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第13話 剛腕! ジブル・シラッセル

 しかし先々の事ばかりに気を巡らせている時では無かった。

 今の状況ですら充分にカナセは危険の中に居た。

 公園を挟みこむ様にしてパトカーのサイレンが聞こえてくる。

「見つかったわ!」

「見つかったって?」

「多分、ボルフの仲間が通報したんだわ。そうでなくても上層界は周囲の目で監視装置みたいになっている」

 そしてライカの言った通り、ウラ警の高速追跡車の群れが林の中にまで乗り上げ、公園を包囲した。

 周囲はウラ警の隊員達で溢れ返り、カナセ達に銃口を向けた。

 包囲が完了すると隊員達の中を背の高い強面の男が前に出た。

「ジブル・シラッセル!」 

 男を見てライカが思わず声を上げる。

「ジブル……シラッセル?」

「ウラ警の隊長よ……」

 ライカの説明にカナセは息を飲む。

「久しぶりだな、ライカ・アコンゲル」

 横柄な態度でシラッセルが声を上げた。

 だが警察とテロリストの関係なのだから横柄で当然だ。

「あなたが下層界の床を落としたのね! この悪党!」

 ライカがシラッセルを非難する。

「悪党から悪党とはご挨拶だな」

「やって良い事と悪い事があるとは思わないの?! あれでどれほど罪のない人達が死んだと思ってるの?!」

「戦いに犠牲は付き物だ」

「それだけ? それだけの為に?!」

 冷然と答えるシラッセルの言葉にライカは茫然とする。

「だが相手がファイタスの総統、そしてエリザベス・アムンヘルムの弟子というのなら積み上げた死者の数だけ価値がある。それで平和が訪れるのだからな」

 そう答えるとシラッセルは今度はカナセを睨みつけた。

「お初にお目に掛る、総統閣下」

「そんなご丁寧な挨拶をウラ鉄から受けたのは初めてだよ、隊長さん!」

 カナセの言葉にも下層界に対する蛮行への怒りが籠っている。

「早速だが、貴殿を横のライカと共に逮捕する」

「捕まえて、機を見計らって俺を殺すか? 審判の会!」

「人聞きが悪いな」

「フンッ、メッセージまで送っといて、今更、惚けるなよ!」

 もはやお互い議論を重ねる気すらない。

「逮捕しろ! 御託は取調室で聞いてやる」

 シラッセルが命令を下すと、隊員達が一斉に動き出した。

 包囲の輪が徐々に狭くなる。

 その中でライカがカナセに向かってつぶやいた。

「カナセ・コウヤ、私が奴等を引き付ける。その間に奴等の車を奪って逃げなさい」

「逃げなさいってアンタはどうする?」

「勿論、別の方向に向かって逃げるわ。そうすれば奴等は分散して逃げやすくなるはずよ。後は何が何でも下層界に逃げ込みなさい。仲間が何とかしてくれる。いい?」

「判った。下層界で落ち合おう」

「じゃあ、行くわよ! 3秒だけ、目を瞑って!」

 そうライカが合図を送った途端、彼女の左目を隠していた黒い眼帯から凄まじい青い光を発っした。

 光は目を眩ませ周囲の隊員達は動きを止める。

 眼帯の奥に収められた物は閃光投射機の魔煌具だった。

「今よ!」

「生き延びろよ、ライカ!」

 二人が別方向に向かって走った。

 カナセは閃光で動けなくなった隊員達の間を抜け、停めてあった高速追跡車の一台に飛び乗る。

「走れ! ヴァイハーン」

 カナセがモーフィング・マギアを発動させた途端、高速追跡車が走り出した。

 追跡車は周囲に停められていたウラ警の車両を強引に掻き分けながら、そのまま公園から脱出した。

 時間の経過と共にウラ警の隊員達が何とか視力を取り戻す。

 その時には既にカナセは追跡車で通りを猛スピードで走っていた。

「逃がすな、追え!」

 瞳を抑えながらシラッセルが号令を飛ばす。

 その声に隊員達が反応して高速追跡車を駆る。

 突然の逃走劇、追跡隊は隊を二分しカナセとライカを追跡した。

 カナセは後ろを振り向く。

 既に計六台の高速追跡車が追走していた。

 ライカの安否は皆目見当が付かない。

「上手く逃げ延びてくれたらいいけど。ライカ・アコンゲル……」

 今日、初めて出会ったライカの事を心配しつつ、カナセはバックミラーで後ろの追跡車の動向を観察した。

 追跡車の速度は早い。それなりに上手い連中が運転している様だ。

 それにここはウラ警のナワバリだ。

 土地勘もあるし、サイレン一つ鳴らせば民間の車は瞬く間に道を開ける。

 お陰で追跡隊は瞬く間に距離を詰めて来た。

「なら、あそこで纏めてやっつけてやる!」

 カナセは逃走を諦め大通りから脇道に入った。

 そこは一台分の車幅しかない一方通行の隘路だった。

 カナセは高速追跡車をヴァイハーンに変形させた。

 隘路に向かって次々とウラ警の追跡隊が進入して来る。

「このぉ!」

 追跡車の車列に向かってヴァイハーンが飛び掛かった。

 ヴァイハーンの左足が先頭車両のフロントガラスを勢いよく踏み抜いた。

 その一撃で後続の車両も前に向かって動けなくなる。

 幸い、追跡隊の中にマギアギアの姿は見えない。

 こうなれば闘神の独壇場だ。

「もう一丁!」

 そして一両目を飛び越え、二両目のフロントガラスを踏み潰す。

 追跡隊は何も出来ないまま立ち往生の状態だ。

「どうだ!」

 追跡隊が動けなくなった事を見届けると、カナセは隘路の奥へと進んでいった。

 隘路の先は小さな駐車場になっており、その先が出口へと通じていた。

「よし、このまま脱出だ」

 カナセは先を急ぐ、今の上層界には敵しか居ない。

 すぐにでも下層界に戻りアコンゲルと合流しなければ。

 しかし隘路の奥の出口で新しい高速追跡車と遭遇した。

「待ち伏せ?」

 追跡車は一台だけだった。

 だがカナセは強敵の予感を感じる。

 するとこちらの思惑に答えるかの様に目の前の追跡車は変形を開始し、一騎のマギナギアとなって立ち塞がった。

 相手のマギアギアには両肩から四本の腕が生え、顔に三つの目がある。

 それはまるで異形の邪神の様な井出達だ。

「こいつが本命か!」

 ヴァイハーンが邪神に向かって挑み掛かった。

 隘路の中は忽ち掴み合いの戦場となった。

 四本の腕の二本の腕でヴァイハーンの両腕が取られる。

 その間に残った二本の腕でヴァイハーンの胴体を殴打した。

 胴体はたちまち歪に変形し、凶打がカナセの間近にまで迫る。

「くそっ!」

 カナセは邪神の拘束から逃れようとする。

 しかしヴァイハーンの腕は邪神の細い腕から離れようとしない。

「な、なんで……力ずくならカナセのヴァイハーンの方が強いはずなのに!」

 カナセが焦る。敵もこちらも素体は同型の高速追跡車のはずだ。

 それは発生する煌力は同じな事を意味する。

 おまけにあちらの腕は四本に別れている為、一本ごとが非力なまでに細い。

 なのに邪神はこちらを上回る腕力を発揮し、ヴァイハーンを力ずくでねじ伏せていく。

「ちぃ!」

 カナセは舌打ちしながら強引にヴァイハーンの身をよじらせると無理やり邪神の両腕を引き放した。

 ヴァイハーンは解放され何とか自由を取り戻す。

 しかし邪神のマギアギアもカナセを逃がす気はない。

 邪神は装甲板の一部を変形させ四本の腕にそれぞれ剣を握らせた。

「あれが奴の武器か!」

 早速右腕の二本の剣がヴァイハーンに向かって斬りかかった。

 二本の剣を前にカナセは左腕から魔煌の盾を形成させ構える。

 邪神の二打同時攻撃が闘神の盾を激しく打った。

 凄まじい打撃がヴァイハーンを襲う。

「うわっ!」

 その剣圧にカナセが思わず呻く。

 直後に盾は硝子の様に砕け闘神は無防備になった。

 恐るべき腕力。それが二本同時に襲って来ては流石にヴァイハーンも防ぎようがない。

 更にそこに残った敵の左の二本の剣までもが襲い掛かり、また続けて右の二本の剣が襲い掛かる。

 交互に責め立てる四本の剣、堪え切れずカナセは後ろに下がる。

 そうせざる得ない。

 四本の剛剣による息もつかせぬ連続攻撃! 時には嵐の中に置かれた大樹の様に力強くしなり、時にはそよ風に舞う木の葉の様に複雑に舞う。

 その動き、全く予測が付かない。しかも恐ろしく速い。

 当に達人の熟練技。その間にヴァイハーンは装甲を削られ傷付いていく。

「クソッ! 手も足も!」

 カナセは何も出来ず再び引き下がった。

 そして直ぐに周囲のビルの壁の前に追い込まれた。

「しまった! 逃げ場が……」

 ヴァイハーンに後がない。

 そこへ四本の剣が絡み合う植物の蔓の様にヴァイハーンを襲う。

 カナセは仕方なく左に逃げた。

 だが回避は完ぺきではない。

 案の定、直後にヴァイハーンの右肩の装甲板が凄まじい勢いで剥された。

「うわあああああああああああああああああああ!」

 四本の剣に翻弄されながらカナセが叫ぶ。

 そして思い知る。

 あの四本の剣からは到底、逃げられない。

 敵の技量がこちらを圧倒的に上回っているのだ。

「このままじゃ、勝ち目無しだ……。だったら!」

 カナセは本能の赴くまま剣に身を任せた。

「正攻法でイチかバチかだ!」

 一点突破、遂にカナセが閃撃来煌丸で反撃に出る。

 ヴァイハーンの握り拳の先端から光の刃が伸び、そのまま邪神の胸元に向かって襲い掛った。

「むっ!」

 異変を察知した邪神の中のシラッセルが慌てて剣を翳した。

 よもやヴァイハーンの右手から光の剣が伸びるとはシラッセルも思ってもない。

 一方、カナセの光剣は二本の剣を掻き分け奇跡的に邪神の右肩に命中する。

「せやっ!」

 その直後、カナセの掛け声と共に光剣が一瞬で邪神の二本の右腕を斬り飛ばした。

「お返しだ!」

 消えていく相手の右腕を前にカナセが歓喜する。。

「思い知ったか! スルタンとコリンの思いが合わさったこの力!」

 右手を落とされた敵に向かってカナセが得意げに言い放つ。

 凄まじい光剣の威力。光剣来煌丸の威力は絶大だ。突貫戟の威力をそのままに刀身が長い上に手首の自由度まで加わった。

 そこにコリンから伝授された剣技まで加わる。

 一本の光剣が戦局を逆転させた。

 今の敵に右側からの攻撃に対処すべき手段がない。

「これなら勝てる! 行くぞ、ジブル・シラッセル!」

 今度はヴァイハーンを相手の右側に滑り込ませ、そのまま踏み込んだ。

 そして死角を突いて邪神の首の前で来煌丸を振るった。

「喰らえ!」

 しかし邪神は半身を素早く捻ると、易々と光剣を残った左の二剣で防いだ。

「ふん、小賢しい! 素人の付け焼刃が偶々、上手くいった程度で……」

 邪神の中でシラッセルが憤る。

 すると失われた右腕の付け根から蜘蛛の糸の様な細い鉄線が吐き出された。

「なんだ、何をするつもりだ」

 鍔競り合いの最中、鉄線から発せられる異様な煌気にカナセが息を飲む。

 すると鉄線は草の蔓の様に自在に伸びると駐車場に止めてあった一台の乗用車を絡めとった。

 そして1tを超える車体を軽々と持ち上げるとそのまま鬼神の体に引き寄せた。

 車は斬り飛ばされた右腕の付け根に吸収され、瞬く間に一本の腕に姿を変えた。

「なっ!」

 カナセが驚きで声を上げる。

「図に乗るなよ、魔女の弟子!」

 邪神は生まれ変わった車一台分の右腕で目の前のヴァイハーンを殴り飛ばした。

「!!」

 下から掬い上げる様な衝撃にカナセは声も出せないまま翻弄される。

 そしてそのまま駐車場に停めてあった車の上に叩き落された。

「痛てて……」

 ひしゃげた闘神の胴体の中でカナセが呻く。

 潰れた車両がクッションになったお陰でカナセは何とか軽傷で留まる。

 しかし倒れている暇は無い。

 ヴァイハーンを動かそうにもコアモーターが反応しない。

 たった一度の打撃浴びただけでヴァイハーンは機能停止に陥ったのだ。

「くそっ……」

 瞬く間にヴァイハーンの優勢性が失われていく。

 一方で邪神は仰向けに倒れたヴァイハーンに近寄ると左手に残った二本の剣で両腕を串刺しにした。切っ先は潰れた車両を突き抜けると、地面にまでめり込み元々動けないヴァイハーンは完全に身動き取れなくなる。

「ふんっ! 雉も鳴かずば撃たれまいに……」

 目の前で立ち尽くす邪神から男の声が聞こえた。

「何だと?」

 カナセが思わず聞き返す。

「こんなロータスまでしゃしゃり出ずに辺境で朽ち果てさえいれば、我がアスラニーパに殺されずに済んだと言うのだ……、カナセ・コウヤ」

「しゃしゃり出てって、お前……何様のつもりだ……」

「何者でもない。私は平穏を愛するただの一市民だよ」

 そう言いながらウラ警大隊長は邪神のマギアギア、アスラニーパの足の裏でヴァイハーンの頭を踏み始めた。

「わぁ!」

 視界を塞がれたカナセが思わず呻く。

 ジブル・シラッセルは続ける。

「ならば貴様の師匠だったというあの女こそ何だと言うのだ……。理想の為と称して、この国を実験台にした挙句、無茶苦茶にして自分は逃げ去った。そんな女の存在とは何だというのだ! 神にでもなったつもりか!」

 シラッセルの声には怒りが籠っている。

「実験? 無茶苦茶?」

 だがカナセは男の言葉に要領を得ない。

 カナセの知っている師匠は世捨て人だった。

 そんな師匠が理想と呼べるような志を示したことなど一度もなかった。

そんな不審がるカナセに鬼神の中の男は言った。

「知らないのなら教えてやる。エリザベス・アムンヘルムはロータスに居た最後の年、ウラ鉄の研究施設で密かに煌気の臨界実験を行った」

「煌気の……臨界実験?」

「コアの中の煌気が外からの影響によってどれほど高められるかっていう実験だ。だが実験は失敗し臨界したコアは研究施設ごと吹き飛ばした。私の恋人だった人と一緒にな!」

 シラッセルは血の涙を流す様に吐き捨てた。

「それがアンタが審判の会の為に戦ている理由か……。下層界の人達を殺してでも俺をっつけ狙う理由か……」

 シラッセルの持つ過去にカナセは唖然とする。

 恋人が死んだ事には同情出来る。

 それで師匠と弟子が憎いのなら憎めばいい。

 だがそれだけの理由でこの男は大勢の他人を躊躇なく巻き込んだのだ。

 しかしそのカナセの言い方がシラッセルの癪に触った。

「子供が知った様な口を!」

 思い余ってアスラニーパの脚がヴァイハーンの頭を踏み潰した。

 直後に今度は動けなくなった闘神の体を何度も蹴り続ける。

「うがああああああああああ!」

 繰り返し打ちのめされるヴァイハーン。騎体を襲う激しい衝撃。もはやカナセに反撃の糸口は見えない。

 そんな中、シラッセルは尚も言う。

「新生魔煌技が復活すれば、いずれ世界中が臨界実験に手を付ける。そうなればどうなる? 簡単な事だ。あの時以上の悲劇が繰り広げられるだけだ。だがそうなる前に人類は過ちを正さねばならん」

「過ちを正すだって?」

「コアを捨て、緩やかな死を受け入れるのだ。我等の理想に従ってな。そして生物の種としての天寿を全うして、大いなる自然に帰るのだ。だが……その前にカナセ・コウヤ、貴様は死なねばならん! 世界に真の平安が訪れる前に!」

 そして最後に鬼神は巨大な右の拳を掲げた。

 この一振りで中のカナセもろともヴァイハーンを完全に叩き潰そうとする。

「そうは……させるか!」

 カナセは高速追跡車に搭載されていた煙幕弾を発射した。

 ヴァイハーンとアスラニーパの間に灰色の煙が立ち込める。

「むっ!」

 何かある! そう直感したシラッセルが煙を前に一瞬、躊躇する。

 だがその一瞬の躊躇はカナセに逃げる隙を与えた。

 カナセは鉄拳が届く直前にヴァイハーンの胸板を強制解放すると操縦席から脱出した。

「この期に及んで!」

 それが最後の悪あがきだと判るとシラッセルはアスラニーパに右の拳を振り下ろさせた。

 直後に邪神の拳が無人となったヴァイハーンを叩き潰す。

 一方、カナセは煙の中で駐車場の車の屋根の上を懸命に駆け抜けると、目星を付けた一台の乗用車に飛び付き魔煌技を浴びせた。

 消えていく煙の中で、モーフィングマギアが新たなヴァイハーンを産み出す。

「これは驚いた。間を置かずして連続して煌装騎を起動させるとは……」

 しかしシラッセルの口調からは驚きの感情はまるで感じない。

 鬼神は三本の腕を構えて、新生ヴァイハーンと対峙する。

「しかしそれで仕切り直せると思うな!」

 アスラニーパが再び三本の腕で襲い掛かる。

 だが今度はカナセも本気で組み合おうとはしない。

 アスラニーパに背を向けると全力で駆け出し、邪神を置いて駐車場からの脱出を謀った。

 奴は強い。間違いなくカナセより数段上の戦闘魔煌士だ。

 だから単身でこちらを追って来たのだ。

「そんな奴と真面に組み合ってられない……」

 ならば今すぐ、この場から、ゴディバから離れなければ。

「逃がすか!」

 しかしそれをシラッセルが許そうとはしない。

「私の武器が剣や拳だけだと思うなよ!」

 振り向いたアスラニーパの右腕から見えない波動が放たれる。

 それは空気を塊にして射出する風の高等攻撃魔煌技だった。

 波動を浴びた途端、ヴァイハーンの両手足は引き千切られ、胴体は捻じ曲げられた。

 そしてそのまま目の前のビルの壁へと叩き付けられた。

 カナセの中で全身の骨が軋む音がした。

「がっ!」

 その痛みにカナセが血反吐を吐く。

 命は取り留めたもののこれでカナセの戦闘力は完全に喪失した。

 そして鉄の骸の中で気を失う。

 駐車場を出た先の隘路でヴァイハーンは機能を停止した。

 そのヴァイハーンにアスラニーパが近付くと右腕からあの鉄線を延ばし絡めとった。

 そして力任せに振り回すと回転運動に勢いを付けて投げ飛ばした。

 鉄線の絡まったヴァイハーンは為す術も無く、隘路から元の大通りへと投げ出される。

 大通りでは立ち往生していた6台の高速追跡者と彼等に呼び寄せられていた全ての隊員達が詰め寄っていた。

 隊員が動かなくなったヴァイハーンを見守る中、そこへ隊長のアスラニーパが姿を現すと歓声が上がる。

 流石は我等の隊長、あのファイタスの総裁を完膚なきまでに叩きのめした。

 後は、憎き犯罪者を逮捕するだけだ。

 事実を前に誰もがそう思った。

 隊員達がヴァイハーンに近寄ろうとする。

 だがその隊長機が今度は隊員達に向かって牙を剥いた。

「気安く、私の獲物に触るなぁ!」

 ウラ警に向かって風の波動が放たれた。

 途端に隘路に押し寄せた部下達は次々と見えない空気の塊に吹き飛ばされ、最期には押しつぶされていく。

 気持ちが昂っていたのはむしろ彼の方だった。

 このまま部下に逮捕されればカナセは生かされたまま総裁の元へ連れてかれる。

 そうなれば新生魔煌技は復活し、我等の理想は永遠に闇に葬られる事になる。

「行かせはせん!」

 シラッセルの攻撃は繰り返される。

 その光景にまだ生き残っていた部下達は愕然とした。

 信頼する上司の突然の乱心。その狂乱の中で殺されていく仲間達。

 隊員達は何も出来ず、大混乱に陥り、その場から逃げ出す事しか出来なかった。

 一方、シラッセルも仇敵の存在で頭がいっぱいになり正常な判断を失っていた。

 あるのは審判の会の理想と亡くなった恋人の思いだけだ。

 そんな状況の中でカナセは目を醒ます。

「何がどうなって……」

 目を開くとウラ警の隊員達が隊長に殺されていく。

 目を疑う様な異常な光景だがこの機を逃す訳にはいかない。

 カナセは四肢を失ったヴァイハーンから這い出ると、大通りの隅を逃走し始めた。

 全身はボロ布の様に成り果て、足取りも鉛を詰めた様に重い。

 しかしカナセの逃走は部下を殺し終えたシラッセルの知る所となった。

「逃がさんぞ!」

 アスラニーパも表通りに躍り出てカナセの背後に迫ると風の波動を放とうとする。

「トドメだ、カナセ・コウヤ。師匠の代わりに貴様が罪を償え」

 今一度、空気の塊がカナセを狙う。

「くそっ! 駄目か……」

 もはやカナセに逃げ場はない。

 ここまで来て、奴の放つ波動に踏みつぶされる他なかった。

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