを外すということはできなかった。両親、特に母にとって、私は私の想像よりずっとずっと代えのきかない存在なのだと思う。拭いているお皿に向かって言ってた母は、穏やかな顔をしていたけれど、泣いているようにも見えた。
「また行けそうな日に、行っていい?」
私の体調はもうほとんど心配いらなかった。弱いのは、ひたすら私の気持ち。だから、自分でも少しびっくりした。自分の体調や家族の事情を言い訳に、自分からそんなふうに言うことのほとんどなかった私が、ちゃんと、そう言いたいと思って言えた。
「家のことは気にしなくていい。やりたいことは、やれる時に思いっきり楽しみなさい」
そのとき母の優しい声から、私は安堵より、母の生き方、信念みたいなものをつよく感じた。




