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漆黒のローリエ  作者: 隣の芝生
4/10

1-4 家族

「ねえ、ローリエはまだ?」


引越し作業を終えると、マーガレットは退屈そうに背伸びをした。

スラリと伸びた手足が映える。これが12歳の母親役というのは少し無理があるんじゃないか。そう思いながらヴィオラは答えた。


「ローリエじゃない、アスカだ。何度も言ってるだろ。君はダフナ・エレイン。」

「あら、それは明日からの話でしょ、マイダーリン?」


マーガレットはそう言うと投げキッスをしてみせた。

これほどの美貌を持った女性に言い寄られれば、世の男の9割はイチコロだろう。残りの1割はよほどの物好きだ。


「僕らはこれからこの家で暮らす「家族」なんだ。日が変わったからっておいそれとなれるものでもないだろ。今からでも慣れておくべきさ。」

「全く、面倒ねえ。ローリ……アスカはともかくアンタと家族だなんてさ。」

「仕方ないだろ、年齢的に適任が僕しかいなかったんだったんだから。」


ヴィオラは少し顔をしかめた。


「何もラブラブになろうって言うんじゃない。上手く家族ごっこが出来ていればそれでいいのさ。」

「ま、これも仕事のうちだから我慢してあげるわ。せいぜい私好みの男になりなさいな。」


マーガレットは長く伸びた黒い髪の毛を指先で弄りながら言った。

ヴィオラは将来に一抹の不安を覚えつつ、話を変えることにした。


「そう言えば、ガーベラが依頼をしくじったらしいじゃないか。」

「らしいわねえ。」

「らしいって。彼女の指導役は君だろ?後始末もクレマチスに放り投げてるらしいじゃないか。」


マーガレットはうるさそうに眉をひそめた。


「あの子はたぶんアスカよりも若いのよ。それなのに任務を与えるだなんて、それ自体が酷な話だわ。」

「だからこそ、だろ。僕らには出来なくてガーベラには出来ることはたくさんある。」


ヴィオラはリビングの中央にあるソファに腰掛け、深くため息をついた。


「これが僕らに与えられた生き方なんだ。こんな生き方しか出来ないのさ。」

「そんな私たちが幸せな家族ごっこだなんてね。」


マーガレットはヴィオラの横に座った。

高身長で手足が長く、顔の小さい2人が並んで座っている姿は、傍から見れば美男美女のお似合いな夫婦といった光景である。


「まあこれもアスカのためだ。任務とはいえ、彼には彼が送るべきだった日常を与えてあげたい。」

「どうかしらね。それが幸せかどうかは、アスカが決めることよ。この任務を経てあの子が「普通」になっちゃったら、困るのは私たちっていうのもあるし。」


ヴィオラは頷きつつも、はっきりとした口調で答えた。


「でも、それでも彼には知ってもらいたいんだ。ありえたかもしれない未来を。」

「私たちが欲しくても得られなかった生活を、ってことね。」


マーガレットはそう言うと深く目を瞑った。




アスカことローリエが家に到着したのは、そんな2人の会話から数分がたった頃だった。


「ただいま。って言えばいいのかな。」


ローリエは少し気恥しそうに鼻をかきながら言った。


「あら、おかえり!これからよろしくね、アスカ!」


マーガレットはソファから立ち上がるとローリエの元へ駆け寄り、そのまま彼を抱きしめた。

ローリエはマーガレットの胸に押しつぶされ、息苦しそうに悶える。


「アスカ、おかえり。引越しはもう済んでるから、ゆっくりするといいよ。君の部屋は2階だ。」


ヴィオラは2人の様子に微笑みながら思った。

これが家族。自分たちの知らない社会の「当たり前」。


「マーガ……母さん、抱きつくのはやめてくれ。苦しいんだ。」

「あら、男たちはこうするとすごく喜ぶのよ。アスカにはまだ早かったかしら。」


マーガレットはローリエを解放すると、舌を少し出してわざとらしくおどけてみせた。


「そういうのは父さんにしてやりなよ。もうしたのかもしれないけど。 」

「とんでもない!なんであんな軟弱な男に!」

「母さん、仮にも夫婦なんだから仲良くしてよね。」


ローリエはそう言うとケラケラと笑った。

しかし、ヴィオラはその笑顔にどこかぎこちなさを感じた。


「全く、酷い言われようだな。是非とも僕にも優しくしてくれると嬉しいな、ダフナ。」

「あら、それならもっとマシな男になりなさいな、マユラ。」


言い合いつつもなんだかんだ仲の良い2人をみてローリエは微笑えんだ。

夫婦役、にはまさに適任である。マーガレットは少し若く感じるが。


「まあいいわ、そろそろ夜だし夕飯の支度をするわよ。何が食べたい?アスカ。」

「うーん、またビーフシチューが食べたいな。この前作ってくれたやつ。」

「いいわよ、じゃあ食材買ってこなくっちゃ。母さん頑張っちゃうからね!」


マーガレットは明るくはちきれんばかりの笑顔で答えた。

何よりも家族を欲しているのは彼女なのかもしれない。ヴィオラはそう思い、この役割を任された重みを感じるのだった。


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