壱
今のトコ、練習がてら
何度、繰り返しても、結果が変わらなければ意味がない。
どんなに努力しても、努力に言葉を尽くしても。想いをぶつけても。幾つも、ぶつけても。結局、叶わない運命がある。
ルートも、言葉も、芝居のように決まってて。
生まれながらの悪人なんて、いやしないのに。
誰かがつぶやいた、悪意が濁流になって、自分の運命さえも押し流していく。自分の想いも、決意も、努力も、関係なく。見た目の弱者に負けて。様々な愛を奪われて。
結局、自分に残ったのは。素直に弱さを見せてはならないと、洗脳を施されながら生きている自分しか残されていない。
もし、残されているのなら、それは、これから自分が探し出さないといけない事なんだろう。
ただ、言いたかったコト。好かれようとした事が空回りして。最も愛が欲しい人を奪われ続けていく運命から逃れられたら。次こそは、好かれようと藻掻かずに、嫌われ者として生きてやろう。
幾度か暗転していく、朧げな記憶の中で、そう思った。
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霞む視線の先にあったのは、真っ白な世界。まぶしさを、そんなに感じさせないぐらいに。首を動かそうとするにも、力が入らない。首の動かし方を忘れたかのように、緩慢だ。
直接見た事はないけれど、『てれび』で見た事がある部屋の北欧テイスト様式。空気は暖かみがあるけど、淀んではいなさそう。今のところ、天井部分しか見えないけれど、空腹を覚えたり、尿意を覚えたりしたら、誰かしら呼べば良いかな?そう思ったら、少し不安が取れて、眠気に身を委ねていった。
ーーー
頑丈に誂えた柵に不釣り合いの、白いシーツにくるまわれたお嬢様。目が覚めた時は、うだるげに、視線だけ動かしている。まるで、観察しているように。何かに納得され、何かに安心を得たのか、またお眠りになられた。
やはり、女のコは大人しい。そして、儚い。この家には、既に跡継ぎがいらっしゃる。けれど、ちょっとマズイ。何と言うか、人が変わってしまわれた。以前とは違う。最早、他人と応対しているような感覚。遠い将来、お嬢様は嫁いで行かれる。それ迄は、わたし達を癒やして下さいませ。
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次に、目が覚めた時は、自分よりも大きな体格の女性がいた。しかも、複数人。年齢は、見た目からして若そうだと思うくらいの美人さん。彼女達が口にする言葉は、まだ意味が分からない。自分が一気に小さくなったのか、彼女達が大きすぎたのか考えるべきもない。おもちゃ目線な、感じ。自分が、赤ん坊になってしまったんだなぁ。てのひらも、もみじのようでモチモチしてて。口からこぼれる言葉は、ベイビー特有の声。
「あう、あ。あぁ」
『あ』行しか言えてないねー。
これから、彼女達が話す言葉を覚えないといけなくなるんだろうか。そうして、乙女ゲームみたいな世界で生きるんだろうか。全く分からない異世界に生まれたというより、乙女ゲームのような世界に生まれたといった方がすんなりくる。あ。もしかして、乙女ゲームじゃないかもしれない。いや、乙女ゲームであって欲しいな。冒険ものとか無理。バトルもの、苦手なんだよね。良心が痛むから。
ヒロインは、いるのかな?悪役令嬢とか。出来れば、モブが最良。取り巻きなんか要らない。ヒロインにも、攻略対象にも、関わらない。関わったら最後。その先にあるのは、処刑エンドか追放エンド。ヒロインに婚約者とか家族が奪われそうになったら、敵と認識だ。せっかく、生まれ直したんだから。穏やかに暮らしたい。
これからすべき事は、家族構成を把握。大人しく、赤ん坊を演じましょ。
誤字脱字に、気をつけてみます