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第8話 帰ってきた日常

 三人を乗せたバンは森の中の屋敷に到着した。

 しかし帰った早々、カナセは居間とカナセの執務室に積み上げられた書類の山を見て唖然とする。

「なに、これ?……」

 そのクレアの問い掛けにカナセは苦笑いを浮かべる。

「いやぁ~。クレアが居ない間に書類仕事が溜まっちゃってね~」

「師匠、アタイ達だって頑張ったんだよ! けど書類は次々に来るしトギスの件で手は止まっちゃうしで……」

「まあ、そういう事だよ」

「なるほどね……」

 二人の言葉にクレアは溜息を吐く。

 これではせっかく故郷で骨休めを済ませても、また疲れがぶり返しそうだ。

「コリン、悪いけどお茶を煎れてくれる? まあ、何にしてひとまず休憩しましょう。放って置いても書類は逃げないわ……」

 そう言うとクレアはテーブルの上に大きな包みを置いた。

「何これ?」

「開けてみなさいな。ヨシュアの人達からのおみやげよ」

「おみやげ?」

 カナセが包みを開け、重箱の蓋を開けると中から凍ったオハギが出て来た。

 それはヨシュアから出立の際、知り合いの人達から受け取った餞別のオハギだった。

 しかもその量が半端ではない。

「これを全部?」

「嬉しいでしょ?」

 それをクレアは食べられる分を大皿に盛って魔煌技で解凍した。

 その温まったオハギをカナセがかぶりつく。

「甘い……」

「美味しい!」

「さあ、腹ごしらえが済んだら皆で作業開始よ! オハギのおかげで食事の用意の手間が省けるからバリバリ書類の整理をしていくわ!」

 そしてクレアの言葉通り、皆でお土産のオハギを食べた後、仕事と相成った。

 帰ってきてくれたクレアは優秀だった。あれだけ山のようになっていた書類は彼女の手により次々と処理されていく。

 それでも仕事は毎日、明朝から深夜に及び、気の休まる間が無い。

 しかも仕事が遅いと回収に来たメイヴィスがせっついてくる。

 勿論、仕事で忙しい三人を支える朝昼晩の食事はオハギだった。

 そんなオハギ三昧の日々も書類整理が終わる頃にようやく完食した。

 だがその頃になると、カナセとコリンも流石にオハギを前にするだけウンザリする様になっていた。


 クレアが戻って屋敷の床の上にまで積まれた書類の山が片付くと、総督府の皆にも再び時間の余裕が生まれた。

 カナセは早朝から屋敷の外でコリンと向き合う。

 二人の手にはそれぞれに木刀が握られていた。

「さあ、カナセ。思う存分、掛って来い!」

「では、いざ参る! キェエエエエエエエエエッ!」

 雄叫びを上げながらカナセがコリンに切り掛かった。

 しかしそれをコリンが訳もなく受け流す。

 カナセはコリンによる剣の稽古の最中だった。

 稽古は一切の魔煌技を使わない純粋な剣の修行だった。

 カナセ何度もコリンに挑み掛かりその度に、木製の切っ先にいなされ、時には手痛い反撃を喰らう。

「痛てえっ!」

 コリンの籠手打ちがカナセの木刀を払い落とした。

 混じり気無しの剣の腕だけならコリンはカナセの敵ではなかった。

「コラッ! また攻撃ばっかりに気が行って、防御がおろそかになっているよ! それと一撃必殺狙いばかり考えちゃ駄目だっていつも言ってるでしょ! それよりも相手の動きをよく見て! 受ける事も考えて!」

 師匠であるコリンの指導はなかなか厳しい。

 同時に手強い。

 前にカナセが指摘した流麗すぎる素直な剣捌きも改善されて、今では彼女の剣技はカナセの攻撃を全く寄せ付けない。

 逆にカナセの全身は木刀で打たれた打撲痕で青くなっており、そこから血まで滲んでい居た。

 しかしこんな稽古を続けるのには理由があった。

 理由はヨシュアの機械職人、スルタンから友情の証として贈られたあのコアケースだ。

 クレアがヨシュアから戻って来た時の土産の品の一つで、中には小型のコアを幾つも収納する事が出来る。

 カナセはコアケースを弄っている最中、先端から突貫戟が発生させられる事を発見した。

 光の刃の長さは約70㎝ほど、まさに突貫戟を超えた光剣だった。

「ラーマ先生の魔煌メスに似てるな……」

「でも彼女のメスは専用の医療魔煌具だけど、あなたのは場合は副次的効果よ。珍しい事もあるものね」

 とはクレアの談だった。

 スルタンは村の鍛冶屋だ。飽くまでコアの携帯用のケースを作っただけに過ぎない。

 だがカナセの使う戦闘魔煌技との相性によってただの金属筒が奇跡的に魔煌具に生まれ変わったのだ。

しかも発見はもう一つ、コアケースはカナセが持っているだけでヴァイハーンの右掌にも同じ様に光剣を発動させられたのだ。

 カナセはこの優れた魔煌具を手にしながらコリンに聞く。

「突貫戟の打ち方と普通の剣の振るい方ではどっちが強いと思う?」

「ヴァイハーンの動きを見て思ったけど技の多さも切っ先の威力も普通に光剣の方が上だと思うよ。それに、その光剣を持ってると右手以外からも光を出せるんでしょ?」

 コリンの言う通りだった。

 確かに光剣で使った方が力が入りやすく、剣を握った手以外からも光の刃が発生させられる副次的効果も見つかった。

 例えばコアケースを持っているだけでヴァイハーンの額からも光の刃が生み出せたのだ。

「例えば敵の意表を突いて頭突きに使えたりするとか、戦いの幅が広がると思うよ」

「でも頭突きで戦うなんて事態はあまり想定したくないな」

「けど、どっちにしても使いこなすには鍛錬が必要だよね。今のカナセの剣の腕じゃ、使う前に振り回されるのがオチだよ」

「振り回されるって?」

「使ってる間に自分の腕を切り落としてるって事」

 そうコリンに言われた事が切っ掛けで、カナセは彼女に本格的な剣の稽古を付けて貰う事にした。

「じゃあ、そのコアケースにも名前を付けたら?」

「だったら、閃撃来煌丸だ!」

 その日からカナセは暇を見つけては剣の修行に没頭した。

 仕事に追われて中断の時期もあったがその甲斐あってカナセの剣の腕前は瞬く間に上達していった。

 それでも二刀流の達人でもあるコリンからはまだ一本も取れてない。

「くそ~、ジゴバ屋敷では俺の方が強かったはずなのに」

 落ちた木刀を拾い上げながらカナセがつぶやく。

「こりゃ、師匠を超えるにはまだまだ時間が掛かるかな?」

「何言ってるのよ。そんな付け焼刃でアタイから一本取ろうなんて十年早いわ」

 そう言ってコリンは落胆する弟子を笑った。

「カナセ君、時間よ~」

 屋敷の中からクレアの呼ぶ声が聞こえた。

 今日はこれから66委員会の会議があるのだ。

 しかし腫れ上がったカナセの腕を見た瞬間、クレアが声を上げる。

「まあ、こんなに青あざだらけにして、痛くない?」

「ちょっとだけね」

「でしょうね、。湿布を張りましょう」

 そう言いながらクレアは薬箱を持ち出し湿布薬を取り出した。

「でもこんな傷だらけの腕を会議で見せられたら皆、驚くでしょうね」

「どうってことないさ。剣の稽古だって言えば誰だって納得するよ」

「でも稽古もほどほどにね。この体はもう、カナセ君だけの物じゃないんだからね」

「ああ、判ってるよ」

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