第9話 白い履歴書
書類を書き終えた頃、クレアが応接室に入ってきた。
そして彼女の後ろからもう一つの人影が入室してくる。
現れたのは魔煌士の正装である長いローブを纏った小太りの男だった。
男はどこにでも居る様な中年だったが、ただ頭部の髪型が全周を真っすぐに切りそろえた独特のものだった。
その異彩を放つ髪型ははまるで。
「キノコのマッシュルームだ……」
カナセは出合い頭に思わず口に出してしまった。
「何か私の顔に付いているのかね?」
出会った瞬間、男もその一言で不機嫌さを露にする。
「エニールさん、彼がカナセ・コウヤです! カナセ君、こちらが今日、あなたを審査して下さるボン・エニール課長。組合の方よ」
嫌な空気を和ませようとクレアが互いの紹介に入った。
「エニールだ」
「こんちわ、カナセ・コウヤって言うんだ」
カナセは右手を軽く振って挨拶をした。
そこには相手に対し、謙る様な慎ましさは微塵にも感じられない。
それを見た途端、ボン・エニール課長は眉を曇らせクレアは顔を真っ青に引き攣らせた。
「さあ、カナセ君。書類は書き終わったかしら? だったらエニールさんに提出して」
クレアは場の雰囲気を取り繕ろうと慌てて話題を変える。
カナセはクレアに言われた通り書類を片手で提出するとボンはソファに座りながらそれを受け取った。
そこへフーレルがお茶を運んできてくれた。
エニールは運ばれてきたお茶をすすりながら提出された履歴書に目を通す。
だがそれを見たエニールの曇った表情は呆れ顔に変わった。
「リエル君、彼は本当に大丈夫なのかね?」
そう言いながらエニールは履歴書をクレアに渡した。
クレアは渡された履歴書を見て絶句する。
学歴と資格の部分は真っ白だった。ただ特技の部分にマルケルス神技と泳ぎとだけ書かれている。
確かにあんな辺境では資格どころか正規の魔煌教育など受けようがない。
だが赤の他人が闊歩する都会では相手が何者を知るために資格や経歴が重要視された。
それにエニール課長が彼をマルケルス神技の魔煌士である事を信じていないらしい事は表情を伺っただけで明らかだった。
「こんなんじゃ落としてくれって言っている様なものだわ……」
クレアはひとりで頭を抱える。
「リエル君?……」
「あ、はい! 彼の実力は本物です!」
エニールの不信感にクレアは慌てて取り繕う。
「カナセ君がマルケルス神技の継承者である事は間違いありません! 私自身、この目ではっきり見ました!」
クレアは必死にカナセを持ち上げる。
しかしエニールがいぶかし気な表情を崩す事はない。
「ところで履歴書には魔煌は独学で学んだ様に思われるが……」
「いいや、師匠に教わったよ」
エニールが聞くとカナセは無邪気に答えた。
「マルケルス神技をかね? 所でご尊師の御尊名は?」
「タタラ・ヘンジ」
誰よ、それ……。クレアが心の中で叫んだ。
その師匠たる魔煌士が高名な人物ならば履歴の足しに位なるかもしれない。
だが彼の師匠もこのヨシュアまで届かない無名の人だった。
エニールは再び聞く。
「君に会う前、クレア君がコアの発見が云々と言っていたが」
「正しくは魔煌探知とモーフィング・マギアです。それは間違いありません」
クレアは課長に念を押す。
「だがね、クレア君。そのどちらも高等魔煌技だよ?」
「何だよ、おっさん。俺を信じて無いのか?」
「カナセ君、落ち着いて!」
訝しむ課長の態度に流石にカナセもムッとする。
だがクレアが直ぐに間に入りカナセを諫めた。
それを見てエニールが言う。
「ではテストしていいかね?」
「テスト?」
「君の能力の真贋だ」
「いいぜ、任せてくれ」
カナセは気軽に答える。
売り言葉に買い言葉でもないが、こんな時にでもカナセは自信満々だ。
「では少し待って居てくれ給え」
そう答えると、エニールは立ち上がり一旦、部屋を出た。
「はぁ~……」
課長が居なくなったのを見計らってクレアが溜息を吐く。
「カナセ君、もっと真面目にしてよ……」
「俺は何時だって真面目だよ」
クレアの愚痴をカナセが言い換えす。
「あんな返答が真面目な訳ありますか! もしかしてあなた、お師匠様にもそんな言い方してたの?」
「ああ……。何か変だったか?」
「もう良いわ……。どうもお師匠様は目上の人との会話までは口やかましくなかった様ね……」
やがてエニールが応接室に戻って来た。両手には木箱が一つ抱えられている。
「ではこちらを見てくれ」
エニールは木箱から布袋を取り出した。布袋には何かが入っているのかジャラジャラと固い音がする
「この中に幾つかコアが入っている。そのコアがどれだけ入っているか当ててみせてくれたまえ」
だがエニールの頭の中では既に結論は出ていた。どうせ魔煌探知なんて口から出まかせだ。後は嘘を追及して追い返してやればいい。
するとカナセは布袋を見ながら答える。
「じゃあ、いいかい? 2番が三個、3番が三、6番が一、9番が二、11番が一の計十個だ。今の煌気の総量は……ざっと45煌力。どのコアもかなり使い込んでて相当、草臥れてるな」
カナセはエニールの問いに即答した。その答えに二人は声を失う。
袋を開けて数えてみるとカナセの言った通りの数と種類のコアが入っていた。
「むぅ、正解だ……」
エニールは何度も布袋の中のコアを数え直しながら思わず唸る。
「凄い! 凄いわ、カナセ君! 私にも出来ない事をやってのけるなんて!」
「ふふん、どうだい? 惚れ直しただろ!」
クレアが称賛するとカナセは得意げに鼻を鳴らした。
「エニールさん、彼は間違いなく掘り出し物の逸材です!」
クレアはエニールの方を見ると大げさに煽り立てる。
「いいや、まだモーフィング・マギアが残っている!」
エニールは首を横に振ると袋を箱に戻し応接室の扉を開けた。
「来たまえ。今度は外で煌装騎の審査だ」
三人は揃って応接室を出るとその足で組合本部の中庭へと向かった。
中庭には駐車場に一台の小さな農業用トラクターが止まっていた。
「これに乗ってまずは中庭を三周してみせてくれ。ただしコアだけを使ってだ」
エニールに請われるとカナセは言われた通りにトラクターに乗り込んだ。
トラクターは使い古されたせいで相当ガタが来ていた。
鍵穴には始動キーが刺さっておらずこのままでは動かす事は出来ない。
「安全運転の為、ハンドルくらい握っても良いだろ?」
「それ位構わんよ」
エニールが許可するとカナセは丸いハンドルを握り呪文を詠唱し始めた。
「ああ、勇ましきかな闘神マルケルスよ。我の骨となり肉となり百鬼羅刹を打ち滅ぼせ……」
詠唱を終えた途端、トラクターはその形のまま中庭を走り出した。最初の一週目は通常の速度で二週目からは猛スピードで中庭の砂利を掻き上げながら走り回る。
「ふん、問題なく動かせそうだな……」
エニールが素っ気なくつぶやく一方、クレアは審査結果に期待を寄せる。
「そうでしょ、エニールさん! 彼はきっとお役に立ちます!」
「まだ審査の途中だ。それに彼に品位が足りてないのは明らかだ。あれを安易に採用すれば伝統あるヨシュアの魔煌士組合の名を汚す事になる」
エニールはクレアの思いを袖にする。
やはりカナセの横柄な態度が気に入らない様だ。
「しかし今は有事です。優秀なマギナを遊ばせておくのは……」
そんな時だった。二人の背後から女の声が聞こえた。
「へえ~。今時、魔煌士審査? 珍しいわね」
二人が振り向くと中庭の扉に背を預けながらひとりの女が立っていた。
女は紫色のショートボブに眼鏡を掛けた美しい魔女だった。しかし魔女の証であるローブもケープも纏っておらず一般市民の変わらない婦人用のスーツだった。
魔女を見てエニールが声を上げた。
「おお、ラーマか……」
「ご無沙汰です。課長」
突然、現れた魔女の登場でボン・エニールは鼻を伸ばす。カナセに対する態度とはまるで正反対だ。
一方でクレアは紫髪の魔女の顔を見た途端、不機嫌そうな顔をした。
「何しに来たの? あなたには関係ないでしょ?」
「別に何でもないわ。組合の顔出しの帰りに寄ってみただけ。中庭で何か面白そうな事やってるみたいだから……」
「じゃあ、さっさとあっちに行って! 見世物じゃないんだから」
「別に良いでしょ? 邪魔する訳じゃあるまいし。ねえ、エニール課長」
「勿論だとも。正規組合員としての君の意見も聞かせて欲しい所だ」
「だ、そうよ」
ラーマは勝ち誇った様に答えた。こうまで言われればクレアも嫌とは言えない。
「ふん!」
クレアはラーマから鼻を鳴らしながら顔を逸らした。
一方、農業用トラクターの走行試験は三周目を終わろうとしていた。
「カナセ君、がんばって~」
一階の窓からフーレル嬢の応援する声が聞こえた。
それに向かってカナセも手を振るう。
「おう! 任せとけ!」
中休みの時間もあって、中庭に響くコアモーターの音を聞きつけた組合職員の多くが見物に訪れていた。
衆人環視の中でカナセを乗せたトラクターがエニールの前で止まる。
「三周回ったぜ、おっさん。おや? そっちの美人さんは?」
直ぐにカナセの目線が紫髪の美人に向く。
「初めまして。ラーマ・パトリックよ。医師をやってたりするけど巷では石像の魔女って呼ばれてるわ」
「カナセ・コウヤだ。よろしく美人のお医者さん」
「こちらこそ」
初対面の二人が互いに愛想を振り捲く。それを見てクレアに苛立ちが募る。
「カナセ君、審査中よ! もっと集中! それとラーマもちょっかい出さないで!」
「はいはい……」
クレアの怖い声にラーマも肩を竦めた。
エニールがカナセに次の指示を出す。
「では今度はトラクターをモーフィングさせたまえ。煌装騎に変形させるのだ」
その声に答える為、カナセはトラクターに呼び掛ける。
「立ち上がれ、マルケルス・ヴァイハーン!」
完全に少年の支配下にあるトラクターはあのリードヒルの戦場で見せた鎧姿の闘神に姿を変えた。
闘神は背中にトラクターの大きな車輪を背負っていた。だがリードヒルの時に比べ小柄でカナセの体も外に出たままだ。
「変えたぜ、課長さん」
「でも思っていたよりも小さいわね」
「機材の差だよ、美人先生。農業用トラクターなんかじゃあ、やっぱり質量に限界が出てくる」
「重ければ重い成り、小さければ小さい成りって事ね」
「では、つっ立ってないで何か動かしてみせたまえ」
「じゃあ、行くよ! おいっち、にー、さん、し!」
そう言いながらカナセはマギアギアに体操をさせてみた。
闘神の動きは滑らかで人の動きと寸分変わらない。
「体操だけなんて芸が無いわ。もっと動いてみせて」
すると今度はラーマが煽ってみせる。
「ふふん~。じゃあ、見てなよ!」
するとカナセは生まれ変わったトラクターを今度は中庭の右端から左端に向けて助走させた。
その勢いを使って続け様に前転飛びを三回ほど繰り返し最後に宙返りを披露した。
「凄いわ、カナセ君!」
クレアが思わず声を上げた。闘神の動きはリードヒルで見た時よりも更に敏捷さを増していた。
「機械でも本気を出せばここまで動かせるのね……」
それは彼女にとって新たな発見でもあった。
その後も重い機械がまるで一流の体操選手の様な動きを繰り返す。
「いいぞ~、兄ちゃん!」
「かっこいい! 素敵よ~」
今度は組合職員達の間から喝采が沸く。
組合本部の中庭は今や闘神の舞踏会場と化していた。
「どうです、エニールさん! こんなにマギアギアを扱える人は早々居ないと思いません?」
そんな歓声に後押しされながらクレアが必死になってカナセを推す。
しかしマッシュルーム頭は今も渋い顔だ。
「こんなものは曲芸だ! 有事の際に使えるとはとても思えん」
「では審査を実戦形式に切り替えては如何でしょう?」
そう提案したのはラーマだった。
「実戦形式? どういう事だね?」
「こういう事で御座いますわ」
エニールが尋ねるとラーマが中庭で停車していた二台の審査用の乗用車に目を付けた。
そして車体の前で突然、呪文を唱える。
乗用車は青い光に包まれると瞬く間に形を変えた。
現れたのは鋼鉄で出来た厳つい二体の魔神だった。
「さあ、お行きなさい。ブージン、フージン!」
二体の魔神が動き出すと、早速、ヴァイハーンを囲んだ。
この瞬間、トラクターの闘神は逃げ場を失う。
「なんだ? 試験の続きか?」
カナセが不審がる。エニールからは何も聞いてない。
だがその直後、魔神達がヴァイハーンに襲い掛かった。
鼻息も荒くブージンと名付けられたゴーレムの拳が飛ぶ。それをヴァイハーンが右腕でいなす。だが薄い鋼板を削る衝撃がカナセの乗る操縦席を大きく揺らした。
「うわあああああっ!」
突然の攻撃にカナセも驚きを隠せない。
「いきなり実戦スタイルかよ!」
カナセが思わす吠える。
しかし二体の魔神の攻撃はここからが本番だ。
二体は前後、挟み討ちにしてヴァイハーンに殴り掛かる。
それをカナセは必死に避けるが何発かが命中する。
殴られる度にトラクターのボディが陥没する。
コアが小さすぎる為、光の障壁の効果が薄い為だ。
それを見ていたエニールとクレアの顔色が真っ青に変わる。
「な、何をやらせてるの!」
「ラーマ! 私に恨みでもあるのか!」
「いいえ、私としては石像の魔女として審査のお手伝いをしたまでで……」
二人の声にラーマは肩を竦めて弁明した。だがその顔は明らかに目の前の状況を楽しんでいる様に見える。
一方、突然起こった中庭での戦闘を前にエニールとクレアの二人は狼狽し続ける。
「嗚呼、こんな事で戦闘なんて……。組合の施設に傷でも付けたら……」
「ラーマ! いいから、今すぐあのゴーレムを止めなさい!」
クレアがラーマに詰め寄った。しかし二体の魔神が止まる気配が無い。
「あら? おかしいわ。さっきから止まれって命令してるのに止まらないのよ」
「何ですって?!」
「まあ、心配しないで。二体ともブチ壊せば流石に止まるから……」
「カナセ君、逃げてぇ!」
クレアがヴァイハーンに向かって大声で叫んだ。
しかしカナセの周囲は既に逃げて済む状況ではなかった。
ヴァイハーンと石像の魔神が本格的な取っ組み合いを始めていた。
組み合った両方の機械からギリギリと鋼の軋む音がする。
「ああ、もう何をやってるのよ! 早く逃げなきゃ……」
「待ってくれ、リエル君!」
クレアが頭を抱える横でエニールの遮る声が聞こえる。
「あそこで彼に逃げられたら暴走したゴーレムはどうなる?! それこそ私の責任問題に!……」
「じゃあ、カナセ君にここでこのままやられてしまえって仰るのですか!」
「そうは言っとらん! 彼が上手く事態を収拾してくれれば……」
「そんな、勝手な!」
「倒せば何だって? マッシュルームのおっさんよ!」
今度はフージンと組み合うヴァイハーンから声が聞こえた。カナセの声だ。
「マッ! 誰がマッシュルームだ!」
カナセの一言でマッシュルームは怒髪天を衝く。
「あははははは!……マッシュルームですって! 上手い事、言うわね」
その横でラーマが腹を抱えて笑う。
そんな中、カナセがエニールに言った。
「倒せばこの審査で合格ってのはどうた?」
「わっ、私に取引しろというのか?!」
「別に俺はここから逃げても構わないんだぜ。今回の審査で落とされても次があるんだ。だがそうなると次の審査員はおっさん以外の誰かって事だよな!」
「ぐぬぬぬぬぬ……」
小僧の小生意気な言い方にエニールは体を震わせる。
しかしここは背に腹は変えられない。追い込まれているのはエニール本人なのだ。
「わ、判った! 便宜を図る様、前向きに熟慮しよう……」
忍の一文字でエニールは要求を飲み込んだ。
「よし、取引成立だ。その言葉、忘れんなよ!」
カナセは巨人の中でほくそ笑むと今度は一転、取っ組み合いから距離を取った。
「転射盤弾!」
技名を唱えた瞬間、背中の車輪を一つもぎ取るとゴーレムの一騎に投げつけた。
車輪は回転しながら飛ぶとブージンの頭部に命中した。しかし当たりは弱く、相手を怯ませる程度の効果しか生まない。
だがそれで十分だった。
カナセはブージンが怯んだ瞬間、ヴァイハーンを大きく跳躍させた。
そして空中で何度も体を回転させ遠心力で力を溜め込むと、勢いよく降下し片脚を突き立てた。
「マルケルス奥義! 蹴撃脚翔破!」
ガンッ、と鉄を打つ音が中庭で轟く中、ブージンの胸部にヴァイハーンの片脚蹴りがさく裂した!
魔神の胸板には飛び蹴りによる深い陥没痕が一瞬で刻まれる。
更に衝撃に負けたブージンの巨体はそのまま本部の窓枠に背中からぶつかると、嵌め込まれていた窓ガラスを粉雪の様に砕け散らせながら転倒する。
「キャアアアアアア!」
見物していた職員達がガラス片を頭から一斉に浴びた。
館内の悲鳴を聞いた瞬間、エニールは泡を吹く。
だがヴァイハーンからの必殺の蹴撃は功を奏し、ブージンの巨体は本部の鉄製の窓枠に押し込められ動かなくなった。
早々にブージンが倒れるとカナセが残ったフージンに狙いを定めた。
「さあ、これで一対一だ! 来いゴーレム野郎!」
カナセが挑発すると残されたフージンがヴァイハーンに襲い掛かる。
だがヴァイハーンは素早く相手の背後に回り込むと左足同士を絡める様に固め技に入った。そしてそのまま相手の右わき腹下に自分の体を潜り込ませ、更に左腕を相手の首に巻き付ける。
「いっけえぇぇぇぇ!」
カナセの掛け声と共にヴァイハーンの背筋が力いっぱい伸び上がった。すると背後から抑え込まれたフージンの肋骨あたりからギリギリと鉄が軋む音が響く。
「何なの、あの技?!」
流れる様な決め技にクレアが茫然する。
「コブラツイスト。災厄前は盛んだった古代パンクラチオンの関節技よ」
それをラーマが嬉しそうに解説した。
「関節技ってカナセ君、格闘技も使えるの?」
「モーフィング・マギアは戦闘魔煌技よ。魔煌士は魔煌技と一緒に戦闘技術も教え込まれるのが基本だもの。知っていて当然よ」
やがてヴァイハーンの固め技に耐え切ずフージンの胸部がバキバキと音を立てながら裂けていった。
そこからコアの青い光が漏れだすとカナセは素早くヴァイハーンの腕を突き入れフージンからコアを抜き出した。
「鮮やかな手際ね」
それを見てラーマが感心する。一方、コアを抜かれたフージンは瞬く間に術から解放されスクラップと化した乗用車になり果てた。
「ひえぇ~~!」
動かなくなった二体のゴーレムを前にエニールが腰を抜かす。
一方で戦いを終えたカナセがヴァイハーンから身を乗り出すと、職員達からの惜しみない歓声と拍手が送られた。
「凄いわ、カナセ君! 魔煌士組合はあなたを歓迎するわ」
窓からフーレルが投げキッスで祝福した。
「いやぁ~ありがとう! ありがとね~」
勝利者たるカナセは観衆の前で両手を振った。
その有様はまるでヒーロー気取りだ。
そんな中、クレアもホッと胸を撫で下ろす。
何よりカナセが無事で良かった。
しかもゴーレムを倒したあの手際の素晴らしさは確かに賞賛に値する。
その隣でエニールは悔しそうに地団駄を踏んでいた。この調子ではイヤでもカナセの組合加盟を認めざる得ない。
一方で騒動の当事者であるラーマ・パトリックはいつの間にか姿を消していた。
クレアがそれに気付いたのは観衆の喝采が落ち着いた後だった。