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第6話 勝負!

 一行はカナセのバンを先頭に車列を組みながら街道を進んだ。

 バンの運転はコリンが行いカナセとラーマは後部座席に乗った。

 一方、トギスとナタルマは後列の憲兵隊の大型車に別々に乗せられていた。

 カナセが振り向きながら後列の車両を眺めていると、ラーマが仏頂面でカナセの右腕を叩いて見せた。

「いっ痛ぇぇぇぇぇぇ~!」

 腕を叩かれたカナセが悲鳴を上げる。

「やっぱり! ナタルマに蹴られた所を折られたのね」

 横に居るラーマは呆れ顔だ。

 ハンドルを握りながらコリンが心配気に訊ねる。

「大丈夫、カナセ?」

「ああ、何とかな……」

「でも、それってナタルマを庇った事にならない? 確かカナセ、ナタルマの事が大っ嫌いよね」

「ああ、大っ嫌いさ……今でも憎ったらしいクソアマだって思ってるよ……」

「でも何で?」

「人間、偉くなると嫌いな奴とも上手に付き合って行かなくちゃいけない時があるのさ。特にナタルマの戦闘力は色々と代えがたい。上官への不服従で懲罰を加えるのは簡単だけど、それで終わらせるのは勿体ない。ラーマのそう思うだろ?」

「まあ、立派な心掛けですこと。って一応、誉めといて上げるわ」

 そう言いながらラーマは手際よくカナセの治療を始めた。

「だからコリンも覚えておくんだ。大人になったら痛いときにも痛い。辛いときに辛いって言えない時があるんだって事をね。きっとお前の大兄様も同じ事を言うと思うよ」

 そうコリンに向かってカナセは諭してみせた。

 しかしコリンは口をへの字に曲げながら言った。

「そんなやせ我慢ならアタイは一生、大人になんかなりたくないな……」

 やがて一行が集団で辿り着いたのは総督府のある森の中だった。

 森の中ではギギが乗り捨てた囮のバンがそのままにされていた。

「ギギの奴、上手く隠れてるな……」

 カナセはギギの姿が見えない事に安堵する。

 そして皆の前で言った。

「さあ、勝負の会場はここだ。一応、ルールを言っとく。勝負は一本勝負、相手を殺しちゃいけない。あと、近くに屋敷があるけどそれも壊しちゃいけないぜ。審判は俺。俺が止めに入ったらどんな状況でも即、試合終了。判ったか?」

「ふん、良いぜ。どうしたって勝つのはオイラだ」

「トギスは?」

「う、うん」

「じゃあ……」

「ちょっと待って。提案があるわ」

 そんな中、ラーマが口を挟んだ。

「この際、何か賭けてみるってのはどう? ソッチの方が俄然、燃えるわよ」

「賭けるって、何を? 金か?」

「いいえ、勝った方の願いを総統閣下が全力で叶えるってのはどうかしら?」

「ええ?!」

 ラーマの提案にカナセが困惑すると、横からナタルマの笑い声が聞こえた。

「あははははは、そいつぁ良いや!」

「ラーマ、そいつぁ……」

「それ位、良いじゃない。これから二人は己の強さを賭けて戦うのよ。それくらいの甲斐性見せて上げなさいよ」

「じゃあ、オイラから言うぜ」

「ナタルマ、俺はまだ良い何て一言も……」

「オイラにはリサの野郎を倒す為の独立部隊が必要だ。それを作る為の金と人を総統の貴様が用意しろ!」

「部隊って……どの位の規模だ?」

「まあ、精々、連隊クラスかな?」

「馬鹿! 連隊なんて用意出来るか!」

「フンッ! 湿気た事言いやがって……。連隊が駄目なら最低でも大隊レベルだ。判ったな、総統閣下様よ!」

「ああ、考えておくよ。しかし大隊を寄越せとはな……」

 その大隊レベルでもファイタスでは五百人を超える大規模兵団だ。

 無理難題の要求だが約束なら叶えてやらねばならない。

「トギスは何かあるか?」

「じゃあ、僕が勝ったら、この場で僕を解放して! そしてこのまま安全にヨシュアに送り届けて……」

「駄目だ! それだけは絶対に駄目だ!」

 トギスが言い終わる前にパルッセ少尉が首を突っ込んできた。

「総統閣下! その要求は警備隊として承服しかねます! それでも閣下がトギス・エニールの要求を通されると言うのなら自分は全力を持って、この試合を阻止させて頂きます!」

「だ、そうだ。トギス。だからもっと現実的な事で頼むよ」

「そんなぁ~。どう考えたって大隊よりも控えめな要求なのに……」

 そう言ってトギスは落胆する。

「だったら、もう練兵場に連れ帰っても僕を虐めないって隊長に誓わせて! 練兵場にも確約させて!」

「ああ、それなら俺にだって出来るよ。ナタルマも判ったな」

「ふん、好きにしな。しかしオイラが勝ったら帰ってからのシゴキを倍にしてやるから覚悟しておけよ!」

「ヒイイイイイイ!」

「少尉もこれなら良いだろ? 責任は全部、俺が持つ」

「自分の任務はトギス本人を連れ戻す事ですので、それなら……」

「よし決まりだ」

 約束が決まると憲兵隊がトギスの手錠を外した。

「じゃあ、試合開始だ!」

 開始早々、ナタルマが手袋に納められたコアを発動させると両腕から二本の銀色の籠手が現れた。

 籠手はファイタスから支給された新しい魔煌の籠手だった。

 その為、前の物と比べて大きく形が変わっていた。

 今度の籠手はより重厚さを増し、拳から漲る煌力も凄まじい。

 そんな中、森の奥からコリンの乗ったバンが近寄って来た。

 バンは先ほどギギが囮に使った物だった。

「トギス、屋根の無いのより、こっちのバンを使いなよ。石をぶつけられてボディの一部がへこんでいるけど、屋根も付いてるから防御の足しになるはずだよ」

「う、うん……」

 トギスはコリンが親切に運んでくれたバンに乗り込むとコアモーターを発動させた。

 そんなトギスを見てナタルマが吠える。

「トギス! 手前ぇ、また逃げるつもりか! おい、カナセ・コウヤ! 審判なら奴を止めろ!」

「慌てるな、トギスはただ戦闘の準備をしてるだけだよ」

「戦闘の準備?」

「トギスはマギライダーだ。バンを使ってマギアギアを発動させるのは当然だろ? まさかお前と同じ様に拳と拳でやり合うとでも思ったか?」

「ふんっ! そうかよ!」

 その後、皆の前に軽装歩兵の井出達のマギアギアが現れた。

 その名も「キリンシャ」ギップフェル島でカナセが見たものと同形の煌装騎だった。

「さあ、準備が出来たんなら、さっさとゴングを鳴らせ!」

 ナタルマが急かすとカナセは森の中で「始め!」の声を上げた。

「頑張れ、トギス!」

 コリンが応援すると、ナタルマとキリンシャが同時に動き出す。

 ナタルマが近付こうとするのに対し、トギスはしきりに距離を取ろうとする。

 その動きは対照的だ。

「逃げるな、トギス!」

「そんな正面切って戦える訳ないでしょ!」

 猪突猛進と及び腰、二人の性格がよく現れている。

「喰らえ!」

 早速、ナタルマが魔煌の籠手の一撃を放った。

 それをトギスが何とか回避すると一撃は背後にあった雑木をなぎ倒した。

「うわああああああ!」

 幹はカナセや憲兵隊の間に降りかかると、皆が慌てて回避する。

「逃げてばかりじゃ駄目だよ! 全力で戦わなきゃ!」

 コリンがトギスに向かって叫ぶ。

 しかしキリンシャは逃げ回るばかりで組み合おうとしない。

 それどころかキリンシャの動きは思いの外、素早く、ナタルマの追跡を上手くかわしていった。

「ちょこまかと逃げ回りやがって!」

 ナタルマがトギスの動きにイラつき始める。

 だがトギスの思わぬ俊敏さの原因は他ならぬナタルマ自身にあった。 

 トギスは日々、ナタルマから厳しい訓練を受けていた。

 泣きながらも辛いシゴキに耐えて来た。

 その成果がここに来てようやく開花し始めたのだ。

 練兵場での訓練はトギス自身にとって決して無駄ではなかったという事だ。

 だがトギスをこのまま逃がす気はナタルマには無い。

「だったら、目に物みせてやる!」

 ナタルマが目の前の杉の木に足を掛けると瞬く間に登っていった。

 そしてそのまま幹から伸びる木の枝の中に入っていくと、次の瞬間には足蹴にして隣の

幹に飛び移る。

 その素早さたるや、野性の猿やむささびを超える有様だ。

「ひいいいいいいいいいいい!」

 同時に頭上を飛び回るナタルマの動きにトギスが顔を引き攣らせる。

「けっ! びびってやがる!」

 そして機を見計らってナタルマが降下して迫った。

「あわわわわわ!」

 突然、頭上から迫って来るナタルマの脅威にキリンシャの中のトギスは目を白黒させる。

 キリンシャの動きが止まった。

「テヤァ!」

 気合一発、ナタルマの鉄拳が森の中のマギアギアに襲い掛かる!

「うわあああああああ!」

 トギスが何とか逃げようを足を動かす。

 しかし願い敵わず、籠手から放たれた一撃はキリンシャから左脚を奪った。

 機械の脚が意図も容易くもぎ取られるとトギスは行動の自由を失った。

 森の中でキリンシャが横たわれる。

 機械の巨人相手でもナタルマの強さは健在だ。

「ふん! どうだ、弱虫!」

 倒れたキリンシャの前でナタルマが得意げに鼻を鳴らした。

 一方、倒れたままのキリンシャからはか細げなトギスの声が聞こえる。

「まだ……まだだ……」

 トギスはまだ戦うつもりで居た。そして勇気を振り絞って叫ぶ。

「僕は弱虫じゃない!」

 そう言い放った瞬間、キリンシャの右腕から何かが飛んだ。

 それは先端を輪っか状に結った牽引用のワイヤーロープだった。

 ロープの環はナタルマの籠手に絡みつくと互いの右腕を繋ぎ合わせた。

 同時にキリンシャが雄叫びの様にクラクションをうるさく鳴らした。

 するとそれが合図かの様に残った両腕がワイヤーを引き始める。

「ふん、力比べが……」

 キリンシャの動きに合わせる様にナタルマも両腕でワイヤーを掴んだ。

 小さな森の中で機械と人間の一対一の綱引きが始まった。

 しかしマギアルマの効験凄まじく、ナタルマの力はグイグイとキリンシャを体ごと引き摺り始める。

「ああ、このままじゃ、トギスが負けちゃうよ!」

 コリンが心配気に騒ぐ。

 そしてトギスの抵抗空しく、ナタルマの勝利は目前にまで迫っていた。

 後は拳の一撃をキリンシャの胴体に撃ち込めばそれで終わる。

 でなければこんな綱引きに付き合うような事はしない。

「しかし……」

 ナタルマはつぶやく。

 先ほどから鳴り止まないクラクションの音がうるさい。

 どうしてトギスはクラクションの音を止めないのか? 鳴り物で自分を奮い立たせるにしても、あれでは中に居る本人もうるさいのではないか? もしかしてクラクションを鳴らす部品が壊れでもしたか?

 理由はどうあれ、これではクラクションの音以外は何も聞こえない……。

「何も聞こえない?」

 ナタルマは自身のつぶやいた言葉に違和感を覚える。

 それは幼少から戦いに単身身を晒して来た彼女らしい戦闘魔煌士の勘だった。

「一体、何だって言うんだ?」

 ナタルマは頭を捻る。

 だが彼女に真意を気付かされる前に違和感の正体は襲い掛って来た。

 何処からとなく飛んできた別のワイヤーの投げ縄がナタルマの小さな体を拘束した。

「なっ!」

 ナタルマが短く叫んだ。

 そして新しい投げ縄の先端を見る。

 するとそこには巻きワイヤーを装備した重厚な鎧で体を固めたゴーレムが立っていた。

 ゴーレムは勝負の前からトギスが憲兵隊の大型車に乗せられた際、予め魔煌技を掛けて作って置いた機械人形だった。

 トギスの魔煌士としてのの最大の能力はマギアギアとゴーレムを同時に動かす事の出来る事だった。その能力を使ってトギスはギップフェル島の上陸作戦で大きな活躍を見せている。

 ゴーレムはナタルマにその存在を知らしめると、投げ縄のワイヤーを掴んだまま大股に走り出した。

「ちぃ、そんな手でオイラを止められると思うな!」

 そう言うとナタルマはその場から駆け出そうとする。

 しかし右腕のワイヤーのせいで体が動かない。

「なっ?!」

 ナタルマが視線をゴーレムから右腕のワイヤーの先端に移す。

 そこでは動けなくなったキリンシャが懸命にワイヤーを引いてナタルマの動きを停めていた。

「ふざけやがって!」

 ナタルマは体に絡みついたワイヤーを振り解こうを右腕を上げようとした。

 しかしキリンシャのワイヤーと繋がった右腕はトギスの懸命の努力により思った様に動かない。

 一方、走り続けるゴーレムは森の中で一番大きな大木にワイヤーを一巻きさせると、そのまま力一杯引っ張った。

 その瞬間、左右から引っ張られたナタルマの体は瞬く間に大木に引き寄せられ行動の自由を失った。

「ぎゃっ!」

 幹に体が打ち付けられた瞬間、ナタルマから短い悲鳴が上がる。

 その間にもゴーレムは森の大樹を中心に幾度となく旋回を続けると、吐き出された巻きワイヤーでナタルマの体を幹ごと絡めていった。

 期せずしてナタルマは大木に体を縛られる羽目になる。

「手前ぇ……放しやがれ!」

 ナタルマが懸命に鋼線の縛めを振り解こうとした。

 しかし何重にも巻かれたワイヤーは既にナタルマの抵抗を奪っていた。

 もはや魔煌具の加護も関係ない。

 ワイヤーが大木に巻かれる毎に身動きが取れなくなり、体の自由を奪われていった。

「チクショウ! 離せ! 離しやがれ! オイラをペテンに掛けやがって!」

 大樹に縛られたナタルマが吠え立てる。

「こんなワイヤー……ぐぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬ!!」

 ナタルマが籠手の煌力を全開にしてワイヤーを力づくで断ち切ろうとする。

 その甲斐あってワイヤーはブチブチと音を立てながら二本、三本ほど切れていった。

 しかしその間にもゴーレムは旋回を続け、更に上からワイヤーの束縛を継ぎ足していく。

 結局、ナタルマは力尽きワイヤーから脱出する術を失った。

「勝負あったな」

 戦いを見守っていたカナセとラーマがナタルマの元に近付いた。

「ナタルマ! この勝負、トギスの勝ちで文句無いよな」

 カナセが笑顔でナタルマに言い放った。

 するとカナセの判定にナタルマが懸命に首を振る。

「うるさい! オイラは負けてない! まだ負けてないぞ!」

 ナタルマのプライドが決して自身の敗北を認めない。

「だったら十数える間にそこから抜け出してみろ。でないとお前は負けだ。十、九、八」

 カナセが突然カウントを始めると、ナタルマは全身に煌気を巡らせ力を込める。

「七、六、五……」

「オイラは負けてねぇ、負けてねぇ! あんな弱虫油虫なんかに負けてたまるかぁ!!」

 ナタルマが力を込めた瞬間、大樹の枝葉が大きく揺さぶられた。

 そして足元の木の根がミシミシと音を響かせながら土の上から引き抜かれようとする。

 まさにコケの一念、何よりも負ける事が大嫌いなナタルマの気合が地面から大樹を引き離そうとした。

「四、三、二、一、ゼロ!」

 しかし大樹が完全に引き抜かれる直前にカナセのカウントが終了した。

 ナタルマの敗北が決まった瞬間、ラーマが手にしていた注射器の針が少女の首筋に打ち込まれた。

 薬の中味は強力な睡眠導入剤だった。

 その一刺しを浴びたナタルマは大樹に縛られたまま眠りに付く。

 後はいびきを立てたまま動こうともしない。

「一番強力な睡眠薬だから、恐らく数日は眠りっぱなしね」

 そう言いながらラーマは悪魔の微笑みを浮かべた。

 勝負が終わるとトギスはマギアギアとゴーレムを元の形に戻した。

 キリンシャは総統府所有のバンに戻り、ゴーレムは憲兵隊の大型車に姿を変えた。

 トギスは壊れたバンから引きずり出されると憲兵隊の車に乗せられ森を発った。

 戦いを終えたトギスは疲れ切った表情でぐったりし別れの言葉も発しなかった。

 そしてナタルマも眠ったまま憲兵隊の車に運ばれていった。

 別れ際、少尉がカナセの前に立つ。

「総統閣下には御協力感謝致します」

「俺は別に構わないさ。そんな事よりトギスの事は頼むよ。くれぐれも優しく扱ってやってくれ。拷問なんてやめてくれよ」

「ハッ」

 憲兵隊の全員がカナセの前で敬礼を終えると彼等は去って行った。

「行っちゃったね……トギス、かわいそう。折角、頑張ったのの……」

 走り去る憲兵隊の車を眺めながらコリンが残念そうにつぶやく。

 パルッセ少尉はああは言っていたが、トギスが帰れば練兵場でキツい尋問と脱走の懲罰が待って居るはずだ。

 しかしそんなコリンの感傷をカナセは一蹴した。

「何言ってる、コリン。ここからが本番だ」

「本番?」

「そうさ、これからがトギス・エニール救出作戦の本番さ」


 その後、三人は屋敷の戻るとカナセは一枚の書類を大急ぎで書き上げた。

「ラーマ、何度も使っちゃって悪いけど最後の頼みだ。こいつを出来るだけ早くモンベル団長の元に届けてくれ。中味はトギスを総督府に異動させる為の辞令だ」

「これでトギス君を直接引き抜くのね」

「それでも数日間はトギスを練兵場に閉じ込める事になるかもだけど……」

「仕方ないわね」

 だがそれは全てカナセ達の書いたシナリオ通りだった。

 カナセは隠れ家を包囲された時の事を思い返す。

 その時のカナセは予定の変更を迫られた。

 相手にこちらの動きが読まれているのだから仕方がない。

「これは一旦、トギスを返すしか無いな……」

「ちょっと待ってよ!! カナセ、僕を助けてくれるって約束したよね!」

「ああ、約束したよ。俺は絶対にお前を見捨てないよ」

「じゃあ何で!」

「まあ、聞いてくれ。お前を練兵場に返した後、俺はモンベル兵団に言って練兵場から総統府に異動させる様に取り計らう。そうやってお前を地獄の練兵場から解放する。要するに多少の時間は掛かるが正攻法でいくって寸法さ。後、あの憲兵隊長に強く言ってトギスに酷い事をさせないように言い聞かせるよ。トギスにはその間、我慢してもらうしかないが、悪いがそこは辛抱してくれ」

「う、うう~……」

 不承不承だがトギスはカナセの案に従う他ない。

 だが問題はナタルマの方だ。

 帰って来たトギスをナタルマが笑って許すとは到底、思えない。それどころかカナセが玄関前で彼女を罵倒したせいで相当、お冠のはずだ。

 ならばトギスが練兵場に連れ戻される前にナタルマにトギスをこれ以上、虐めるなと言い聞かせる必要がある。

 だが言って聞く相手なら誰も苦労はしない。

 それを思うと玄関前でのナタルマへの罵倒は浅墓だったとカナセは痛感する。

 やはり他者の前で粋がって口汚い言葉を吐くのは慎むべきだと反省せざる得ない。

「さてどうしたものか……」

「なら物理的にナタルマの動きを止めるしかないわね」

「何か良い手はないかい? ラーマ先生」

「判ったわ、考えてみましょう」

 そうして思いついたのが睡眠薬の注射だった。

 ラーマの説明では睡眠薬は恐ろしく強力でトギスの異動手続きの間くらいはナタルマは眠らせていてくれるはずだという。

「けどその為には、どうしてもナタルマの動きを一瞬でも封じなきゃならないわ」

「動きを封じ込めるか……」

 その難題に暫しカナセは頭を捻る。

「トギス、ナタルマの前に出たら奴に喧嘩を吹っ掛けろ。そしてその喧嘩に勝って、お前が奴を封じ込めるんだ」

 そうカナセが切り出した時、トギスは顔面を蒼白にした。

「ちょっと、カナセ! 急に何言い出すの?! 本気で言ってるの?」

「本気も本気。俺達がその切っ掛けを作るから上手くやってくれ」

 要はカナセ達が憲兵隊の前に出てから催眠剤を打つまで、全てが最初から考えられていた三文芝居だった。

 ナタルマも憲兵隊のパッセル少尉も知らぬ間にこの芝居の役者の一人として舞台に上がらされたのだ。

 だがこの作戦ではどうしてもトギス自身がナタルマを拘束する必要がある。

「上手くやれって、何馬鹿な事言ってるんだよ! そんな事したら僕、死んじゃうよ!」

 無論、カナセの提案にトギスは難色を示す。

 戦って勝てる相手では無い事は目に見えているからだ。

「大丈夫だ。俺の言う通りに動けばトギスが100%勝てるから」

 だが動揺するトギスをカナセは懸命に励ます。

「勝てるって、何でそんな簡単に言えるんだよ!」

「そりゃ、俺がトギスが強い事を知ってるからさ。トギスはあのウラ鉄のエース、グレン・ハルバルトと戦って逃げおおせた強者なんだから」

「それって誉めてるの?」

「当然。そうだよな、ラーマ」

「カナセ君の言っている事は本当よ。グレン・ハルバルトと戦えば必ず殺されるっていうのがこの淡海の常識よ。生きて帰って来れたトギス君はもっと評価されるべきだわ」

「そ、そうかなぁ……」

「それともうひとつ、俺はナタルマの弱点を見抜いてる。俺だってアイツに一度コテンパンにやられた後、頭ん中で色々と考えたんだぜ」

「それであの人の弱点って?」

「ナタルマの奴は今のトギスを完全に見下している。それに限る。そんな油断で穴だらけになっている奴にトギスが負ける訳無いって」

「そんな~、弱点ってそんな事?!」

「いいや、一番大事な事だぜ。能力も大事だがそれを引っ張り出すのは何時だってやる気と本気だ。相手を舐めてるなんて論外だ。けど、やっぱり……。最後に決めるのはトギス本人だけどな」

「そんな事、言ったって……」

 カナセの発案を前に流石にトギスは躊躇する。

 そんなトギスにカナセは最後に言った。

「大丈夫だよ、トギス。俺は相棒であるお前を絶対に見捨てたりしない。だから戦ってくれ。俺にもう一度、背中を預けさせてくれ、戦友」

「それなら……判ったよ、やってみるよ」

 カナセに諭されながらトギスは渋々戦う事を選んだ。

 そんな時、外からナタルマの声がした。

「さっさと出て来やがれ、総統野郎! でないと建物ごとぶっ潰すぞ!」

「さあ、教官様がお呼びだ。俺達も出ようぜ。後はトギスに任せよう。期待してるぜ、相棒」

 カナセはトギスの背中を押した。

「よく言うよ……。けど約束は絶対に守ってよね」

 トギスも逃げるのを止めて隠れ家の扉を潜る。

 そしてナタルマに勝利したのだ。

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