35回のふたり通勤

　3日続けて買ったばかりの通勤定期を落とした歩未ーー私ーーは、3日続けて拾ってくれた女の子と話すようになった。見た目も歳も考え方も、ぜんぜんちがう女の子。毎朝通勤電車で話すだけ。あとは休みに2回、一緒に出かけた。あまりしゃべらない日も、たくさんあった。どこか不思議で、事情があることに気づきながらも、自分とまったくちがうその子といることは、歩未にとって次第に大きな場所を占めてゆく。

「また明日ね」、「またね」。
　ほとんど毎日、このやりとりは欠かしていない。しかし、だんだんとその子が自分から離れていっているかもしれないと歩未は気づく。気づきはじめた頃、歩未の前に１人の青年ーーあなたーーが現れた。青年から聞かされた言葉がきっかけで、やがて歩未は、その女の子の事情や、自分に会いに来た理由を知ることになる。

　すべてを知ったとき、歩未は、改めて「生」を見つめた。

　これは、それからもう少し時間が経って、歩未がきっかけをくれた青年にかつてのことを話すお話。