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第10話 555號破壊作戦

 やがて深夜になるとカナセとデニスは集合場所へと集まった。

 集合場所でタータ大尉が作戦内容を確認する。

「作戦は予定通り三十名全員が五艘のボートに分乗し555號に艦尾から乗り込む。最初に二十名の制圧班が艦尾を確保、残り十名の起爆班がその後に潜入、艦内に爆弾を仕掛ける。閣下は起爆班として艦内に私と同行して下さい」

「了解。任せといてくれ、こう見えてもヨシュア水軍で潜入活動は経験済みだ。お役に立つぜ」

「頼りにします。全員、作戦遂行中は常時、気を引き締める事!」

 月も無く湾内が完全な闇に包まれると作戦が開始された。

 三十人は五艘のボートに分散して乗ると湾の沖合で煌々と灯りを灯す最新鋭戦艦へと向かっていった。

 メイヴィスは制圧班に分かれ、カナセはデニス、そして隊長のタータと一緒に爆破班の舟に乗った。

 移動の最中、デニスはカナセに小声で語りかける。

「しかしさっきのは予想外だったな……」

「うん、あの禍つ青きって奴等がこんな所まで追って来るなんて……」

 カナセが溜息を吐く。

 全く、何だって言うんだ? お陰でリーナに自分達の事をバラす羽目になった。

 だがその襲撃のお陰で二つの事が判った。

 まず禍つ青の連中の存在はウラ鉄の中にも根を張っている。あのウラ警の攻撃はそうだ。

 そして奴等はカナセがここに来る事を知っていた。それはファイタスからウラ警に情報が盛れていたという事だ。

 暗殺者は両陣営に居る。それはカナセにとって安全な場所がこのロータスにはどこにも無い事を示していた。

「こんな調子じゃぁ、四六時中気を張ってなきゃいけないって事だよな……」

「まあ、有名税って奴だな」

「勘弁してくれよ……プライベートくらいは静かに暮らしたいんだ……」

 カナセの顔からウンザリした表情が浮かぶ。

「帰ったら俺達の方でも警備体制を考える。それまで辛抱してくれ」

 そう言ってデニスはカナセを慰めた。

 そんな二人の会話が横に居たタータ大尉の耳にも入る。

「なにか、遭ったのですか?」

 大尉が聞く。

「いいや、気にしないで。もう終わった事だよ。さあ、目の前の作戦に集中だよ、大尉」

 そう言ってカナセは大尉からの質問を誤魔化した。

 やがてカナセ達を乗せたボートは沖合の巨影に近づいていった。

 555號の周囲には三隻のウラ鉄水軍の小型艇が巡回していた。

 サーチライトの光を灯しながら小型艇がこちらに迫って来る。

 するとファイタス側からも欺瞞工作が行われた。

 ボートのコアモーターが切られた後、乗っていた魔煌士達による無声詠唱が発動され周囲に黒い霧が立ち込める。

 霧はボートを覆い尽くすと、サーチライトの光を吸い込み小さな船影まで届く事はない。

 その後、小型艇が離れていくとボートは残りの距離を手漕ぎで進んだ。

「閣下、555號のコア・モーターの様子はどうでしょう?」

「真ん中にとてつもなくデカい100番コアが四つ。合わせて一万五千煌力」

「データの通りですね。やはり閣下に来ていただいて正解でした」

 カナセが戦艦を眺めながら囁くと横でタータがニヤリと笑った。

 彼の立てた作戦は至ってシンプルだった。船体の一部を制圧し中に潜入してありったけの爆弾を仕掛けて船体を内部から破壊する。

 現在、艦内の乗員は工廠の作業員と警備兵だけのはずだ。

 ただ警備兵の数が良く判らない。もしかしたら警備用のタレットがある可能性もある。

 やがて先頭のボートが敵戦艦に接触した。

 五艘の小舟が横付けされると折りたたみの梯子が艦の艦尾に掛けられ、先にメイヴィス達、制圧班が乗り込んだ。

 潜入後、暫くして制圧成功を知らせる合図が来た。

 カナセは起爆班として爆弾の入った背嚢を背負いながら梯子を上る。流石、喫水が深いだけあって乾舷が城壁の様に高い。

「本当にデカいなぁ。……」

 これで塩の外海に乗り出すのかと思えば感動すら覚える。しかしカナセはまだ本物の塩の外海を見た事が無い。

 カナセは555號の甲板に降り立った。

 前からメイヴィスの声が聞こえる。

「怪しまれない様に作業用の照明はそのままだから注意して。幸い、タレットの類は置かれてないわ」

「甲板の制圧は?」

「この人数じゃ艦尾が精一杯よ。だから気を付けて。前の方には警備兵も作業員もまだいっぱいだから」

 メイヴィスの説明を聞きながらカナセが前方を見上げた。

 そこには古代の城の様な荘厳な艦橋と要塞砲の様な砲塔がある。

 だが古城と違うのは、その全てが厳めしい鋼鉄の装甲板で造られていた事だ。

 これに比べたら巨艦で知られたヨシュア艦隊の旗艦「ヨークタウン」ですら小舟にしか見えない。

「こんな物が連合艦隊に向かって発砲されたら……」

 恐らく、どんな船も一溜りもなく淡海の藻屑に変えられるはずだ。

 カナセ達、起爆班が忍び足で前へと進む。行く先には仲間によって制圧された船内へと通じる扉があった。

 扉の中に入るとどこからか金属の焼ける匂いが漂う。深夜なのに作業員はまだ仕事をさせられているのだ。

「どこまで作業が進んでるんだろう?」

「もう細かな手直しだけだと聞いてます。動力機関の試運転は完了し、今は魔煌探信器の試験や砲弾や爆薬の積み込みが同時に行われているという情報です」

「じゃあ、もう動き出して湾の外に出てもおかしく無いって事か……」

 なのに工事が終わっていない所を見るとよほどの突貫工事らしい。

 十人の起爆班は狭い階段を降り、艦底に辿り着くと機関部に到着した。

 広い洞窟の様な機関部の空間には四つの巨大なコア・モーターが二列に並んでいた。

 天井には熱を逃す排熱口まで備わり、そこまで届くほどの巨大魔煌発動機を前にデニスが息を飲む。

「凄ぇな……これが100番を使ったコア・モーターか……」

「確かにこれを超えるとしたら箱舟の450番くらいだろうな……」

 それにカナセも答える。

「さあ、早く作業を済ませましょう。私達三人は一番奥の右側の発動機を狙います。私が外側から、二人は反対の内側から爆弾を仕掛けて下さい」

「爆弾の起爆は?」

「船に起爆用の魔煌具が積んであります。それで遠隔操作しますのでご安心を」

 用意周到なタータの言葉にカナセとデニスが頷く。

 二人は一番奥、すなわち船首から見て一番前のコア・モーターに辿り着いた。

 そこには小さな回転音を上げる異容の機械が船底の主の如く鎮座していた。

 手を近づければほんのりと温かい。既に動力内には火が入っている証だ。

 二人は背負っていた背嚢を床に下ろすと仕掛け爆弾を取り出し、目の前の鋳造の鉄塊に張り付けていった。

「どうだ、カナセ。こっちは終わったぞ?」

「待ってくれ。これで最後だ」

 作業は何のトラブルもなく順調に終わった。

「案外、簡単だったな……」

「まあ、順調なら作戦なんてそんなものさ。だが、まだ油断は出来ない。後は皆が無事、脱出して船が沈むまでが勝負だ」

「そんな事よりデニス。本当に良かったのか? リーナさんの事」

「何だよ、こんな時に藪から棒に……」

「いや、やっぱり気になるんだよ。あのままデニスが突っぱねた形で終わらせたのが」

「カナセ、それは大きなお世話ってもんだ。それに今は作戦中だ。さっき言ったばかりだろ、油断大敵だって」

 そう言ってデニスは聞く耳を持たない。

「さて、あとはタータ隊長の方だな。隊長、そっちの調子はどうだい?」

「すいません、総統閣下。あなたのコア探信の能力をお借りしたのでこちらに回って頂けませんか? デニス班長は我々の前方で監視を」

「了解」

 二人は言われた通りに動き出した。

 デニスは更に奥に進み、カナセは目の前のコア・モーターをぐるりと回り込んだ。

「しかしコア探信の能力を借りたいなんて、今更何だろう? もしかしてコアを直接破壊するつもりなのかな? 危険な作戦だってのに生真面目な人だなぁ。まあ、自分が立てた作戦だから気負っているのかもしれないけど……」

 しかし当のタータの居るはずの反対側に回っても彼の姿はない。一方、爆弾は既に仕掛けられた後だった。

「あれ、変だな? タータ大尉~」

 カナセは小声でタータに呼び掛けた。

 しかし返事は返って来ない。

 代わりに聞こえて来たのは甲高い警報音だった。

 けたたまし機械の唸り声が製作途上の艦内を駆け巡る。

「なっ?!」

 その音にカナセが茫然とした。

 こちらが見つかった?! 普通に考えればそうだ。もしかして、ウラ鉄側の艦内作業のトラブルかも……。否、こんな時は常に最悪な場合を想定すべきだ。

 そんな時、カナセは暗闇から現れたタータの姿を見付けた。

「総統閣下! これは一体?」

「大尉、今までどこに?!」

「そんな事より、カナセ! 大尉! アンタらはここから先に脱出してくれ! 奴等、もうこっちに来てやがる!」

 前の方でデニスの声が聞こえると、すぐに銃撃戦が始まった。

 銃声が轟く中、デニスが二丁拳銃で応戦を始める。

「カナセ、早く行け! ここは俺が引き受けた!」

「けど、デニス!」

「良いから行け! お前の命はもうお前だけのモンじゃ無ぇんだ!」

「嗚呼、こんな時に格好付けやがって!」

「閣下!」

 背後からタータも呼び掛ける。彼もカナセの脱出を望んでいた。

「あ~あ、もう! 死ぬなよ、デニス!」

 仕方なくカナセはデニスを置いてタータと機関部を離れた。

「閣下、私の後に!」

「判ってるよ!」

 カナセはタータの走る後を追った。

 照明もまばらな狭い艦内、何枚もの隔壁扉を越えながら二人は懸命に出口へと向かう。

 だが艦の廊下はどこの似たような形だ。水軍で戦っていたカナセですら、今、何処を走っているのか判らなくなっていく。

 それにどれほど進んでも一向に上へと続く階段に辿り着く気配が無い。

 おかしい、明らかに行きより帰りの方が時間が掛かっている。

「た、大尉! ちょっと、ちょっとストップ!」

 カナセが叫ぶと前のタータが急停止した。

「何です、閣下! こんな時に止まるなんて! 敵はすぐ後ろまで迫って……」

「それよりも、大尉、今、どこを走ってるんだ?」

「そんな事、決まってるでしょ! 外に向かって……」

「ならいつになったら俺達、外に出られるんだ?」

「それは……」 

 流石の兵団きっての参謀も言葉に詰まる。

 どうやら彼も自分が道に迷った事に今更、気付いた様だ。

「大尉、引き返そう。そして降りてきた階段を見つけて脱出するんだ」

「しかし今、戻れば接敵する可能性があります。ここは仲間が来るのを待った方が……」

「冗談言うな! ここは敵地だ。メイヴィスが探しに来る前に敵に見つかっちまうよ!」

 そうカナセは決め付けた。それを聞いてタータも考えを改める。

「判りました。閣下の判断に従います。船にお詳しい閣下が先行して下さい。私が前に進めばまた迷うかもしれません。代わりに後ろを固めます」

「うん、背中は任せたよ」

 そう言ってカナセは今まで走って来た反対方向に体を向けた。

 そして再び走り出そうとする。

 だがその直後、背後から異様な気配を感じた。

 気配は常人では感じ取れない、パンクラチオンを幼少より学び、幾つもの戦場を潜り抜けて来られた戦士のみが敏感に感じる事の出来る実体のない異物……。

 それはすなわち殺気だった。

 カナセが刹那に振り向く。

 そこには今までに見せた事も無い形相で飛び掛かるタータ大尉の姿があった。

 彼の手には厚手のアーミーナイフが握られており、切っ先がカナセの眼前に迫る。

 僅かな照明の光が凶器の白刃を照り返す。それにカナセは戦慄した。

 だが同時に戦士としての本能が眼前の窮地に反応する。

 カナセの両腕がナイフを握る拳に掴み掛かり、切っ先を我が身の寸前で停止させた。

 カナセの背中が廊下の壁にぶつかった。

 逃げ道を失う中、タータがナイフを押し込もうと渾身の力を籠める。

「ぬううううううううううううううう~!!」

 タータの喉の奥から獣の様なうめき声が聞こえる。

 一方、タータからの一刺しから逃れようとカナセも必死に胆力を集中させる。

 狭い廊下の中で命を懸けた力比べが始まった。

 しかしナイフはカナセの鼻先に止まったまま、一向に動く気配が無い。

「な、何故た……」

 カナセが殺人鬼に豹変したタータに向かってつぶやく。

 するとタータが力んだ声で返す。

「禍つ青き光の滅却を!」

「青きって……あんたもか、大尉?!……」

 カナセは圧し掛かろうとするタータの股間を思わず蹴った。

「うっ!」

 カナセの膝蹴りを受けてタータが一瞬怯む。

 更にそこで肩肘を翻らせ、タータの顎に肘鉄を入れた。

「うがぁ!」

 頬を打たれたタータが思わず呻く。

 カナセはタータが離れた隙に彼から距離を取った。

 だがタータの手にはまだナイフが残っている。

「何故だ! 何故、俺を狙う! もしかしてアンタ、ウラ鉄のスパイだったのか?!」

 そうだ! そうに違いない! カナセは確信する。そして全てが合点がいった。宣誓式で襲われたのもカルデナの街中で襲われたのも皆、ウラ鉄のスパイであるこのタータが後ろで糸を引いていたのだ。

 だがそれをタータ本人は否定した。

「違う! 私は正真正銘、ファイタスの戦士だ! だが更に高尚な理想と責務の下で戦っている!」

「高尚な理想?」

「そうだ……。そして同志と共に、その理想成就の為に戦っている!」

「理想って……ならそれは何だって言うんだ!」

「魔煌文明の滅亡!」

「魔煌文明の……滅亡だって?」

「それこそが我等の本懐!」

 そうタータは厳しい形相で答えると、再びカナセに切り掛かった。

 ナイフはカナセのすぐ傍を横切りると、上着の一部を切り裂き皮膚から血を滲ませた。

「クソ、避け損ねたか……」

 だがそれ以上にタータから発せられた言葉の突拍子も無さに理解が追い付けずにいた。

「何で文明が滅亡しなきゃいけないんだ! 文明が滅亡したら人間だって滅亡するんだぞ! お前だって死んじまうんだぞ!」

「それこそ我等の望み! 我欲に溺れ自然を汚し続ける思い上がった人類に、神に変わって粛清の罰を与える! 何とも明快、何とも単純。故に美しく、そして合理的な行動原理!」

「そんな勝手な!」

「勝手ではない! 既に神は御意思を掲示されておられる。アイスインパクトとコアの生産不能、それこそ神からの審判。人類はその審判を受け入れ、ゆっくりと己の罪深さを自覚しながら滅亡を受け入れるべきなのだ!」

 タータの主張にカナセは茫然とする。

「そんな……死にたいなんてどうかしている!」

 明らかにおかしい。自分すら巻き込んだ人類の粛清。それは他人を巻き込んだ迷惑な自殺に過ぎない。

 それは向上心が衰えず世界に絶望もしていない、心身が常に希望に満ち溢れたカナセには理解できない発想だった。

「それでどうして俺の命が……そうか! 新生魔煌技か!」

「そうだ! 我等、『審判の会』は邪法復活の阻止に立ち上がらねばならん! 例え、我等全てが淡海に朽ち果てようとも!」

 そう言い終わるとタータは三度目の突進を敢行した。

「禍つ青き魔煌の光の滅却を! ジオの地に浄化の風を! 神の意思を今ここに!」

 それに対してカナセは魔煌障壁を展開させ斬撃を止める……つもりで居たのだが障壁が発動しない。

「何で?!」

 カナセが青ざめながら持ち歩いているコアの位置を確かめる。左側の上着のポケット。だかそこには先ほどタータにナイフで斬られた痕が残っているだけだった。

「しまった! コアを……」

 落としてしまった事に気付いた時には手遅れだった。

 何故なら既に、ナイフの切っ先は避けられない位置まで迫っていた。

「刺される!」

 カナセの現状認識がそう結論付けた。

 だがその瞬間、背後から銃声が響き、眼前に迫ったタータの肩を撃ち抜いた。

「ぐわぁ!」

 タータの体が鮮血を流しながら弾き飛ばされる。

「カナセ!」

 背後からデニス・ワイルダーの声が聞こえた。

「デニス! よく無事で……」

 命拾いした事にカナセは心の底から安堵する。

 カナセを救ったのはデニスの発砲だった。理由は知らないが現状でタータがカナセに切り掛かって居たのだから当然の判断だった。

「一体、何が?」

 今になってデニスが聞く。

「それよりもタータを……あっ!」

 だが既にタータは傷付きながら隔壁扉を閉めていた。

「逃げるな! まだ聞きたい事が……」

 カナセは閉じられた隔壁扉を何度も叩く。

 それをデニスが止めた。

「止めておけ。そんな事よりもここから脱出た!」

「けどタータの奴が……」

「爆弾は仕掛け終わったんだ! 奴の事は放って置け!」

 デニスにそう言われ、カナセは仕方なく目の前の隔壁扉を後にした。

 カナセとデニスは来た道を戻っていく。

 走りながらカナセがデニスに訊ねた。

「けど、よく俺を見つけられたな……」

「なに、こっちが迷っている最中に偶然、総統閣下を発見したのさ」

「だったら俺と同じ迷子か……」

「迷子って、じゃあ俺達、また出られないのか?!」

「なら次の偶然が起きる事を祈るしかないな……」

 そんな事を言い合っている間に二人の前に次の偶然が訪れた。

 上へと昇る階段を見つけたのだ。それに階下にはメイヴィス達解放戦線の連中が待って居てくれた。

「あなた達、無事? タータ大尉は?」

「大尉は裏切り者だ! 俺の狙ってた暗殺者の一人だった」

「そんな……」

 その事実を前に流石にメイヴィスも驚きを隠せない。

「それよりもメイヴィス、ここから脱出だ。爆弾は仕掛け終わってるんだ。海上に出たと同時に起爆。そのままカデルナから全員離脱する!」

「了解!」

 カナセ達が甲板に上がると他の仲間達が懸命に敵の攻撃を持ち応えてくれていた。

「撤退だ! 全員退却!」

 カナセが声を上げると皆が手りゅう弾を投げる。

 闇夜の方々で爆発が起きる中、その間に残った隊員達は舟に乗り込み555號から脱出した。

 カナセ達もその内の一艘に乗り込むとメイヴィスの舵でボートを走らせた。

 しかし555號から伸びるサーチライトの光が水上の五艘の姿を発見する。

「見つかった!」

 皆が同時に叫んだ直後、戦艦から発砲の閃光が瞬いた。

 放たれた数発の127㎜砲弾が同時に着水すると、水柱を立てながら激しく水面をかき乱す。

 着弾の一番近くに居たのはカナセ達を乗せたボートだった。

 狂ったような奔流の中で小舟が翻弄される。

「うわああああ!」

 波を被りながらボートの上で男達が一斉に悲鳴を上げる。

「騒ぐな! 男の癖にだらしない!」

 その後ろでメイヴィスが叱咤しながら懸命に舵を切る。

「誰か、爆弾の起爆を!」

「まかせろ!」

 メイヴィスの声にカナセが答える。

 カナセはタータが残した起爆装置に飛び付くと安全装置を外し起爆レバーを押した。

「喰らいやがれ!」

 レバーを押しながらカナセが叫ぶ。

 これで最新鋭戦艦の中央から爆炎が昇り、巨大な艦影が真っ二つになるはずだ。

 しかし海面で爆発が起きた痕跡はなく、今も巨艦から発砲音だけが轟く。

「な、なぜ?……」

 爆発が起こらない事に疑問を感じたカナセが何度もレバーを押す。

 しかし何度押しても艦の機関部から爆発が起きることは無い。

「タータの奴……もしかして爆弾の起爆装置を外したか?」

 もしくは起爆装置自体がタータにしか扱えない仕掛けを施されているかのどちらかだ。

 しかしそんな事を考えている必要は次の瞬間、無くなった。

 ボートのすぐ間近で127㎜砲弾が再び着弾した。

 あまりの至近距離で砲弾の破片がボートの中に飛び込んでくる。

「うわっ!」

 その威力にカナセが思わず怯んだ瞬間、砲弾の破片が起爆装置に命中した。

「しまった! 起爆装置が!」

 これでもう真実が何であれ起爆装置が作動する事はない。

 同時にこの作戦の結果を決める事となる。

「メイヴィス、作戦は失敗だ! このまま全速力で離脱しろ!」

「何ですって?!」

「さっきの砲撃で起爆装置が壊れちまったんだよ!」

 そうとなれば後は戦艦を背に逃げ切るしかない。

 メイヴィスの舵はボートを闇夜の中へと走らせた。

 遠く、出来るだけ遠くに……。

 後の四艘はどうなったのか判らない。皆が自分達が生き残るので精一杯だ。

 そして逃走経路は二つ、外の堤防側かカルデナ市内へと続く港の方か。

 湾外に出るには再び555號の方へと向かわねばならない。

 メイヴィスは港に向け舟を走らせた。

 そんな中、デニスが仲間の手を借りて傷の治療を始めた。ポンチョの下の左わき腹から血が滲み出ている。

「やられたれたのか?」

 カナセが訊ねるとデニスが頷いた。

「ああ、さっきの砲弾の破片にやられた様だ……」

「大丈夫なのか?」

「ああ、問題ない」

 仲間はデニスの体にさらしの様な包帯を腹部に巻くと最後に痛み止めの注射を打とうとした。

「いや、注射はいい。打たれると判断が鈍る」

 デニスは痛みを堪えて注射を断った。

 そんな中、淡海の上でも異変が起きる。

 背後の新鋭戦艦が全速力で航行し始めたのだ。

 巨艦の艦首が港に向かって白波を切る。

「奴等、こっちを真っ直ぐに追いかけて来る!」

 どうも他の舟を見失ってこちらだけに狙いを定めたらしい。

「ちょっとは迷えよ、バカ!」

 カナセが戦艦に向かって叫ぶ。すると今度は主砲塔の一つが火を噴いた。

 主砲弾の口径は203㎜。洋上艦の中では現在、世界最大の大口径だ。

 着弾と同時に先ほどよりも更に大きな水柱が小舟を掬い上げる。

 しかも威力が尋常ではない。海面が盛り上がり小舟を高波によって遠くに弾き飛ばす。

「うぎゃああああああああ!!」

 再び舟の中で男達が悲鳴を上げる。

「これじゃあ、遅かれ早かれ海の藻屑だ!」

 その中でカナセも一瞬、不安になる。しかしそれを仲間の前で出してはいけない。

 今の自分はファイタスの総統なのだ。指導者の不安はそのまま部下に伝播し、混乱の引き金になりかねない。

 むしろ逆に皆の気持ちを鼓舞せねば……。

 しかし流石にこの状況で励ますとまではいかず、カナセも歯を食いしばって耐えるので精一杯だ。

「これから岸に向けて強制上陸する。皆、陸に上がったら何かに身を隠せ! カナセ君も私から絶対離れないで!」

 この中で一人、メイヴィスだけが気を吐くと、小舟は波に乗りながら港へと進んだ。

 すると今度は前方から機銃による攻撃が始まった。

 騒ぎを聞いて集まって来た沿岸警備隊の船がこちらを発見して砲撃してきたのだ。

「こぉの!」

 皆が頭を抱えて伏せる中、メイヴィスが舵を切った。

 そして警備艇と警備艇の間隙を縫って港の灯りに向かって突進する。

 カルデナの港は二つある。それは一般船舶が停泊する民間の港と、それに隣接するウラ鉄の水軍基地がある軍港だ。

 無論、メイヴィスが向かったのは民間の港だ。

「行くわよ! 全員、何かに捕まれ!」

 ボートは港に進入すると岸壁に設置されたスロープと呼ばれる小さな坂の上に乗り上げていった

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