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漆黒のローリエ  作者: 隣の芝生
2/10

1-2 夢現

アルモンド王国。世界最大の大陸であるイェルシア大陸の西端に位置し、大陸間の交易で栄える国である。

王都ベルザには王城を中心に6本の大通りが走っており、昼間は日々商業を営む人々で活気に溢れている。

しかし、それだけ栄えるということは小犯罪も後を絶たないということであり。


「捕まえて、ひったくりよ!!」


昼間のベルザ、賑わいを見せる商店街で女性の声が響いた。

女性のものらしき鞄を抱えた大柄な男が猛牛のように走り去っていく。


「へっ、そう簡単に捕まるかよ!」


男は裏路地に入ると、左折右折を繰り返していく。

土地勘があるのか、複雑に入り組んだ道を何の躊躇も無く素早く駆け抜け、道中のゴミ箱や吊るされている洗濯物を後続の障害になるようになぎ払いながら進んでいく。

悲鳴を聞き付け男を追っていた人々も、ものの数秒で男を見失ってしまった。


「へへへ、ちょろいもんだぜ全く。」


男は追っ手をまいたことを確認し、盗んだ鞄の中身を漁り始めた。


「お、今日は大漁だねえ。いい酒が飲めそうだぜ。」


ニヤニヤと男はにやけながら鞄を大事そうに脇に抱えると、すぐ後方に人の気配を感じとった。

素早く振り返ると、そこにはローブを身にまとった少年が立っていた。


(追っ手か?いや、俺の足にこのガキがついてこられたはずがない。現に何もしてこねえ。)


男は小さく舌打ちをすると、少年の方に向き返った。


「おい坊主、邪魔だ。どけよ。」

「邪魔なのはそっち。通りたいんだけど。」


裏通りは人が1人通れるか程の道幅しかない。

少年はともかく、男の図体ではすれ違うことがやっとといったスペースである。

男はため息をついて少年に近づいた。


「お前、礼儀ってもんを分かってねえなあ。年上は敬うもんだぜ。」

「こそ泥にはたらく礼儀なんてないよ。おじさんのじゃないでしょ。その鞄。」


少年はその場から1歩たりとも動く気配がない。

男は再度舌打ちをした。


「おい、殴らねえとわかんねえタイプか?ガキだからって容赦ねえぞ俺は。」

「小物のセリフだね。やれるものならやってみなよ。」

「てめえ、上等だこのクソガキ!!」


男は右腕を大きく振り上げた。

少年は全く怯む様子はない。

男はそのまま振り上げた拳で少年に殴りかかろうとした。

しかし、拳が少年の顔面にあたりかけたそのとき、男は自分の体から急に力が抜け、地に足のつかない感覚に見舞われた。


「え、お、おい。な、なんだよこいつは!!」


男が気づいたとき、彼の体は2mほど宙に浮いていた。そう、文字通り地に足がついていないのである。


「その傲慢さを深く恥じ入るといいよ。小物さん。」


少年がそう呟くと、男は宙に浮いた状態から強く地面に叩きつけられた。

男が気を失ったのは言うまでもなかった。




男が目を覚ましたのは、裏路地から響いた音に駆けつけた警備兵達がやってきた後だった。

すぐさま男は商店街で起こしたひったくりの容疑で捕らえられたが、その取り調べで不可解な供述を繰り返していた。

小柄な少年に殴りかかろうとしたら体が宙に浮いた、だとか。

その少年は魔術を使ったに違いない、だとか。

挙句の果てに、その少年は無詠唱で魔術を使った、だとか。

尋問官はあまりにも荒唐無稽なその話に終始呆れ笑いを繰り返していたという。

尋問官の反応を要約するとこうだ。


「その年頃の少年が無詠唱で魔術を唱えられるわけが無い。百歩譲ってできたとしても、無詠唱で魔術を使ったのなら、現場のどこかに必ず魔術痕が数日は残っているはず。」


彼の反応は世界の常識から見て至極真っ当なものである。

しかし、男は繰り返すのだった。


「黒いローブを着たガキにやられたんだ!!」


誰もが彼の話を信じようとはしなかった。

きっと頭を打った衝撃で変な夢でも見たのだろうと。

皆がそう言うのであった。

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