ねえ知ってる?
私の母は掃除をしない。
いや、自称綺麗好きの彼女。
掃除らしき行動はする。
物を積み上げ、山を作る。
例えば。
食器のタワー。
服のエベレスト。
母は積み上げる天才だった。
ただし触れると容易く崩れるのが難点だ。
まだ武勇伝は続く。
母が資格取得をするんだ!と勇んで買われた書籍ら。
彼らはいま私の寝床に鎮座している。
加えて、彼女は収集のプロでもある。
骨董店の店主など目ではない。
捨てられている物が欲しければなんでも拾ってくる。
皿から鏡、よくわからない壺まで。
そして母は慈悲深い。
主に彼女の問題と私以外に関してだ。
尽きることを知らない愛情を、
求めぬモノに振り撒くのだ。
神をも凌ぐその姿勢に幾度と私は涙した。
何せあらゆるモノから見向きもされない。
私は幾度と彼らと崩れ落ちたことか。
私は不勉強だから彼女の行動に理解が及ばない。
そんな母だからか。
自然と部屋の埃は増し、
山にデコレーションをしている。
白と黒のコントラストは哀愁を誘う。
女手ひとつで育ててくれたのだ。
これは仕方ないと割り切るべきか。
思案すると母は問うてくる。
ねえ、なんであなたが生まれてきたか知ってる?
それはねお金を貯めてマンションを一棟買うの。
思案すると母は問うてくる。
ねえ、なんであなたが生まれてきたか知ってる?
それはね私の老後の面倒をみるのよ。
思案すると母は問うてくる。
ねえ、なんであなたが生まれてきたか知ってる?
思案すると母は問うてくる。
ねえ、なんであなたが生まれてきたか知ってる?
あなたは私のために生きるのよ。
思案すると母は問うてくる。
ねえ、なんであなたが生まれてきたか知ってる?
ええ、既にわかっています。
私は生まれてきた意味を見出しているんです。
あなたは母を愛せますか。
あなたは親を愛せますか。
私は安らかに眠ってほしいと思っています。
なるべく早くにね。