2-2 波乱
アスカたちがクラスに到着すると、既に王女の周りには人だかりができていた。
クラス内の人数は明らかに16人よりも多い。どうやら他のクラスの生徒も混じっているらしい。
「メルトリス様!ずっとお話できたらって思ってたんです!」
「様づけなんてやめてくださいな、ぜひ呼び捨てでお願いします。」
「そんな、恐れ多い!!せめてさん付けで……。」
「おい君、王女様相手に馴れ馴れしいぞ!話しかけるのであればもっと順序を守ってだな!」
「あらあら、皆さん気軽に話しかけてくださいな。私は誰でも大歓迎ですわ。」
メルトリスは多くの生徒に囲まれる中、嫌な顔ひとつせずに一人一人の話にしっかりと耳を傾けている。
座席指定は特にないようだが、メルトリスの周りの席は座ろうにも座れない状態となってしまっていた。
「まあ大体予想はできたことだがね。それにしてもすごい人気だな、王女殿下は。」
「仕方がないよ、評判通りの人だもの。」
アスカは窓側の一番後ろの列に2つ空いている席があるのを確認すると、ロンバルドを見てそこを指さした。
ロンバルドは頷き、席に向かって歩き出した。
「王女殿下の周りの席がいいものだが、おそらく席替えか何かがこの後行われるだろう。それを気長に待つことにするさ。」
「かなりの争奪戦になりそうだねそれは……。」
アスカはロンバルドの隣の席につくと、周りを見渡した。
空いている席に荷物が置いてあるのは、おそらく王女の取り巻きの誰かのものだろう。
アスカたち以外に席に座っているのは3名。
一人は最前席で大人しく分厚い本を読んでいるショートカットの女子。王女には全く興味がないようだ。
その後ろに座っている三つ編みの女子は、どこか緊張した様子で王女のことをチラチラと気にしている。輪に入りたくても入れないといった様子である。
最後の一人は窓際最前列に座っている男子、アスカと同じく小柄で、頬杖をついて窓の外を眺めている。
「それにしても1クラス16人というのは少ないね。すぐに名前を覚えられそうだよ。」
「そうだな。なんならこの学院4学年分の名前も覚えようと思えば覚えられる少なささ。」
アスカとロンバルドが他愛のない会話をしていると、教室前方の扉がガラガラと開いた。
入ってきたのは細身で眼鏡をかけ、知的そうな見た目をした教師だった。
「席につけ。他クラスの者は早急に自分のクラスに戻るように。そろそろ予鈴が鳴る。」
教師がそう言うとメルトリスの周りの生徒は慌ただしく王女に別れを告げ解散していった。
ーーーゴーン、ゴーン、ゴーンーーー
予鈴の鐘が鳴ると、教師は徐に口を開いた。
「今日からこのクラスの担任を受け持つ、サルベール・クロロフォンドだ。
このクラスには色々と厄介の種が多そうで憂鬱な気分だ。」
サルベールはそう言うとメルトリスをチラッと一瞥した。
メルトリスは相変わらず微笑みを浮かべている。
「これから君たちには入学式に参加してもらう。
今日はそのあと簡単なガイダンスをして解散だ。
各自、今から表示する番号順に廊下に並べ。」
サルベールは指を鳴らした。
すると、各座席の目の前にクラスの生徒の名前と番号が割り振られた一覧が浮かび上がった。
メルトリスの番号は1、ロンバルドは2、アスカは15である。
「さあ、早く準備をしろ。学院の案内をしつつ、これより講堂に向かう。」
あっさりとした教師の自己紹介と突然の展開に生徒たちは困惑しながらぞろぞろと立ち上がった。
「ああ、言い忘れていた。」
廊下に出かけたサルベールは不気味な笑みを浮かべながら言った。
「入学式の並び順だけでなく、このクラスの教育の一切は私に一任されている。
ちなみに、その番号は「成績順」だ。」
波乱の幕開けはすぐそこに迫っていた。