明日という日に君はいない
おはこんばんにちは!sakuyaです!
初めての短編です!
ではではどうぞ!
僕の恋人は、死んだ。
ほんの一週間前、僕の目の前で。
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12月25日。
街がイルミネーションで美しく彩られるこの日、ふと空を見上げると、雪が降ってきていた。
「ホワイトクリスマス……か。うん! 良き良き! 」
そう言いながらスキップしている私は、秋谷澄香。18歳の女子高生! 現在なんと……
【 彼氏持ち】なんだっっっ!!!
ふふーんどうだ! 参ったか!
付き合っているのは、幼馴染の華原透。ねぇ聞いて聞いて!
彼ね……ホンットに、イケメンなの!
自慢だよ(๑• ̀ω•́๑)✧ドヤァ
しかも性格もいいし、頭もいいし、運動も……(以下略)
彼といると本当に楽しくてね、だから私、この日をすっごく心待ちにしてたんだ!実は今日は初デートなんだよ!
「ふんふふんふふーん♪」
なんて鼻歌をきざみながら、私は目的地に到着した。
目的地であるココは、私達の地域唯一の名所の
(フラワーパーク)
ここでは毎年、何百本もの花が季節ごとに咲き誇るの。
初めて見た時はホントに圧巻すぎて言葉も出なかったんだよね。
ってそれはさておき
(えーと透は……あ、いたいた! )
かけよろうとして、ふと足を止めた。なぜなら
(う、美しすぎる……!!! )
月光に照らされながら憂いの表情と共に花を見つめる彼……。
周囲を見渡すと、何人かのマダムたちが透に見とれているのがわかった。
(ふぇぇ。外見だけでたらしだぁ。)
と思いながら私は止めていた足を再び動かし、彼の元へかけよった。
「透! やっほ! 」
明るく弾んだ声で、私は透に声をかける。
すると、彼は振り返った後、ぱぁっと笑顔になって
「澄ちゃん! 早かったね! 」
と言った。
言うて早くはないけどなと思いつつも、彼の子犬のような瞳を見て、思わず心を撃ち抜かれる。
「ふぐっ。」
「ふぐ? 」
良かった。こいつが天然で良かった。さすがにこんなことに気づかれたら私引かれる。
「ううんなんでもない。透こそ早かったね。」
「そんなことないよ! 来たの1時間前とかだし! 」
「1時か……え?」
いやいやいや。え? は、早すぎでしょ。
「え、なんか……ごめん。」
なんとなく罪悪感を感じた私は謝った。
「ふぇ? なんで澄ちゃんが謝ってるの? んーーーーーー? よくわかんないけど許す! 」
うん。可愛い。
「ふふふ。」
おっと。ついつい笑ってしまった。しかし、透はあまり気にする様子もなく
「? どうしたの? ……まいっか! 行こ!澄ちゃん! 」
と言い、私の手を握った。
「うん。リョーかい! 」
私もその手を握り返す。そして私たちは、2人並んできらめく街中を歩き出した。
********
デートもそろそろ終わる頃だろうか。
あれから、約5時間が過ぎ、赤みがかっていた空では、散りばめられた星が一面に輝いていた。
「楽しかったね! 」
私は透にそう声をかけた。
映画を見たり、ショッピングをしたり、猫カフェに行ったりと。
初めてのデートにしては、なかなかに濃い時間を過ごすことができたんじゃないかな。
「うん! そうだね! 」
透は元気よく返事をする。こうしていると、なんだか子供の面倒を見ているみたいだ。
「ふふっ。」
しばらく歩いていると、私達は住宅街へと入っていった。
「ねぇ、澄ちゃん。あれって野良猫かな?」
透がさした指の先には、十字路があるのだが……
「か、可愛い! 」
そのど真ん中に、ぶち模様の子猫がいた。しかし、よく見るとその子は足を怪我しているようだった。
「動けないのかな……。今助けに行くね。」
そう言って、私はその猫の側へ歩き出した。
と、その時
「え?」
十字路の向こう側から、自動車がやってきていた。しかもこちらには気づいていない様子だった。
「ヤバい、あの子が轢かれちゃう! 」
反射的に、私の体は動き出した。
「!? 澄ちゃん! 」
透がなにか叫んでいたがスルーした。
私は全速力で走っていき……
「間に合った! 」
と子猫を抱き抱えた。そして、逃げようと試みたが……
「あ……」
ダメだった。既に目前に、車が迫っていた。
キキーーーッッッッ!!!ドーーーーンッッッ……
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小さい頃、ふざけて秘密基地を作った森。
一緒に遊んで、2人して泥だらけになった公園。
階段から転げ落ちて、澄ちゃんが骨折した歩道橋。
頑張って一緒に勉強して、2人で受かった難関高校。
……僕の思い出には、いつも澄ちゃんがいた。
明るくて、活発で、おっちょこちょいだけど、すっごく優しい、そんな女の子が。
僕は、彼女が大好きだった。だから、告白して、成功して、すっごくすっごく、嬉しかった。
なのに……
あれだけ、思い出の場所を巡ったのに、
どうして……。どうして、涙が出てこないのだろう。
澄ちゃんは、僕の愛する彼女は、もうこの世のどこにもいないというのに。
********
僕らの初デートだったあの日。
しんしんと雪が降り積る中、辺りが真っ白になっていく中。
彼女だけが、だんだんと赤く染っていった。
最初は、何が何だかわからなくて。少しの間、呆然と立ち尽くしていて。
近所に住んでいたおばさんに肩を叩かれるまで、僕の目の前は真っ暗だった。
ハッと気がついて、澄ちゃんのそばにかけよると、彼女はまだ、生きていた。
すごく苦しそうな、痛そうな表情をしながら、それでも生きていたんだ。
近くを通りかかったお姉さんが、119番通報をしてくれたらしい。
だから僕は、澄ちゃんが助かると、そう信じきっていた。澄ちゃんも澄ちゃんで、自分のことは自分が1番わかってたはずなのに、
「大丈夫だよ。心配しないで。」
とか言いながら、腕に抱えていた子猫を、僕に預けた。病院には連れて行けないからって。
そう言われてしまったから、僕は救急車が来たのを見届けて、その後猛ダッシュで家に帰った。
家にいたお母さんにめちゃくちゃ心配されたけど、軽く事情を話して、子猫を渡した後、僕は急いで彼女のいる病院へ向かった。
途中で死にそうなほど息切れした。でも構わず、住宅街をかけ続けた。何か、嫌な予感がしていたから。
……予感は、見事に的中した。
それも、僕が1番信じたくない結末で。
彼女は、秋谷澄香は、死んだ。
出血多量との事だった。
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彼女が救った子猫は、現在うちで飼われている。
本当は里親に出すはずだったけど、うちの親が気に入ってしまったらしい。この前父さんが、ホームセンターで大量の木材を買ってきて
「猫用の遊具を作る! 」
と張り切っていた。
彼女の友達は、なかなかに薄情だった。
皆、お葬式の時は涙ぐんでいたけど、その2日後に僕が学校へ行くと、誰もが楽しそうに談笑していた。
……そんなもんなのだろうか。僕が、おかしいのだろうか。
僕は、あの日から1度も泣いていない。あの日から1度も、笑っていない。
なんだか、そういった感情が湧き上がってこないのだ。
まるで、心が欠けてしまったかのように。
********
そんな状態のまま居続けた僕に、母さんは10万円を渡して言った。
「澄香ちゃんとの思い出を、辿りなさい。透だけは、何があっても忘れちゃいけないの。」
そうして、半ば強制的に家を追い出された僕は、貰った10万円を握りしめて、歩き出した。
彼女との思い出の場所へ。
でも……ダメだった。
何も、感じなかった。彼女との記憶は、こんなにも鮮明に残っているというのに。
「……あ。」
気がつくと、僕は初デートの待ち合わせ場所だった「フラワーパーク」にまで足を運んでいた。
今、この場所には、誰もいなかった。
「……静かだ。」
……つい、最近のことだ。ここで2人で会ったのは……。
物思いにふける。あの日のことを、思い出す。
「……どうしたらいいんだろ。」
突然、聞き覚えのある声が、辺りに反響した。
バッと後ろを振り向く……が、そこにはもちろん誰もいない。
だが……
「……澄、ちゃん? 」
何も見えない。けど、その空間に何かを感じた。
思わず手をのばす。だが、手は空振りする。
と、
「ふふっ。」
小さな笑い声が聞こえ、同時に背中に何かが当たる感覚があった。それは、「人」だった。
温もりもないし、姿も見えない……。けれどそこには、確かに澄ちゃんがいた。
「せーかい。透が大好きな、澄ちゃんだよ!」
澄ちゃん。死んだはずの澄ちゃんが、今、ここにいる。
その時、僕の中で、何かが壊れた。
ずっと、僕を縛っていた、何かが。
その瞬間、僕はようやく泣けた。
大声で、子供のように。わんわんと、泣き続けた。
頭を撫でられる感覚が、なんだかすごく懐かしかった。
「透。」
ある程度泣き止んだ僕に、澄ちゃんは静かに話しかける。
「私はね、死んでから、ずっと透を見ていたの。透が気づく前から、ずっと。それで見ていて、気づいた。」
一呼吸おいて、彼女は言う。
「私は、透の重荷になっている。」
「!? そんなことは」
「あるの。正確には、私の死が、だけどね。透は、受け入れられてないの。私が死んだという事実を。」
「……。」
返す言葉が見つからなかった。
僕は、信じたくなかった。澄ちゃんが、死んだということを。
頭ではわかっていたけど……心が、追いつかなかった。
だって、今までずっと一緒だったんだ。急にお別れなんて、そんなの嫌に決まってるじゃないか。
「透。」
再度、彼女に名を呼ばれる。
「お願い、受け入れて。私は死んで、あなたは生きてる。もう、一緒にはいられないの……。だから」
「無理だよ! 」
僕は、叫ぶ。
「僕は、僕は……!!澄ちゃんがいなきゃ、ダメなんだ……。」
できないことだとわかってる。澄ちゃんに言ったところで、どうしようもないことくらい、わかってる。
でも、言うしかなかった。
僕の心が、叫んでいた。
「……透。」
3回目。彼女は、僕の名を呼んで……そして、抱きしめた。
「……え。」
「透。」
静かな声で、彼女は言う。
「私は、あなたと一緒にいることは出来ない。でも、あなたを見守ることはできる。」
僕を落ち着かせるように、優しげな声で。
「私は、あなたと幸せになることは出来ない。でも、あなたの幸せを願うことはできる。」
くるりと半回転して、彼女は僕に持たれてくる。完全に安心しているように、僕と背中を合わせる。
何も変わらない、いつもの彼女。
でも、姿は見えない。そこにいるけど、いないんだ。彼女はもう、この世界に存在していないから。
(こんなの……受け入れるしか、ないじゃないか。)
僕は心の中で、そう思った。
それを察したのか、彼女はふふっと笑うと、
「ひとつだけ、お願い。」
と呟いた。
「……なに?」
聞き返すと、彼女は言った。
「私のことを、忘れないでね。」
そんな、こと
「……当たり前でしょ。澄ちゃん。」
忘れるわけがない。忘れられる訳がない。こんなにも、大好きな人のことを。
僕は前に手をのばす。もう、お別れだ。
辛い。辛いけど、でももう立ち止まれない。君のためにも。
涙を流す。けれど僕は、笑っていた。
「バイバイ、澄ちゃん。」
「バイバイ、透。元気でね。」
彼女は最後、涙声だった。僕もそうだった。
けど、ふれない。お別れは、笑顔でするものだから。
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そうして……先程まであった感覚は、完全に消え失せた。
澄ちゃんは、もうどこにもいない。それを思うと、再び悲しくなる。また、泣きなくなってしまう。
でも、そうじゃないんだよね。澄ちゃん。
パチンッと僕は自分の頬を軽く叩く。
明日という日に、君はいないけど、きっとどこかで、僕を見守ってくれてるはずだ。
だから……
「行こう。」
僕はゆっくりと、前を向いて歩き出した。
いかがでしたでしょうか?
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それでは!